イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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格技場2

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 格技場の中心には流線が描かれ、その中の平行線へと招かれる。
 キイトは足を進めながらも視線を巡らせ、鍛錬を続ける、宮守たちの動きを観察した。

(黒刀の代わりに木刀を使っている。構え方、間合の取り方……、どこを見て相手の動きを読んでいるんだろう? 手、木刀、上半身……違う全体だ。わぁ、視野の広げ方が面白いな)

 深山もまた、キイトを観察していた。

(歩き方がとても安定している。作法は気にするなと言ったのに、ヤモリの動きを読み始めた所が、いじらしい。子供なのだから、細かいことなど気にしなくていいのに。少し人見知りしていたな、用心深い子だ)

 二人は、向かい合う線の上に立った。
 深山が隊服の上着を脱ぎ、それに習いキイトも上着を脱いだ。すぐにヌーが来て、上着を受け取る。

「キイト様。お怪我は、痛みませんか?」
「……?」

 ヌーの心配そうな声と視線をたどり、キイトは腕の痣を思い出した。
 治る直前の痣は、派手な色目の目玉模様。怪我は日常茶飯事で、生傷でないこれを、気にかける必要は感じなかった。
 キイトはヌーへと、「痛くない」と素っ気なく答え、再び視線を宮守の動きに戻した。
 キイトにとって宮守の戦い方は、はじめて見る形だった。新鮮だ。すぐにでも真似をしてみたい。
 
 そんなキイトに、ヌーは何か言いたそうにしたが、結局、目鏡を片手で押さえ大人しく下がった。 どうやら目鏡を抑えるのが、彼の癖になってしまったらしい。
 一方、深山も、上着から出されたキイトの腕に顔をしかめ、小さく唸った。

(折れてないですよね、打撲? それに切り傷だらけじゃないか……)

 黒と橙色の両腕の痣、切傷に似た細い傷痕。子供の腕にあっていいものでは無い。デノウを振り返ると、彼もまた傷を見て考え込んでいた。こちらの視線に気付き、首を振る。

「深山、加減しろ」

 キイトに会う前は、「幼くてもイトムシだ」と警戒していたデノウも、さすがに、子供の腕の怪我はこたえたらしい。しかし深山が返事をする前に、キイトの声がぴしゃりと割って入る。

「いりません」

 二人はキイトを見た。
 落ち着いて大人を見返す目には、最初に見せていた遠慮が消え、静かな夜の湖を表している。

「加減はいりません。気にしないでください」

 キイトの言い方は、突き放すと言うよりも、決め事を読み上げるような感情の無い言い方だ。それなのに、向って来る視線からは、こちらの首筋をちりちりと引掻く苛立ちが、はっきりと感じられた。
「手加減」と言う言葉を、侮辱に感じた事がうかがわれる。

 深山は木刀を手に、キイトへと近づき、頭を下げた。膝を付き、両手で木刀を差し出す。

「失礼しました、イトムシ・キイト様。それでは手加減なし、精一杯向かわせて頂きますね」

 深山のその言葉に、初めてキイトが笑った。
 控えめにだが、ヒノデによく似た口元が上げられ、湖の瞳の中に、星が浮かんだ。
 幼い笑顔はすぐに消え、頭がきちんと下げられる。

「ご指導、よろしくお願いします」
「はい。よろしくです」

 二人は向き合い、木刀を構えた。
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