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第一章 春の真ん中、運命の再会
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しおりを挟む『はい、三池です』
ハイトーンの心地よい声音が耳にすうっと、優しく染み込むようになじみ、俺は思わず大きなため息めいた息を吐く。
ぜんぜん変わらない。
三池の澄んだ甘い声音は、高校時代と何も変わっていない。
そのことが嬉しくて、思わず自然に口の端が上がる。
ああ、俺、やっぱり今でも三池のこと、好きなんだなぁ……。
しみじみと実感しつつ、言葉を紡ぐ。
「あ、もしもし、三池? 俺、佐々木だけど。わかるかな?」
「え……? 佐々木君って、あーちゃんの従弟の佐々木浩二君?」
電話の向こうで息をのんだ気配の後、三池は心底驚いたように俺の名前を呼んだ。まあ高校卒業以来、七年ぶりくらいだから、驚くのも無理はないか。初めて電話したわけだし。
あーちゃんとは、亜弓のことだ。三池の中の優先順位が亜弓の次なのは少し悲しいが、二人は親友だったのだから仕方があるまい。
「ああ、その佐々木亜弓の従弟の佐々木浩二です」
「うわー、本当にっ!?」
それにしても、普通、着信表示を確認してから電話に出るものだが。変な勧誘やヤバイ相手だったらどうするんだ? と思わず心配になる。
そういえば、意外に三池はおっとりしているところがあったから、電話がなったからとりあえず出てみたのかも知れない。
「本当、本当、間違いなく、俺です」
「うわー、うわー、本当に佐々木君だ。びっくり!」
よほど驚いたらしい。三池は、電話の向こう側でしきりに「うわー」を連発している。
「そんなに驚いてくれて、勇気を振り絞って電話をした甲斐があったよ」
本音をさらりと混ぜでおちゃらければ、三池は楽しそうにクスクスと笑ってくれた。
『ごめんね。実は、今溜まりに溜まった写真を整理していて、ちょうど高校の時の写真をアルバムに並べて『みんなどうしてるかなぁ。会いたいなぁ』なんて思っていたところだったから、本当に驚いちゃって』
「へぇ。そんな偶然、あるんだなぁ。うん、運命かもしれない」
『本当に、びっくりした』
楽しそうに笑ってくれて何よりだ。このままおしゃべりしていたいところだが、まずは肝心の要件を伝えねば。
「実はさ、伊藤がプロサッカーチームに入って、今度試合をするんで、三池も一緒に見に行かないかな? と思って」
『えっ? 伊藤君が、プロになったの? サッカーの?』
「うん。俺も、さっき伊藤から電話をもらって知ったとこだけど」
電話の向こうで、三池が感心したように大きなため息をつく。
『すごいね、伊藤君。サッカーのプロになっちゃうなんて、本当にすごい……』
ああ、本当にすごい奴だ。伊藤は。
「で、伊藤がチケットを用意するから、亜弓や三池にも声をかけてみてくれないかっていうんで、こうして電話をしてみたんだ」
『えっ、あーちゃんも来るの!?』
三池が、驚きと喜びの成分を含んだ声を上げる。伊藤の応援に行くことよりも、亜弓に会える方が、三池の喜びのゲージは上がるようだ。
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