イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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日常9

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○○○○○

 午後は、母のヒノデが行うイトムシの授業となった。
 決められた日に訪れる宮の教育係は、国の歴史や計算を教えてくれる。イトムシのことは、イトムシである母が教えてくれるのだ。

 一階奥の勉強部屋。その部屋には、四人掛けの古い机があった。さらに、ソファーと小さなローテーブル。しかし二人は、寄木の床に直接ぺたりと座っていた。

 ヒノデは真白なイトムシの上着の下に、柔らかな金糸雀かなりあ色のドレスを広がらせ、何とも爽やかな姿をしていた。
 彼女は宮へと用事があると、黄色系統のドレスをよく着用した。
 国務に就く者たちにとって、色は其々の機関を表す識別色しきべつしょくとして用いられていた。

 国の中心機関、宮は、そのまま国王を最高統治者とし、側近の「宮臣みやおみ」には、宮の責任者としての位を預け、国全体の監視と運営を行っている。識別色は品位を表す灰色。
 
 そして、他に三つの機関、『守護館しゅごやかた』『水館みずやかた』『あきなやかた』が存在する。
 それぞれが名称は異なれど、館に館長、副館長の位を持つ代表者を定め、下に付く者たちの統率を任されていた。

 守護館は、国の警備、治安維持、武力制御、そしてイトムシと共に追放者を送り返す任を負っている。
 そこに努める者たちは館士兵かんしへいと呼ばれ、多少荒っぽい者たちだが、ヒノデと仲がいいのでキイトも好きだった。識別色は、国に多く生息する紋黄蝶もんきちょうの黄色。

 水館みずやかたは、呪術、医術、そして冠婚葬祭を任されている。館長の位の者は「女主人」と呼ばれ、この国一番の術者だ。 
 イトムシが「魂」を送った後の、追放者の肉体を解体し楽園へと送るのは、この館に仕える水守みずもりと呼ばれる者たちだ。識別色は水を表す青色と水色。

 あきなやかたは、商人たちを取り仕切り、生活に密な取引や輸出品の「黒石」「水」を管理している。キイトには遠い存在で、教科書の中だけの館だと最近まで思っていたぐらいだ。識別色は、常緑樹の葉を表す緑色。


 宮の配下である三つの館は、歴史の中で様々な権力を育て上げ、いまでは均等を保ちながらも、互いに譲らぬ領域を確保している。
 最近では、宮に近い存在、権力の象徴でもあったイトムシが、その自由な性質からか、宮を離れ守護館に入り浸るようになってしまい、宮はことある毎に当人、ヒノデを宮へと呼び出していた。
 イトムシの長・小石丸は気難しい個でもあり、自館に籠るのを黙認されている。
 そして、待望のイトムシであるキイト。宮はキイトを参内させるように、ヒノデへと再三、通達をしているが、彼女は「息子はまだ幼ない」と拒んでいた。

 
 キイトには、母が宮を好いていないように見えた。
 宮へ向う時は毎回、紋黄蝶を思わせる黄色のドレスを着ている。暗に、守護館を支持している事を示しているのだろう。ただ、明るい色が好きで着ているだけかもしれない。
 
 そして、イトムシの識別色は、紡ぐ糸の白。
 その白い、イトムシの上着の下に広がる金糸雀色。歌いだしそうな色へとキイトがそっと指を滑らせていると、ヒノデが手首の糸輪をつついてきた。
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