黄昏の恋人~この手のぬくもりを忘れない~【完結】

水樹ゆう

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第四章 記 憶 《Memory-2》

75 内部告発

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 ただの偶然か、それとも何らかの目的があっての、必然か。どちらにせよ、この件は、晃一郎の耳に入れておいた方がいいだろう。

 優花の部屋に電話を掛けようと、電話機に手をのばしたそのとき。

 プルル――
 プルル。プルル――

 突然上がった電話の呼び出し音に、リュウは、眉根を寄せた。

 嫌な予感がする。リュウに予知能力はないはずだが、こういうときの第六感は意外と当たるのだ。

「はい、タキモトです」
『ああ、タキモトくん。すぐにつかまってよかったよ』

 ほっと、安堵したように言うその声は、所長の鈴木博士のものだ。その声音は、普段のこの人物からすれば、だいぶ緊張したものだった。リュウの中の漠然とした不安が、現実味を帯びてくる。

「どうしました、博士?」
『実は、今からここに査察が入る。たった今、通達があったんだ』
「査察って、保健省のですか?」
『いや、公安の特務二課だそうだ』

 ESPを有する者ならば必ず知っているその機関名に、リュウは思わず息を呑んだ。

「特務って、まさか……」

 公安、国家公共安全機構は、内閣総理大臣を長とする政府直轄の国の安全を守るために組織された機関で、特務課は、主にESP犯罪を取り締まる、警察のようなものだ。

 特務一課は、ESP犯罪対策課。
 そして、特務二課は、イレギュラー対策課だ。イレギュラーが潜伏していると通報が入った場合、この機関が動くのだ。

 それが査察に入る、ということは――。

『おそらく、優花ちゃんの件だろう。残念だが、内部告発があったと見るべきだろうね』

 リュウの脳裏に浮かんだのは、エレベーターの女。それは、確信に近いものだった。

――黒田マリア。リークしたのは、あの女だ。

 いったい、どこまで読まれたのだろうか?

 思考の自己シールドができるならばその表層だけで被害はすむが、なにせ相手はまだ能力未覚醒で、思考がだだもれ状態の優花だ。もしも、もう一人の優花の件が公安の知るところになれば、かなり厄介だ。

 稀有な銀色の髪を持つ、空間移動テレポート能力を有した、特Aランクの能力者、如月優花。今は亡き彼女のイレギュラーだと知れれば、追及の手は更に厳しくなるはずだ。

 おそらくは、その身を確保するまで、奴らは諦めはしないだろう。

 普通の警察ならまだしも、自らも超能力を有した対ESP部隊。飼い犬は飼い犬でも、訓練された獰猛な猟犬だ。

「博士、告発した人間については、心当たりがあります」
『そうか……。もうあまり時間がないから、詳しい報告は後でしてもらおう。君には、優花ちゃんに関する記録をすべて削除してもらいたいのだが』
「分かりました。すぐに取り掛かりますので、そちらはご心配なく」


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