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第三章 異 変 《Accident》
33 それは誤解です!
しおりを挟む「さっき泣いていた理由を、教えてください」
「……え?」
今までの話の流れからてっきり、好きな漫才のネタでも聞かれるのかと思っていた優花は、意外なリュウの言葉に、虚をつかれて目を丸めた。
「言いたくないのなら、無理には聞きませんけど、気になってしまって……」
いきなり目の前でよく知らない他人がボロ泣きしたら、優花でも気にはなるだろう。ただ、その涙の理由を、直接本人に聞くことはしないだろうが。好奇心よりも、個人のプライベートに踏み込むことへの遠慮が、上回ってしまうのだ。
率直に疑問を質問に変えてくるあたりは、やはり欧米人ならではの、積極的な性格の現れだろうか。
「えっと、あのね……」
涙の理由。
玲子は晃一郎のせいだと決め付けていたが、決して頭をかき回す晃一郎の手が乱暴で痛かったから泣いたのではない。自分でもどうしてだか分からない。だから理由を問われても、困ってしまう。
「コウと、ケンカでもしましたか?」
「えっ……?」
――晃ちゃんと、ケンカ?
「う、ううん。別にケンカは、してないけど、どうしてそう思ったの?」
『晃一郎とケンカしていて優花が泣いた』のだという推論に、どうしてリュウが至ったのか不思議な優花は、思わず質問に質問で返してしまった。
「それはやはり、恋人とケンカをすれば、女の子は泣いたりするものでしょうから」
「は……い?」
酷く聞き捨てならないフレーズを聞いた気がして、優花は、勢いよく眉根を寄せる。
「ですから、恋人とケンカすれば、悲しくなっても仕方ないと思うんです。でもほら、『雨降って地固まる』って言いますし、あまり気にしない方がいいですよ」
――ちょっ、ちょっとまって。今、なんて言った、この人。
恋人とケンカって。私と晃ちゃんが、恋人ってこと?
「ちがっ……、違うよ、リュウくん!」
どこをどうしたら、そういう誤解が生じるのだろう?
優花は、リュウの激しすぎる誤解を、両手に握りこぶしを作って思いっきり否定した。
「……え? 違うんですか?」
キョトンとした表情で目を瞬かせるリュウに、優花は断固として真実を告げる。
「うん、違うっ! 晃ちゃんは恋人じゃなくて、ただの幼なじみだからっ」
「オサナ……?」
――えーい、幼なじみって英語でなんていうんだっけ?
「He is a Friend since……、えーっと、子供のころからだから、From childhood.……でいいのかな?」
学校の英語の勉強自体は嫌いではないが、生の会話となると勝手が違う。
それでも、不思議そうに小首をかしげるリュウに、優花はあまり豊かではない英語力を駆使して説明を試みた。結果。
「Oh, he is a childhood friend! そうですか。コウとゆーかは、ただの友達なんですね!」
ニッコリ、と。
満面の笑みで、リュウは優花の言わんとすることを、どうにか理解してくれた。
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