イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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雀通り4

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 イチヤが不思議そうに質問をする。

「なんすか、四原則って」
「私がお答えしましょう」

 名乗り出たのは、いましがた、自力で現場に着いた宮使い、ヌー・シャテルだ。
 脇に抱えた灰色の上着を着ると、イチヤを睨む。イチヤはからからと笑い「お疲れっす」と非難の視線を払った。

 「四原則はイトムシの掟です。行動基盤となるそれらは、ひとつ、楽園を尊び追放者を送る。ひとつ、『淡い』人間世界にある楽園の恩恵を守る。ひとつ、夜が続く限り、イトムシもまた続けていく。ひとつ、イトムシ同士の殺し合いをしないこと。の四柱です。この下に細かな決まり事がございますが、何より重んじるべきは、この四原則なのです。キイト様は育ちの良い方、食事中の追放者に攻撃を仕掛けるのは、このひとつ『楽園を尊び』に、反するとお考えなのでしょう。立派な方です」

 さらさらと答え強く頷くヌーに、菊が呻いた。

「何を悠長なことを言ってんだよ。あの牛がぼんやりした奴で助かったぜ。本当、どうすっか」
「送るには手順がございます。キイト様は、前回飛び入りでしたので、それをご存じではない。教育も、小石丸様が失念されているご様子。しかしご安心を、私がきちんとお伝えします。この宮所蔵図書、イトムシの飼育書で」

 そう言うとヌーは、小ぶりな総革の本を取り出し、注連縄の傍へと寄った。

「キイト様、申し訳ありません。遅ればせながら、只今はせ参上致しました!」

 ヌーの声に、しゃがみ込み、人面牛の食事を眺めていた、キイトが立ち上がった。

「ヌゥ、来てくれたんだ」
「もちろんです。私は、キイト様専従の宮使いですから。さぁ、まずは追放者に、ご自身がイトムシであることを認めさせてください」

 菊もヌーの隣へと立ち、大声を掛けた。

「大抵目が合えばおっぱじめる。目見せて、自分がイトムシだって知らせろ」

 キイトはそう言う二人の助言通り、人面牛の目を覗き込んでみた。しかし、視線が定まらない人面牛は、目をぐるぐると回している。じっと見つめていたキイトも、足元がふらつくのを感じた。
 慌てて頭を振り、体勢を持ち直す。その様子に、館士兵たちから忍び笑いが漏れた。

「食事中にごめん、僕はイトムシなんだ」
「……」
「こっち見て、僕をイトムシだと認めて」 
「……」
「聞いている? それ美味しい? ねぇ」
「……」
「あーもぅっ! ギィだ」

 キイトが苛立たしげに言う。牛の舌が、あかんべぇをするように苔を探る。
 誰の目から見ても、小さなイトムシは、追放者にまったく相手にされていない。
 たまらずイチヤが吹き出した。彼が知る、いままでのイトムシとは随分と要領が違う。

「キイト君、シカトされちゃってますけど。大丈夫っすか? ってか、ギィって何」
「キイト様がギィと言えばギィなんです。それと、牛と苔では札になりませんから。無効です」

 揶揄うイチヤを、深山がたしなめる。その隣でヌーは、目鏡を抑え飼育書をめくった。

「ギィ、ですか。恐らくイトムシの言葉でしょう。お仲間同士で使うものですので、私も初めて聞きました。よほど」

 そう言い、ヌーが見やる先には、腕を組み、苛々と牛に頼み込むキイトの姿。

「ギィなんでしょうね!」
「ほう。載ってないのか」

 菊が飼育書を投げ捨てる仕草をし、ヌーをからかった。
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