イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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格技場6

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 静まる場内。熱気が奪われ、寒気が首筋をなぞる。
 満ちるその気配に、人は嫌悪と恐怖が自身の精神を浸すのを感じた。彼とはまだ、目さえ合わせていないというのに。

「情けない。人間ごときに何を手間取る」

 イトムシの長、小石丸の声が低く響く。
 手合いの最中、深山の接近により視界を奪われたキイトに、弓を引いた小石丸。
 殺意に似た圧の中、キイトはさっと目を伏せ、下を向いた。

 突然現れた小石丸へと、デノウが深々とお辞儀をした。

「小石丸様、ただいま手合わせ中です。どうぞ、そのような危険な行動はおやめください」
 
 隊長の声に金縛りが解け、宮守たちが背筋を伸ばし敬意を示した。ただ一人、深山は構えを解かずにいた。その目に、イトムシの目による嫌悪感ではない、不快さが湧き上る。

「小石丸様。キイト様はまだ子供です。こちらに集中している最中に矢を放つなんて、卑怯じゃございませんか? それでも」
「黙れ! 深山!」

 デノウが厳しく咎め、深山の言葉を奪う。
 深山は納得できなかった。宮の情報で、小石丸が、手加減の出来ぬ厳しい人物だとは知っていた。

(だからと言って、あんな混乱している状態の子供に、矢を仕掛けるなんて。キイト様の反応が少しでも遅れていたら……)

 矢は確実に小さな体を貫いていただろう。
 深山は怒りに任せ、小石丸を見上げ睨みつけた。
 
 ぞくり。
 
 その目を見た瞬間に、嫌悪が背を舐める。
 
 白い長衣の老人。人の姿の中に、化け物がいた。それが、黒い沼の目を通してこちらを見ている。深山の熱い怒りが凍えていく。
 しかし小石丸は、青年隊士など見ていなかった。じっと見下ろしているのは、うつむくキイト、ただ一人。

「お前は弱い」

 小石丸の目ばかりに気を取られ、全体を見ていなかった事に、深山は悔いた。小石丸は二階の観客席に糸を張り巡らせ、幾本もの矢を仕掛けていたのだ。
 攻撃はまだ終わっていない。
 小石丸が、糸を踏み留めていた足をあげた。唐突に矢が放たれ、無数の矢がキイトへと向かい飛ぶ。
 キイトはいまだ下を向き、固まったように動かない。

「いけない!」
「クソっ」

 デノウと深山が同時に反応し、キイトへと走った。

「キイト様!」

 ヌーが叫んだ。
 
 それら全てより早く、真白い影がキイトをさらった。
 ヒノデだ。
 彼女は手にした糸を鞭のように振るうと、矢を全て叩き落とし、同時に、片手で掴んだキイトをヌーへと放り投げる。

「わ! キ、キイト様、お怪我は!」

 彼は飛び込むようにして、投げられたキイトを抱き受けた。
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