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第一章 春の真ん中、運命の再会
14 陽花の回想録-5
しおりを挟む見学後すぐに、わたしはあーちゃんと一緒に、文芸部に入部した。
文芸部の主な活動は、年一回、秋の文化祭に部員の小説や詩を掲載した小冊子を発行することと、前期・後期の二回、コピーの会誌を発行することの二つのみ。
文化祭が近くなると準備のために部室に通う必要があるけれど、それ以外の時期はめいめい好きなことをして過ごしてOK。特に毎日部室に来なくても良いというフリーダムさは、体調に波があるわたしには、かなりありがたい部活だ。
お菓子や飲み物を持ち寄ってお茶会をしたりもするそうで、見学に行った時も、ホットココアと手作りクッキーで大歓迎してくれて、少し驚いてしまった。
というのも、部員数が五名しかいないため、小冊子や会誌を作るにも作品数の確保が難しく、新入生を手ぐすね引いて待っていたのだそうだ。
先輩方も皆気さくで優しい人たちばかり。なにより、あーちゃんが一緒だから、楽しい部活動になること間違いなしだ。
実際、部活動は楽しかった。もっとも、私は書くよりももっぱら読むほう専門で、あーちゃんが書いた小説の読者一号の栄誉を独り占めにしていた。
あーちゃんが書く物語は、テンポが良くてキャラクターの掛け合いが楽しい。きっと、あーちゃんと従弟の佐々木くんの日々のボケとツッコミの積み重ねの賜物なんじゃないかと、ひそかに思ったりしていた。
部活をはじめてよかったのは、知人がたくさんできたこと。不特定多数の人と日常的に挨拶を交わし、たわいない話題で盛り上がれるなんて、今までのわたしからしたらロケットで月に行っちゃうくらいの大躍進だ。
そして、この部活動には、嬉しいオマケが付いてきた。
なんと、文芸部の部室からは、サッカー部の練習風景がとても良く見えた。それはもう特等席っていうくらいばっちりと良く見えた。
風を切ってグランドを走り抜ける黒ちゃん、じゃなくって伊藤君の雄姿を毎日こんなに間近で見られるなんて。私の恋心は日々募るばかり。この募る速度にさらに拍車をかけたのは、下校の時だ。
部活が終わった後、自然な流れで、お昼のメンバー四人、あーちゃんとわたし、佐々木君、伊藤君で一緒に下校するようになったのだ。
最初は、『黒ちゃんに似ているから』と気になっていた伊藤君だけど、接する機会が増えるにつれて、無口で無愛想に見えても、実は細やかな気配りをしてくれる優しい人だと分かってきた。
お昼の時や帰りの時に『少し体調悪いなぁ』と思っていると、『大丈夫か?』と最初に気づいてくれるのは、伊藤君だったりする。
一度、なんで具合が悪いのが分かるのか聞いてみたら、なんでも、妹さんが子供のころ小児ぜんそくだったから具合が悪い人に敏感なのだと言っていた。
「今は、見違えるくらいに元気になったけど」
そう言って、伊藤君は照れくさそうに目元をほころばせた。
――そうだったのか、と思った。
彼の優しさは、痛みを抱える人を間近で見てきたからなのだと、妙に納得した。
自分を気遣ってくれる、そんな優しさにふれて、私の伊藤君に対する想いはどんどん強くなっていくばかり。どんどん、どんどん募っていく想いは、とうとうこの小さな胸の内に収まりきらなくなってしまった。
ついに、わたしは夏休み最後の日。四人で行った初めての夏祭りの夜、伊藤君にこの胸の内を告白をする一大決心をしたのだ。
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