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[Revenant/Fantome]

[05]第一話 白き騎士ヘリン

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こんな寂しい思いをさせている父をこんなにも慕っている。

優しい娘だ。

この子の為にも平和で安心して暮らせる国にして行かなければ。

 「イベリス。私はまた出陣をしなければならない。寂しい思いばかりさせてすまない。だが、必ず、君の元へ戻ってくる。平和な国にしよう」

ヘリンはイベリスの頭を再び優しく撫でた。

必ず戻って来よう。

ヘリンは心にそう誓った。

 「ヘリンお父様、気を付けて行って来てください。私はいつでもお父様の事を思っています」

イベリスの言葉を背にヘリンは図書室を後にした。

城の城門へと続く渡り廊下を歩いていると、アルフレッドが盾と外套を持ち立っていた。

「待たせたな。アルフレッド」

それに気づいたヘリンは、アルフレッドにそう声をかけた。

出撃の準備をし、ヘリンを待っていたのだ。

アルフレッドに近寄ると、その手から外套を受け取り、肩にかけ巻きつけた。

外套につけられていたブローチで落ちないように留めると、アルフレッドから盾を受け取った。

 「いいえ。しかし、もう少しゆっくりして行かれてもよろしかったのではありませんか?」

盾を肩から掛けるヘリンを見つめながら、アルフレッドは心配そうに話した。

予定しているよりもヘリンが早く来たからだ。

 「イベリスと話をして確信した。モーヴェを退治することは急務だ。民を守ることは、国を守ること。そして、家族を守ることになる。父様もそんな気持ちで十字軍に参加したのだろう。私も同じだ。必ず、この国を平和にし、イベリスが安心して暮らせる世界を作り上げたい」

ヘリンは己の信念を語る。

アルフレッドはまだボールスが生きていた時代から仕えてきた。

だからこそ、分かることがある。

人を守るための信念だけは変わらない。

命の大切さを誰よりも知っている。

だからこそ、先の戦いの時代でもボールスは誰一人殺めてはいない。

その意思が、ヘリンにもしっかりと受け継がれている。

 「ヘリン様。このアルフレッド、どこまでも貴方様に付いて行きます」

執事として、よき助言者として仕えていきたいとアルフレッドは思った。

 「ありがとう、アルフレッド。父様の時代から、仕えてくれて感謝している」

ヘリンはアルフレッドに素直に礼を言った。

準備を整えたヘリンは城門へ、その足を踏み出した。



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