黄昏の恋人~この手のぬくもりを忘れない~【完結】

水樹ゆう

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第三章 異 変 《Accident》

31 拭えない既視感

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「次は、AチームとCチーム、集合ー!」

 審判席から体育教師の張りのある声が飛んできて、優花の隣に座っていた玲子は、ゆっくりと腰を上げた。

「次の試合、アタシのチームだから行くけど、優花、大丈夫?」

 心配げな玲子の問いかけに、優花はどうにか口の端を上げ『平気だよ』と、両手を振った。

「ほら晃ちゃんも、それに、リュウくんもいるし」

 優花の言葉に、リュウは穏やかな笑みで答え、晃一郎はウンウンと頷く。

「そーそー。心配ないから、行ってきな」

 しっしっ! とばかりに、たった今まで玲子が座っていた場所にどっかりと腰を落ち着け、左手をひらひら振る晃一郎に、玲子は険のある鋭い視線を投げつける。

「あんたが居るから、心配なんでしょうが、枯れ草頭!」

「枯れ……草?」

 とげとげしい玲子の態度と言い草が少しばかり勘に触ったのか、晃一郎は眉間に浅い縦ジワを刻んだ。

「枯れ草が嫌なら、ヒヨコ頭でもいいけど。ヒヨコじゃ可愛すぎるでしょ。牛に反芻はんすうされる枯れ草でじゅうぶんよ」

「……なんか村瀬、今日は、やけにつっかかるよな?」

「つっかかってんのは、そっちでしょう? 大体ね、今日のあんたオカシイよ? そもそも、その頭の金髪化。それからして、かなーりオカシイ!」

――やだ。なにこれ?

 二人のやり取りを見ていた優花は、ドキリと身をこわばらせた。

 玲子は、晃一郎にはなんとなく態度が冷たい。

 今までも、そう感じることはあったが、あくまで『そうなのかな?』と感じる程度であって、今のように正面切って、露骨に批判するような言葉をぶつけることはなかった。

「お前なぁ、他人様に向かって『オカシイ』とか言っちゃいけないって、幼稚園の先生に教わらなかったか?」

「あらぁ? オカシイ人にオカシイって言って、何が悪いかな? アタシ、嘘やお世辞が嫌いな性分なのよね」

 いつになく激しい舌戦を繰り広げる晃一郎と玲子の姿に、否が応でも優花の脳裏に浮かぶのは、先刻夢に見たパラレル・ワールドの二人の姿。

 消しようのない既視感は、不安の種を大きく膨らませていく。

 どうしても、夢に引きずられてしまう。そんな自分の思考を振り切るように、優花がギュッと唇を噛んだその時。

「おーい、御堂! 人数足りないから、お前Cチームに入ってくれ!」

 体育教師の鶴の一声が、無限ループしそうな玲子と晃一郎の舌戦に、終止符を打ってくれた。

「なんで俺が……」

 とブツブツと口の中で文句を言いつつ、優花の隣から立ち上がろうとしなかった晃一郎は、玲子に引きずられるように、コートに引き出されて行く。

 その姿を、優花は、ぼんやりと目で追った。皆から少し離れた壁際に残されたのは、優花とリュウの二人。

「隣に座ってもいいですか?」

 ニコリと柔らかな笑顔で問われ、優花の鼓動はドキリと跳ね上がった。異性に対する恋愛感情的なものからではなく、そこに宿る既視感に、跳ねた鼓動は変なふうに乱れてしまう。

 向けられる瞳は、深い海の底のような、ディープ・ブルー。すべてを優しく包み込んでくれそうな包容力のある、この深い瞳の色。

 やはり、知っている気がする。

「あ……、うん。どうぞ」

 コロンだろうか? 

 微かな柑橘系の香りを身に纏って、優花の隣にフワリと腰を下ろしたリュウは、愉快そうにコートに視線を走らせながら、予想外のセリフを吐いた。


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