イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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粉屋4

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「っ……!?」

 焼けるような痛み、矢が深く肩に刺さっていた。
 追放者を狙った援護の矢が、彼女が上となった瞬間に放たれてしまったのだ。
 館士兵の怒鳴り声が聞こえ、左腕の筋肉が引きつった。緩んだ腕から追放者が逃れ、ヒノデは再び押し倒されてしまった。

 押し倒されたヒノデは、左足を使い、迫る胸倉を押しのけようとする。しかし、その伸ばした足を、追放者の二本腕が難なく捕え、ぎりぎりと締上げてきた。

(痛いっ……足を折るつもりだわ……)

 膝に、爆ぜるような痛みが差し、息が詰まる。ヒノデの体が大きく震えた。
 
 追放者はさらに、毛むくじゃらの腕でヒノデの頭を掴むと、何度も石の間に叩き付けはじめた。

「やめろ。その子を離せ」
「アぁあア……」

 冷たく重たい声が、追放者の動きを止めた。
 射抜かれるような鋭い視線を感じたのか、追放者がゆっくりと振り返った。
 そこには、退路を塞いでいた、年老いたイトムシの姿があった。
 小石丸は手にしていた石を掲げた。粉屋で見つかった、楽園の水が入っている石だ。

「こいつをくれてやる。その子を離せ、同郷の友よ」
「だめ、おじい様……」

 血にまみれたヒノデの口から、小さな声が漏れた。
 追放者は小石丸を見たまま、一度強く、ヒノデの頭を石へと叩きつけた。
 小石丸の目が怒りにたぎり、夜の瞳が、底なしの沼を見せる。

(挑発しておる……。淡いの太陽に、精神さえ焦がされた悪鬼め)

 追放者は、ぐったりとしたヒノデの体を踏みしめ、石を持つ小石丸へと向かいはじめた。締りのない口からは、だらりと黒い舌が垂れている。
 矢をつがえ、じりじりと構えていた館士兵が動いた。

「今のうちにヒノデちゃんの回収をっ!」
「俺行きます!」

 追放者がヒノデから離れたのを狙い、彼女の元へと館士兵が走りよろうとすると、追放者は足を止め、首を回し、それをじろりと見た。

「こっちだ、猿」

 小石丸が石を振り、追放者の注意を引く。追放者は再び歩き出すが、すぐにまた足が止まった。
 追うも攻撃するも、どちらも選べる間隔。ヒノデと追放者、そして小石丸の間に、微妙な距離がとられた。

(……用心深いな。しかし、ヒノデからは離れた)

 小石丸は距離を見てから、右手に掲げた石を投げた。

「受け取れ。猿」

 投げられた石を見て、追放者は飛び上がった。
 飛んでくる石を迎え喰らおうとするが、寸前の所で、、小石丸の元へ戻ってしまった。

「ギゃっ!!」

 に怒声を上げた追放者。その喉には、すでに糸が巻きついていた。
 小石丸は石と同時に、左手に携えた糸を放っていたのだ。
 追放者は首を拘束された。

「よくぞ参られたし、同郷の友よ」
「あァァ……」

 小石丸が冷たい声で延べながら、糸を締め上げていく。
 喉を締め上げられ、逃げられぬ追放者は、突如その喉を掻きむしり、叫び声をあげた。

「あァイウぅあァ――!!」

 長々と発せられる異形の声。すると、それに答え、粉屋から同じ叫びが響いた。

つがいが潜んでいたか)

 小石丸が表情を変えず、視線を動かす。

「突破! 畜生めっ、小石丸様! 一匹行きますっ」

 後ろで館士兵の怒鳴り声が聞こえた。

 小石丸の背後から、捕えた追放者と同じ姿の、一回り小さなそれが広場へと飛込んできた。
 新たに現れた追放者はその勢いのまま、小石丸の右手から石を掠め取り、喉を鳴らして飲み込んでしまった。
 しかし、小石丸は笑う。

「愚か。イトムシの手に急所を寄せるとは」

 小石丸の右手が風を払うと、二匹目の追放者の口がぱっと裂け、血飛沫が飛んだ。
 飲んだ石に掛けられた糸が引かれ、舌を巻き締めたまま吊られたのだ。鋭利な糸により、追放者の舌が切り落とされる。
 びたり、と目を背けたくなる黒い舌が、地面に落ちた。

「あアアアあああああ!!」

 舌を切られ、息とも悲鳴ともつかぬ叫びをあげ、足元に転がるもう一匹。
 小石丸はその頭を足で押さえ、とどめを刺そうとし、ふと、左手の糸がゆるんだ事に気が付いた。
 が、糸から抜け出したのだ。
 振り返ると、五本腕の追放者が死に物狂いで逃げていく。その先には、館士兵に支えられ、ようやく身を起こしたヒノデの姿。

「いかん、ヒノデ!」
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