ひまわり~この夏、君がくれたもの~

水樹ゆう

文字の大きさ
7 / 20
第一章 春の真ん中、運命の再会

07

しおりを挟む

 あれから、早、九年あまり。
 俺も、それなりに女性と付き合いはしたが、なぜか長続きしなかった。

 たぶん思うに、いつも心の奥底に、消せない想いがあったから。

 なんてセンチメンタルなこと、二十五歳にもなるいい年の大人の男が言っても笑われるだけだが。特に、あいつ、いとこの亜弓なんかには、特に。

 思わず、自室で一人寂しく缶ビール片手に思い出にひたってしまったが、伊藤のリクエストもあったことだし、亜弓と三池に連絡をとるとするか。

 伊藤のプロサッカー初試合は、ゴールデンウィーク真っただ中。亜弓のやつは毎年、仲がいい会社の先輩と旅行に行くと言っていたが、今年はどうだろう?

 スマホの時計表示を確認すればもう夜の八時を回っている。この時間なら、さすがにもうアパートに戻っているだろう。

 とりあえず、かけてみるか。

 缶に残っていたビールを飲みほし、ぐしゃりと潰して木製の片袖デスクのわきに置いてあるゴミ箱に投げ込めば、ナイスゴール。

 なんとなくいい予感がして、口の端を上げる。

 床からベッドに座り直してスマホに登録してある携帯番号にコールすると、たっぷり十コール待たされた後、亜弓は寝ぼけた声で電話口に出やがった。

「何よー浩二、こんな時間にぃ?」
「なんだよ、もう寝てたのか?」

 いつもよりもやや低い声音は、ご機嫌が斜めのようだ。

「寝てた。風邪っぴきでだるくて薬飲んでうとうとし始めたとこだったのにー」
「そりゃあ、悪かったな」
「ほんとだよ」

 お前でも風邪をひくんだな、なんとかは風邪をひかないのに。と言いそうになり口をつぐむ。
 いつものケンカをしてる場合じゃなかった。

「お前さ、ゴールデンウィーク、予定入ってるのか?」
「うん、びっちり入ってる」

 即答だ。それも沈んでいた声が明るくなった。これは、いつもの旅行だな。

「うひひひ。聞いて驚け! 今年はなんと海外旅行デビューじゃー! ハワイよハワイ。ハワイのビーチで日焼け三昧するのさっ!」
「お前、風邪でだるかったんじゃないのか? なんだそのハイテンションは」
「楽しいことの前には、風邪なんて……クシュンッ!」
「ちなみに、その旅行の相手は、彼氏か?」
「え? 今回は違うよ。会社の仲が良い先輩。あ、もちろん女性ね」

 今回はってことは、いつもの旅行の同伴者は彼氏ってことだな。

「あ、そう。なら、別にいいんだ」
「ふーん?」

 旅行の相手が誰にしろ、楽しい予定があるなら、わざわざ伊藤のことを知らせて水をさすこともないだろう。伊藤のプロサッカー入りのことは、次のお盆の帰省の時にでも教えてやればいい。

 亜弓に彼氏がいるなら、なおさら、その方がいいだろう。こいつは変に生真面目で思い込みが激しいところがあるから、よけいな雑音は耳に入れないほうが賢明だ。
 
「早く風邪なおして、元気で行ってこい」
「え? うん。そうする」
「じゃあ、また、盆の親族会のときにでもな」
「うん、またねー」

 用件を煙に巻いてしまった。亜弓は、若干腑に落ちない様子だったが、いつものように、和気あいあいと電話を切る。

 まあ、亜弓は欠席ということでOK。さて、次はいよいよ、本命・三池の所だ! と気合を入れたところで、はたと気づいた。

「あ……。亜弓に三池の連絡先聞くの、忘れた」

 亜弓のことだから、電話を切った瞬間、速攻で眠りにかかっているに違いない。あいつは、寝つきがすこぶるいい。そしてその分、寝起きは機嫌がかなり悪い。つまり、寝ぎたないわけだが、かけなおしたりしたら、又、機嫌が斜め上に向きかねない。

 それに、「なんであんたが陽花はるかに連絡を取る必要があるの?」と突っ込まれること、間違いなしだ。

「うーん。三池のスマホの番号、変わってないといいが……」

 半分、祈るような気持ちで、スマホに登録してある三池の電話番号をタップする。

 プルル、プルルとコール音がなるたびに、鼓動が大きくなる気がした。

――そういえば、三池に電話するの初めてだな、俺。

 電話番号交換はしたものの、かける用事もチャンスもついになかったのだ。

 そんなことを考えていたら、ぷちり、と電話が繋がって、俺はドキッと固まった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

翡翠の歌姫-皇帝が封じた声【中華サスペンス×切ない恋】

雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に巻き込まれる【詳細⬇️】 陽国には、かつて“声”で争い事を鎮めた者がいた。田舎の雪国で生まれ育った翠蓮(スイレン)。幼くして両親を亡くし孤児となった彼女に残されたのは、翡翠の瞳と、母が遺した小さな首飾り、そして歌への情熱だった。 宮廷歌姫に憧れ、陽華宮の門を叩いた翠蓮だったが、試験の場で早くもあらぬ疑いをかけられる。 その歌声が秘める力を、彼女はまだ知らない。 翠蓮に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。 誰が味方で、誰が“声”を利用しようとしているのか。歌声に導かれ、三人は王家が隠し続けてきた運命へと引き寄せられていく。 【中華サスペンス×切ない恋】 ミステリー要素あり/ドロドロな重い話あり/身分違いの恋あり 旧題:翡翠の歌姫と2人の王子

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

処理中です...