イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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格技場1

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○○○○○

 やがて二人が着いたのは、宮守塔付属の建物、格技場かくぎじょう
 格技場は一階と二階に分けられ、二階は見下ろす観客席となり、一階の床には、持ち運び式の木材の床が敷かれていた。その上で、四十名ほどの宮守たちが鍛錬を行っていたが、二人が入ると動きを止め、姿勢を正し迎えた。
 キイトとヌーを迎えるために、奥から隊服を着た二人の男がやって来る。
 どちらも、痩身にまとう濃い灰色が厳めしく、キイトは首をすくめた。濃い灰色は、苦手な色だ。

「キイト様、宮守警ら隊隊長、デノウ・オイチャ。同じく副隊長、深山みやま・シャーテンです」

 ヌーが二人を紹介する。
 デノウは背が高く、短髪の中年。
 深山は青年で、少し癖のある黒髪が植物の蔓のよう。整った顔立ちに良く似合っていた。
 そして、キイトにとって有難い事に、二人とも黒味の強い目の色をしていた。

(この目の色なら、視線を交わせられる。……のかな)

 キイトは指を組み挨拶をする。
 デノウは宮守たちに振り返り、手を上げ、姿勢を正したままの彼らに、鍛錬に戻るよう指示をした。
 そして、そのキビキビとした動作のまま、デノウはキイトを見つめ言った。

「キイト様、ようこそ。御武勇は届いております。既に追放者を送ったそうですね」
「はい」

 キイトはデノウを見上げ返事をするが、その声も目も固かった。どうも宮の灰色は、キイトを緊張させるのだ。それを見ていた深山みやまが、前へと出ると、キイトと視線を合わせるために片膝を付いた。黒い目が、正面から向かって来る。

「キイト様、お待ちしておりました。心より歓迎します。是非、宮とヤモリに慣れてください。キイト様は守護館がお気に入りだと聞いておりますが、ヤモリも中々、面白いのですよ」

 青年の優しい笑みに、キイトは首を傾げた。

「……面白いのですか?」
「えぇ、祝典の際に花火を上げるのは、ヤモリの仕事です。火薬を使いますからね。あと、水堀の掃除なんかもします。水遊びみたいなもので、毎年誰が一番早いか競争します。面白いですよ」

 キイトは、深く澄んだ水堀を思い浮かべた。

「泳ぎは得意ではありません」
「もちろん教えて差し上げます。自分は昨年の優勝者なのです」

 青年が胸に手を当て言う。揃えた指がすらりと長い。
 キイトはじっと青年隊士の指を見つめ、返事をした。

「では、よろしくお願いします」
「はい。御贔屓ごひいきに」

 深山がにこりと笑う。子供に対する甘ったるい笑顔ではなく、親しい友を迎えるそれに、キイトも下げ気味だった顔を上げ、見事な夜の瞳に彼を映した。

「ごひいきに」

 キイトが、聞きなれない言葉を難しそうに返すと、二人のやり取りを見守っていたデノウが頷いた。

「うむ、キイト様の最初のお相手は深山、お前だな。さ、キイト様どうぞこちらへ、失礼ながら、どの程度動けるのかを、見させて頂きます」

 デノウが大股で先を行く。
 深山は腰を上げると、キイトへと手招きをした。

「最初ですから、お好きに動いてください。黒刀の作法も、考えなくて良いですからね」
「はい。深山さま」
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