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第一章 春の真ん中、運命の再会
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しおりを挟む高1の夏休みの最終日。あの日は、とても暑い夜だった。
いつもは閑散とした田舎町の神社も、この日ばかりは活気が満ち溢れていた。
賑やかな祭り囃子の太鼓の音。行きかう人々の楽し気な笑い声。腹の虫を刺激する屋台の美味しそうなにおい。ぽっかりと空に浮かんだ満月の淡い光が、すべてを包み込むように優しく照らしていた。
そんな中、俺の視線を釘付けにしたのは、言うまでもなく三池の浴衣姿。
――かわいい。かわいすぎる。どうするよ、これ?
普段見慣れている制服とは全く違う和の装いは、その可愛らしさをますます引き立たせていて、俺の鼓動は早まるばかり。
濃紺の浴衣は派手さはないが、朱色の帯と裾に入った赤い金魚柄が涼し気で、三池の白い肌に良く映えていた。
いつもは三つ編みにしている長いストレートの栗色の髪も、いまはほどかれてサラサラと風にそよいでいる。
――うん、きれいだ。そしてやっぱり、可愛い。
浴衣は亜弓とお揃いなのに、三池が着ると輝いて見えて、着る人間によってこんなにも違うものかと感心してしまう。
なんて、間違っても口にはだせない。万が一、亜弓にそんなことを言ったら、きっとむこうずねに一、二発、蹴りが飛んでくるはずだ。
姉ばかり三人いる末っ子長男の友人が『姉は横暴』『姉は虐げる者』『弟は下僕』と、悟ったような遠い目をして語ったことがあるが、三カ月年上の従姉も似たようなものだと思う。
ほとんど身内と初恋の相手では、初めからかかっているフィルターが違うのだから、そこは仕方がないだろう。
――よし、今日こそは、告白するぞ!
ここは、伊藤に話してなんとか亜弓を三池から引き離してもらおう。その隙に三池と二人きりになって、告白タイムに突入すればいい。
そう目論んで、ちょうど人波が切れたころ合いを見計らって伊藤に声をかけようとしたとき、少し後ろを亜弓と一緒に歩いていた三池が、スタスタと歩み寄ってきて、伊藤の前に回り込んで足を止めた。
「伊藤君!」
身長180センチある伊藤を160センチあるかないかの小柄な三池が、頬をピンクに染めて見上げている。
――え……?
これは、まさか。
いやな予感に、ごくりと大きく喉が鳴った。
「伊藤君、わたし、入学式ではじめて会った日から、伊藤くんのことが好きでしたっ」
まさかの告白に、普段あまり動じない伊藤も驚いて目を見張っている。普段、動じまくりの俺と言えば、見るも無残に打ちひしがれていた。顔には、力ない引きつり笑いを浮かべて。
「ええと、その、ありがとう」
さすが、動じない伊藤。驚きからすぐさま脱却して、お礼を言うとは。なのに、俺はまだへらへらと引きつり笑いを浮かべるだけで、その場から動くことさえできなかった。
「あの、伊藤君は、彼女さん、いるんですか?」
「……いないけど」
伊藤の答えに、三池の表情がぱっと明るくなるのを、俺は悲しい気持ちで見つめていた。
伊藤は嘘は言ってない。確かに伊藤に彼女はいない。片思いの相手がいるだけだ。
そのあと、リンゴ飴をかじりながら遅れて歩いてきた亜弓に、『初デート初デート』と、はやし立てられた伊藤と三池は、二人で境内を一周しに行くことになった。
伊藤の気持ちも知らずに、無神経なことをするな、このやろう! と念派を送ってみるが、亜弓はどこ吹く風でリンゴ飴をカリカリとかじっている。
「うん。お似合いだね……」
コクン、とリンゴ飴を飲み下し、亜弓がぽつりとつぶやいた。
確かに、上背がある伊藤と小柄で華奢な三池は、俺から見ても似合いのカップルだ。遠ざかる、幸せそうな二人のシルエットが見えなくなるまで、俺は微動だにできずに、その場で固まっていた。
――ああ、告白する前に、木っ端みじんに吹っ飛んでしまった……。
と、打ちひしがれながら。
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