黄昏の恋人~この手のぬくもりを忘れない~【完結】

水樹ゆう

文字の大きさ
74 / 132
第四章 記 憶 《Memory-2》

74 接触テレパス

しおりを挟む


 一年前の恋人の死から、晃一郎は変わった。

 強力な超能力ちからを持ちながら、なす術もなく、目の前で彼女を死なせてしまったことへの悔恨の念。医師として、その命を救うことができなかったことへの、自責の念。

 生活態度や素行が荒れるということがなかった分、その負のエネルギーは、内に篭ってしまったのだろう。

 もともとの気質である陽気さはなりを潜め、まるで自分を追い込むように仕事に没頭することで、己を保っている。そんな姿を見ても、自分にはどうすることもできなかった。
 
 ESPカウンセラーなどというたいそうな肩書きは、何の役にも立たないのだと痛感させられた。

 所詮、人は、神にはなれない。
 人は、人を救うことなど、できはしない。

 そんな諦めにもにた日常の中、あの子が、イレギュラーの優花が現れた。

 初めは、イレギュラーという存在そのものに対する純粋な好奇心から、彼女の保護に協力を申し出た。だが、実際会ってみたら、もうだめだった。

 超能力など必要がないくらいに分かりやすい、くるくると変わる表情。

 何事にも一生懸命で、純粋で。
『彼女』とは違う、でも確かに、彼女と同じ魂の色をもった、少女。

 彼女に惹かれた者ならば、おそらく惹かれずにはいられないだろう、奇跡のような存在。

 優花との出会いからわずかの間に、晃一郎は、目に見えて昔の自分を取り戻していった。何よりも、心から笑うようになったし、こうして、リュウのところへ顔を出すようにもなった。

 その原動力が保護欲なのか、それとも――。

 どちらにしても、ようやく立ち直りつつある晃一郎に、真実を打ち明ければ、結果は火を見るよりも明らかだ。陽気で闊達なことが取り柄の男が、また、うっとおしく落ち込む姿は見たくない。

 だが、恋人のすぐ近くに在りながら、その存在に気付かれずにいる彼女の心中を思うと、いたたまれなくなる。

「言うべきか、言わざるべきか、それが問題、か――」

 自分の迷いを茶化すように、ハムレットを気取り、呟きを落とす。

 脳裏をよぎるのは、在りし日の彼女の言葉。

『あのね、リュウくん。迷ったときは、ごちゃごちゃこ難しいこと考えないで、自分がどうしたいのか、を考えるのよ』

 何をすべきなのか、ではなく、何をしたいのか。

 義務ではなく、権利を。

「そうだね。優花……」

――今もなお、こうして君の残した言葉は、ボクにしるべを与えてくれる。その君の遺志を、ボクは守りたい。

 リュウの心は決まった。『彼女』の存在は、晃一郎には伏せておく。

「残る問題は、こっちの方だな」

 こつんと、リュウは、パソコン画面をひとさし指で弾いた。

 パソコン画面に映った若干ノイズ交じりの映像。それは、優花が見た光景を映像化したものだ。映っているのは、つい先刻、エレベーターの中で優花が出会った女、艶然と微笑む、黒田マリア。

 彼女と握手をした瞬間、優花に走った感覚。あれは、超能力による干渉を受けたための現象だ。黒田マリアは、直接手で触れることで相手の記憶を読む、接触テレパスと見てまず間違いない。

 その能力自体はポピュラーなもので、別に珍しくはない。問題は、なぜあの場所で、優花に対してその力を使ったのかだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

平凡志望なのにスキル【一日一回ガチャ】がSSS級アイテムばかり排出するせいで、学園最強のクール美少女に勘違いされて溺愛される日々が始まった

久遠翠
ファンタジー
平凡こそが至高。そう信じて生きる高校生・神谷湊に発現したスキルは【1日1回ガチャ】。出てくるのは地味なアイテムばかり…と思いきや、時々混じるSSS級の神アイテムが、彼の平凡な日常を木っ端微塵に破壊していく! ひょんなことから、クラス一の美少女で高嶺の花・月島凛の窮地を救ってしまった湊。正体を隠したはずが、ガチャで手に入れたトンデモアイテムのせいで、次々とボロが出てしまう。 「あなた、一体何者なの…?」 クールな彼女からの疑いと興味は、やがて熱烈なアプローチへと変わり…!? 平凡を愛する男と、彼を最強だと勘違いしたクール美少女、そして秘密を抱えた世話焼き幼馴染が織りなす、勘違い満載の学園ダンジョン・ラブコメ、ここに開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

処理中です...