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無口な魔族に人生お買い上げされた話
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「がっ…あ゛っ…!」
「農民上がりの雑魚が舐めた口利きやがって!調子乗ってんじゃねぇ!」
「…っ、ぐ…」
「おらっこのクズが!二度とガルドさんに楯突くんじゃねぇぞ!」
「…がはっ…!」
半ば引き摺るようにして路地裏に連れていかれ、強い力で雪と泥にまみれた地面に頭を擦り付けられる。
何度も腹や背中を蹴られて痛みで視界が白み、まともに息ができない。
一度強く鳩尾を蹴られて意識が朦朧としてきた所でガルドがさっと手で合図をして、ようやく男たちの暴行が止んだ。
「…なぁヨーク、さっきまでの発言は酔っ払いの戯れ言だってことで、聞かなかったことにしてやるよ。お前も外の空気を吸って、多少は酔いが醒めたろ?さ、話の続きをしようや。」
「…」
「なんでも…その客と会う直前は、いつも胸の辺りがピカッと光るんだって?面白い仕組みだよな!な、どうなってるのか俺にも詳しく教えてくれよ。」
死ね。お前なんかに教えるわけ無いだろ。
そう吐き捨ててやりたいが、正直かなり分が悪い。
ズキズキと体のあちこちが痛むし、呼吸するだけできつかった。何とか笑みを作って、喉からかすれ声を出す。
「…ふ、は…仕組みなんて、知らねぇよ。げほ…俺の胸が光ると、勝手に客が来るんだよ。…変な魔術でも、かかってんのかもな。」
「…なんだそれ。本当にそれ以上のことは知らないのか?」
「あぁ…これ以上蹴られても、吐けるものがないんだ。悪いな。」
「…おい、服を脱がせろ。」
「は?おまっ、なんでそこまでして…やめろっさわんな!ぐ、あっ…!」
必死に抵抗しようとしたが、多勢に無勢でなんの意味もなかった。
着ているものを次々に剥ぎ取られ、ブチブチとボタン糸が弾け飛ぶ音がする。
薄い生地の服はズタズタに破かれて、あちこちから素肌が露出していく。
ネックレスなんてもうどうでもいい、こいつに腕の焼印を見られるのだけはまずい…!
そう、思いすぎたのがよくなかった。
びり、とシャツが派手に破けて、左の二の腕に巻いている包帯が明るみに出た瞬間、反射的に庇うように腕が動いてしまった。
その動きを見逃さなかったガルドが、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべる。
「…くく、ヨークお前さぁ、わざわざそこにだけ包帯巻いてるとか、あからさまにも程があるだろ?…包帯を剥がしてやれ。」
「い゛っ…離せ!離せって!」
こいつらは人が一番触れてほしくないところにやすやすと触れてくる。
包帯を剥がされ、どんな魔術を使っても消すことのできない、奴隷であることを示す焼き印が露になった。
「はーなるほどねぇ、この柄…お前、ムナンからの逃亡奴隷だったんだ。農民上がりってのは嘘かぁ。」
「違うっ!ふざけんなっ離せ!」
「ムナンは良いとこだよなぁ。よく躾られた奴隷がそこら中に居てさぁ、金さえ払えば殺す以外は何したっていい。楽園だよあそこは。そんなとこから逃げ出すなんて、ヨークは悪い奴隷だなぁ。」
「~っ!死ねっ、しね!死ねよ…!」
どれだけ暴れても、男達にガッチリと体を拘束されて逃げられない。
よりによってなんでこいつに見つかるんだよ!今まで誰にも…グレナデン以外誰にもバレたことなかったのに…!
「…考えが変わった。あてもなく客探しするより、お前を逃亡奴隷としてムナンに連れ戻した方が確実に金を貰えるな。」
「……は?」
「安心しろよヨーク。お前のボロくさい出店はちゃんと俺が燃やしといてやるし、今から呼ぶ俺の友達はみんないい奴で、逃亡奴隷の扱いによく慣れてる。お前が何年ムナンから逃げてたのか知らねぇが、すぐに昔の事を思い出せるようになるぜ。」
「ふっ、ふざけんなやめろっ離せ…がっもがっ?!む、ぐううっ!」
もう俺が何を言って、何を叫んでも、同じ人間の言葉だと思ってもらえない。
手早く猿ぐつわを噛まされ、両手を縛られる。
それでも抵抗しようとしたらみぞおちを蹴られて、あまりの痛みに息ができなくなった。
「よし、こんだけやれば動けないだろ。ちょっと待ってろよ、奴隷用の馬車を持ってきてやるからな。いやぁ思いがけずいい商品が手に入ったよ、ハハハ…」
ガルド達が笑いながら、路地の向こうへ消えた。
…また俺は売り物になったのか。また、あの地獄みたいな場所に連れ戻されるのか…
意識が遠退き、ぼんやりと昔の思い出が蘇ってくる。
よく晴れた春の日、牛達の世話から戻ってくると、家の前に見知らぬ男がいた。
親が男から革袋を受け取って、俺はその男に手を引かれて、なんの説明もなく男の馬車に乗せられた。
両親も、兄たちも、遠巻きにそれを見ているだけで、誰も何も言わなかった。
どこに連れていくの、なんで俺だけなのと、男に何度も聞いたが、一度強く頬を打たれてからは何も聞けなくなった。
そのまま夜になるまで走ったと思ったら、首に鎖をつけられた。
戸惑うしかできずにいると、狭くて暗い檻の中に無理やり入れられて、そこには俺と同じくらいの年の子が沢山居て…その時、ようやく俺が両親から売られたことに気付いたんだ。
奴隷生活は辛かった。
モノとして扱われて訳も無く蔑まれ、いっそのこと全てを放棄した方がどれだけ楽かと思うこともあった。
でも、辛い仕打ちを受けるたびに増していく家族への憎しみだけが俺を生かしていた。
あの革袋ひとつで。あの僅かな金が詰まった袋ひとつのために俺は売られた。あいつらがはした金を得るためだけに、俺は生きて地獄を味わわされたんだ。
だから、必ず家族に再会して、同じ目に遭わせてやる。母さんも父さんも兄達も、俺の手でたっぷり苦しめてから殺してやる。それだけを願いながら冷静に機会を狙って、5、6年かけて命からがらムナンから逃げ出した。
そして覚悟を決めて久しぶりに故郷に帰った時、そこに俺の家はなかった。
子供を売り払わないと生活できないくらい火の車だった家計は俺を売ってから数年もしないうちに立ち行かなくなったようで、ある日無理やり家に押し入った取り立て屋が、一家心中の第一発見者になったらしい。
粗末な共同墓地の前で、俺は心底思った…結局、世の中全ては金だ。金がないと何も出来ないし、何も叶わない。金がなけりゃ、自由を奪われて死ぬまで苦しむ。苦しんだ後も、狭苦しい土の中で永遠に他人と共同生活するハメになる。
だから俺は稼ぎ続けなくちゃならない。第一に金がなけりゃ、自分の主人にだってなれない。
そのためならなんだってするし、なんにだってなれる。どれだけ辛くても、必ず耐え抜いて見せる…そう思って今日まで生きてきた。
…が、結局、これか。
ぐったりして動けなくなった俺の胸元から、ネックレスが転げ落ちた。
…こうなるなら、いっそのことグレナデンに買われてやれば良かったな。ムナンに戻るよりか多少はマシな生活が待ってたかもしれないし…
そう思い意識が途切れる直前、ネックレスが強い光を放った。
「…ヨーク。」
グレナデンに声を掛けられているのがかろうじて分かったが、もう返事をする気力もない。
「…。」
「ヨーク、起きてくれ。来るのが遅くなってすまない。」
そのまま優しく抱き寄せられた。
人並み外れた美しい顔がいつになく間近に迫ってきて、深紅の瞳が揺れているのがわかる。
ぼんやりとその綺麗な顔を見ていると、優しく頬に手を当てられ、涙の跡を拭われた。
拘束もすぐに外されて、けほ、と乾いた咳が出た。
そのままぼーっとグレナデンのことを見ていると、ガルド一行がドタドタ足音をたてて戻ってきた。
「なっ、誰だてめぇ!そいつは俺達のしょっ…」
グレナデンがスッとガルド達に向かって手を一振りすると、途端にガルドの汚い声が聞こえなくなった。
一拍置いて、どちゃ、と何か重いものが雪の上に落ちた音がした。
グレナデンの背に隠れて、何が落ちたのかは見えなかった。
「ヨーク…お前に帰れと言われてから、私はずっと考えていた。人間の作法に則って正式に買いに来た私を、何故ヨークが拒んだのか。」
優しく頭を撫でられ、そのまま抱き上げられる。
グレナデンはくるりと向きを変え、表通りの方に歩いていく。
真っ赤に染まった地面が見えて、さっき落ちたのはガルド達の頭だったことに気付いた。
「ようやく分かった。私の選択した方法は間違っていたんだ。ヨークは既に売り物ではなくなっていたのに、私は無理やり売り物として買おうとした。そんな無法を働いた私にヨークが怒ったのも当然の事だ…すまなかった。」
スッと、軽くおでこにキスを落とされる。
グレナデンは花が咲いたかのような美しい笑顔になって、幸せそうに口を開いた。
「だからヨーク、結婚しよう。」
薄々思っていたことが、今ようやく確信した。こいつは人間じゃない。
人間のことを全く理解していない、ただのバケモンだ。
「結婚して、夫婦になろう。そうすれば、死ぬまで一緒にいられるのだろう。私はヨークと死ぬまで一緒にいたい。ずっとヨークのことを見ていたい。ヨークのいろんな顔を、言葉を、行為を、すべてを知り尽くしたい。」
体がふわりと浮いた。
グレナデンの周りに変な力が集まりだして、時空が歪み始める。
俺はグレナデンにしっかりと抱き上げられていて、少しも身動きがとれなかった。
「だからヨーク、これからは私の居城で暮らそう。ヨークの為ならば何でもするし、何一つとして不自由なことはさせないから。」
ふざけんな。結婚っていうのはお互いの同意がないと成立しないもので、しかも男と男じゃ…
そう言おうとしたが、その言葉が口から出る前に俺は異空間に飲み込まれ、文句を言うことすら出来ずに街から消えた。
静かに降り積もる雪は、いくつかの死体すら白く覆い隠していく。
「農民上がりの雑魚が舐めた口利きやがって!調子乗ってんじゃねぇ!」
「…っ、ぐ…」
「おらっこのクズが!二度とガルドさんに楯突くんじゃねぇぞ!」
「…がはっ…!」
半ば引き摺るようにして路地裏に連れていかれ、強い力で雪と泥にまみれた地面に頭を擦り付けられる。
何度も腹や背中を蹴られて痛みで視界が白み、まともに息ができない。
一度強く鳩尾を蹴られて意識が朦朧としてきた所でガルドがさっと手で合図をして、ようやく男たちの暴行が止んだ。
「…なぁヨーク、さっきまでの発言は酔っ払いの戯れ言だってことで、聞かなかったことにしてやるよ。お前も外の空気を吸って、多少は酔いが醒めたろ?さ、話の続きをしようや。」
「…」
「なんでも…その客と会う直前は、いつも胸の辺りがピカッと光るんだって?面白い仕組みだよな!な、どうなってるのか俺にも詳しく教えてくれよ。」
死ね。お前なんかに教えるわけ無いだろ。
そう吐き捨ててやりたいが、正直かなり分が悪い。
ズキズキと体のあちこちが痛むし、呼吸するだけできつかった。何とか笑みを作って、喉からかすれ声を出す。
「…ふ、は…仕組みなんて、知らねぇよ。げほ…俺の胸が光ると、勝手に客が来るんだよ。…変な魔術でも、かかってんのかもな。」
「…なんだそれ。本当にそれ以上のことは知らないのか?」
「あぁ…これ以上蹴られても、吐けるものがないんだ。悪いな。」
「…おい、服を脱がせろ。」
「は?おまっ、なんでそこまでして…やめろっさわんな!ぐ、あっ…!」
必死に抵抗しようとしたが、多勢に無勢でなんの意味もなかった。
着ているものを次々に剥ぎ取られ、ブチブチとボタン糸が弾け飛ぶ音がする。
薄い生地の服はズタズタに破かれて、あちこちから素肌が露出していく。
ネックレスなんてもうどうでもいい、こいつに腕の焼印を見られるのだけはまずい…!
そう、思いすぎたのがよくなかった。
びり、とシャツが派手に破けて、左の二の腕に巻いている包帯が明るみに出た瞬間、反射的に庇うように腕が動いてしまった。
その動きを見逃さなかったガルドが、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべる。
「…くく、ヨークお前さぁ、わざわざそこにだけ包帯巻いてるとか、あからさまにも程があるだろ?…包帯を剥がしてやれ。」
「い゛っ…離せ!離せって!」
こいつらは人が一番触れてほしくないところにやすやすと触れてくる。
包帯を剥がされ、どんな魔術を使っても消すことのできない、奴隷であることを示す焼き印が露になった。
「はーなるほどねぇ、この柄…お前、ムナンからの逃亡奴隷だったんだ。農民上がりってのは嘘かぁ。」
「違うっ!ふざけんなっ離せ!」
「ムナンは良いとこだよなぁ。よく躾られた奴隷がそこら中に居てさぁ、金さえ払えば殺す以外は何したっていい。楽園だよあそこは。そんなとこから逃げ出すなんて、ヨークは悪い奴隷だなぁ。」
「~っ!死ねっ、しね!死ねよ…!」
どれだけ暴れても、男達にガッチリと体を拘束されて逃げられない。
よりによってなんでこいつに見つかるんだよ!今まで誰にも…グレナデン以外誰にもバレたことなかったのに…!
「…考えが変わった。あてもなく客探しするより、お前を逃亡奴隷としてムナンに連れ戻した方が確実に金を貰えるな。」
「……は?」
「安心しろよヨーク。お前のボロくさい出店はちゃんと俺が燃やしといてやるし、今から呼ぶ俺の友達はみんないい奴で、逃亡奴隷の扱いによく慣れてる。お前が何年ムナンから逃げてたのか知らねぇが、すぐに昔の事を思い出せるようになるぜ。」
「ふっ、ふざけんなやめろっ離せ…がっもがっ?!む、ぐううっ!」
もう俺が何を言って、何を叫んでも、同じ人間の言葉だと思ってもらえない。
手早く猿ぐつわを噛まされ、両手を縛られる。
それでも抵抗しようとしたらみぞおちを蹴られて、あまりの痛みに息ができなくなった。
「よし、こんだけやれば動けないだろ。ちょっと待ってろよ、奴隷用の馬車を持ってきてやるからな。いやぁ思いがけずいい商品が手に入ったよ、ハハハ…」
ガルド達が笑いながら、路地の向こうへ消えた。
…また俺は売り物になったのか。また、あの地獄みたいな場所に連れ戻されるのか…
意識が遠退き、ぼんやりと昔の思い出が蘇ってくる。
よく晴れた春の日、牛達の世話から戻ってくると、家の前に見知らぬ男がいた。
親が男から革袋を受け取って、俺はその男に手を引かれて、なんの説明もなく男の馬車に乗せられた。
両親も、兄たちも、遠巻きにそれを見ているだけで、誰も何も言わなかった。
どこに連れていくの、なんで俺だけなのと、男に何度も聞いたが、一度強く頬を打たれてからは何も聞けなくなった。
そのまま夜になるまで走ったと思ったら、首に鎖をつけられた。
戸惑うしかできずにいると、狭くて暗い檻の中に無理やり入れられて、そこには俺と同じくらいの年の子が沢山居て…その時、ようやく俺が両親から売られたことに気付いたんだ。
奴隷生活は辛かった。
モノとして扱われて訳も無く蔑まれ、いっそのこと全てを放棄した方がどれだけ楽かと思うこともあった。
でも、辛い仕打ちを受けるたびに増していく家族への憎しみだけが俺を生かしていた。
あの革袋ひとつで。あの僅かな金が詰まった袋ひとつのために俺は売られた。あいつらがはした金を得るためだけに、俺は生きて地獄を味わわされたんだ。
だから、必ず家族に再会して、同じ目に遭わせてやる。母さんも父さんも兄達も、俺の手でたっぷり苦しめてから殺してやる。それだけを願いながら冷静に機会を狙って、5、6年かけて命からがらムナンから逃げ出した。
そして覚悟を決めて久しぶりに故郷に帰った時、そこに俺の家はなかった。
子供を売り払わないと生活できないくらい火の車だった家計は俺を売ってから数年もしないうちに立ち行かなくなったようで、ある日無理やり家に押し入った取り立て屋が、一家心中の第一発見者になったらしい。
粗末な共同墓地の前で、俺は心底思った…結局、世の中全ては金だ。金がないと何も出来ないし、何も叶わない。金がなけりゃ、自由を奪われて死ぬまで苦しむ。苦しんだ後も、狭苦しい土の中で永遠に他人と共同生活するハメになる。
だから俺は稼ぎ続けなくちゃならない。第一に金がなけりゃ、自分の主人にだってなれない。
そのためならなんだってするし、なんにだってなれる。どれだけ辛くても、必ず耐え抜いて見せる…そう思って今日まで生きてきた。
…が、結局、これか。
ぐったりして動けなくなった俺の胸元から、ネックレスが転げ落ちた。
…こうなるなら、いっそのことグレナデンに買われてやれば良かったな。ムナンに戻るよりか多少はマシな生活が待ってたかもしれないし…
そう思い意識が途切れる直前、ネックレスが強い光を放った。
「…ヨーク。」
グレナデンに声を掛けられているのがかろうじて分かったが、もう返事をする気力もない。
「…。」
「ヨーク、起きてくれ。来るのが遅くなってすまない。」
そのまま優しく抱き寄せられた。
人並み外れた美しい顔がいつになく間近に迫ってきて、深紅の瞳が揺れているのがわかる。
ぼんやりとその綺麗な顔を見ていると、優しく頬に手を当てられ、涙の跡を拭われた。
拘束もすぐに外されて、けほ、と乾いた咳が出た。
そのままぼーっとグレナデンのことを見ていると、ガルド一行がドタドタ足音をたてて戻ってきた。
「なっ、誰だてめぇ!そいつは俺達のしょっ…」
グレナデンがスッとガルド達に向かって手を一振りすると、途端にガルドの汚い声が聞こえなくなった。
一拍置いて、どちゃ、と何か重いものが雪の上に落ちた音がした。
グレナデンの背に隠れて、何が落ちたのかは見えなかった。
「ヨーク…お前に帰れと言われてから、私はずっと考えていた。人間の作法に則って正式に買いに来た私を、何故ヨークが拒んだのか。」
優しく頭を撫でられ、そのまま抱き上げられる。
グレナデンはくるりと向きを変え、表通りの方に歩いていく。
真っ赤に染まった地面が見えて、さっき落ちたのはガルド達の頭だったことに気付いた。
「ようやく分かった。私の選択した方法は間違っていたんだ。ヨークは既に売り物ではなくなっていたのに、私は無理やり売り物として買おうとした。そんな無法を働いた私にヨークが怒ったのも当然の事だ…すまなかった。」
スッと、軽くおでこにキスを落とされる。
グレナデンは花が咲いたかのような美しい笑顔になって、幸せそうに口を開いた。
「だからヨーク、結婚しよう。」
薄々思っていたことが、今ようやく確信した。こいつは人間じゃない。
人間のことを全く理解していない、ただのバケモンだ。
「結婚して、夫婦になろう。そうすれば、死ぬまで一緒にいられるのだろう。私はヨークと死ぬまで一緒にいたい。ずっとヨークのことを見ていたい。ヨークのいろんな顔を、言葉を、行為を、すべてを知り尽くしたい。」
体がふわりと浮いた。
グレナデンの周りに変な力が集まりだして、時空が歪み始める。
俺はグレナデンにしっかりと抱き上げられていて、少しも身動きがとれなかった。
「だからヨーク、これからは私の居城で暮らそう。ヨークの為ならば何でもするし、何一つとして不自由なことはさせないから。」
ふざけんな。結婚っていうのはお互いの同意がないと成立しないもので、しかも男と男じゃ…
そう言おうとしたが、その言葉が口から出る前に俺は異空間に飲み込まれ、文句を言うことすら出来ずに街から消えた。
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