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第七章 記 憶 《Memory-5》
103 カチューシャと首輪
しおりを挟む思念体の優花との二度目の邂逅が、優花の超能力のレベルアップに良い影響をもたらした。
思念体の優花が実質的になんらかのサポートをしてくれたのか、単に優花の心理的な作用によるものかは判然としなかったが、ともかく一つの山を越えたことは確かだった。
ESPカードの的中率はほぼ100パーセントに上がり、晃一郎とポチ以外とのテレパシー会話もできるようになってきた。ただ、自分の思考のシールドが完全ではなく、ある程度のテレパシー能力をもっている人間なら、優花の思考から情報が取り放題。
つまり、優花がイレギュラーだとバレる危険性が高いため、外にでることができなかった。この問題さえクリアできれば、なにも潜伏先に閉じこまらずにすむのだ。
そうなれば、気晴らしに外部のお店にショッピングや食事にでる、という気分転換も可能になる。
「そっかー。まだ自分で思考のシールドはできないのかぁ……」
平日だが、たまたま仕事がオフになり遊びに来ていた玲子が、ため息交じりに言う。
午前十時。
いつもなら、明るい日差しが差し込む食堂のリビングコーナーだが、今日はあいにく朝から降っている雨のせいで、いつもよりも室内が暗く感じる。秋の長雨というやつだ。鬱陶しいことこの上ない。
「うん。いいところまで行ったんだけど、もう一山超えられないっていうか、高くて厚い壁にぶち当たっちゃったというか……」
優花は内心の焦りと苛立ちを吐き出すかのように「はあぁーーっ」と、特大のため息をついた。
『ゆーか、ゆーか、大丈夫だよ。ぼくが助けてあげるから! だから、元気だしてー』
優花の膝の上で小ぶりの尻尾を千切れんばかりにふるポチは、相変わらず無邪気だ。優花は、微笑んでポチの背中をなでてやる。ポチはいつもそばにいて優花の気持ちに寄り添ってくれる。優しい守護獣なのだ。
「うん。ありがとう、ポチ。でも思考のシールドが自分でできるようにならないと、その先に進めないからね」
「だよねー。自分で力のコントロールができるようにならなきゃ、空間移動をするのは危険すぎるもんねぇ……」
「うん……」
いざ、元の世界に帰ろうとしたときに超能力が暴走してしまったら、どこに飛ばされるかわからない。
実のところ、優花は詳しい超能力の仕組み自体は良く分かっていないが、単純に、力を充分に発揮するためにはすべてをマスターしたうえで、コントロールが必要だということはなんとなく理解していた。
がっくりと肩を落として意気消沈している優花に、玲子はバックからあるものを取り出して、ニッコリと満面の笑顔を浮かべて言う。
「ジャジャジャジャーン! そこで登場、お役立ちのこのグッズを優花ちゃんにプレゼントしてしんぜよう」
玲子の手に握られているのは、黒いカチューシャと、黒い首輪だった。どちらも素材は金属のようだが、重さはさほど感じない。
「カチューシャと、首輪?」
「そう、カチューシャは、優花に。首輪はポチにね」
「え……?」
ソファーから腰を上げた玲子は、優花の頭にカチューシャをつけて、優花の膝の上でその様子を興味深々で見上げていたポチの首に首輪をかちりとはめる。
「これはね、ESP抑制機能が付いたアクセサリーで、本来は強すぎる力が無意識に発動してしまわないようにするためのものなんだけど、思考のシールドもできるの」
「思考のシールドが?」
「そう。だから、これをつければ、おでかけOK! ってこと」
普段付けなれない首輪が気になるのか、ポチは後ろ足でカシカシと首輪を掻いている。でも、普段ならこんな時はうるさいくらいに聞こえてくるポチの心の声、テレパシーは全く聞こえてこない。
「ポチも一緒にお出かけしたいなら、その首輪をしなきゃだめだよ。それとも、ひとりで留守番する?」
悪戯っこめいた表情で玲子に問われたポチは、首輪を掻いていた後ろ足をピタリと止めて、ちんまりとお座りポーズで尻尾を振る。テレパシーが通じないだけで、言葉は理解できるのだ。
「そう、いい子だね、ポチ。ということで、あいにくの雨っぷりだけど、ウインドーショッピングに行くわよ、優花!」
「……はい?」
玲子は、仁王立ちで腰に手を当てると、満面の笑顔で呆然とする一人と一匹に、そう宣言した。
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