君に会いたかった

第二話 再会の約束

彼は、その短い返信を送った後、しばらく静まり返った部屋でじっとほのかに光る画面を見つめていた。それは、送信した文面が既読になるのを待っていた。いや、そんなことはない。どっちなんだと心のなかで自問自答していた。何を今さらと思うのだが、彼の心はさまざまな思いに翻弄されていた。

そして、数分後、「既読」の文字が表示されたのが目に止まった。彼の胸の中には、懐かしいあの気持ちが蘇ろうとしていた。とにかく、かすかな期待と緊張が入り混じっていたのは間違いない。

彼女からの返事を待っている自分という一個体に、何かしらの違和感があった。自分を客観的に見る自分があった。沈黙の画面。次第に過去の記憶が蘇ってきている自分。

話は大学時代にさかのぼる。彼と「きみ」はキャンパス内で知り合った。いつも、明るい笑顔で周りの空気を軽やかに変えていた彼女、「きみ」。彼にとって彼女は、特別で、どこか遠い存在だったのを覚えている。あの頃の彼は、ただ彼女の笑顔に惹かれていたが、その感情が表情にも言葉にも出ることはなかった。それが、彼にとっての唯一の後悔だった。

どれくらい、時間が経ったのだろうか。過去を回想していると、スマホの画面に再び通知音が響いた。反射的に画面に目がいった彼。

「明日の夜、会えない？」

あの頃のメッセージと変わらない。短いメッセージだった。喜んでいいのだろうか。厄介なことに巻き込まれないだろうか。素直に喜べなかった。しばらく考え、スマホを持った。そして…

「もちろん」

と打った。続けて。

「いつもの場所？」

彼女の問いかけに、こう、答えた。その場所は、大学の正門からまっすぐの道の左側にある小さな喫茶店。何度も通ったあの喫茶店だ。個人経営の小綺麗な
喫茶店は明るく学生がよく通う場所だった。

彼は、彼女との再会が気になり、眠れなくなっていた。過去の記憶が波が押し寄せてくるようによみがえっては、消えた。この彼女と再会することで、新しい物語が待ち受けているのだろうか。時間は過ぎ去り、夜が更けていった。再び目を閉じ、心を落ち着ける努力をしている彼は、寝返りを打った。

実は、この二人の再会は、物語の序章にしか過ぎなかったのである。