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第一章 新婚初夜には不寝番がつくそうです
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巫女服モドキのナイトドレスの下には何も着ていない。風呂上がりに侍女に着付けをしてもらったのだが、その時に下着の類はいっさい用意されていなかった。
「あの、下着はないんですか?」
衣装の淫靡さに度肝を抜かれつつおずおずと結衣が尋ねると、面布の下で侍女がおかしそうに笑った。
「まあ若奥様、今宵は契りの儀、新婚初夜ですよ。そんな無粋なもの必要ありませんわ」
「あ、そうですよねー、あははは……」
『どうせすぐに脱いでしまうのだから初めから着ない方針』らしかった。
合理的と言えば合理的だが、ふだん下着を一切付けない生活というものを経験したことがない結衣にとっては、心もとないことこの上もない。
今夜、司と結ばれることは妻の勤めとして覚悟はしているが、だからと言って羞恥心が無くなるわけもなく。
やたらとふかふかした布団の上に横たえられた結衣は、己の絶対領域を見せじと、膝を合わせて力を入れた。
「力を抜け。今からそんなに力んでいたら、体が持たないぞ?」
結衣の右側に横たわった司が、膝の上の隙間にスルリと手を這わせて、愉快そうに笑う。
くすぐったい感覚と、急上昇する羞恥心メーターが、さらに結衣の体を強張らせてしまう。
その反応すらも楽しむように、上体を起こして結衣の視線を捉えた司は笑みを深める。
「お、おかまいなくっ。お好きなようになさってくださいっ。私の方はぜんぜん大丈夫なので!」
「こういうものは、お互いの協力が必要なんだがな……」
苦笑気味に呟きを落とした司は、片手だけでナイトドレスの朱色の帯を造作もなく解いて引き抜く。
(あっ……)
っと結衣が反応する隙もなく、支えを失くしたドレスの合わせ目は重力に引かれるまま、布団の上にサラリと落ちて。
若々しい豊かな双丘と、無駄な贅肉のない瑞々しい肢体が露わになる。
見られている。
痛いほどの視線を感じて、ますます結衣の羞恥心メーターは急上昇。
(お、おねがいだから、早く、素早く、短時間で、ちゃっちゃとすませてくださいっ!)
心の中でまくし立てれば、それに答えるようなセリフが上から降ってきた。
「それは嫌だな」
完全に語尾が笑っている。
「えっ……?」
(今、私、声に出して言ってないよね?)
「ああ、言ってないな」
「えっ、な、な、な、なんでっ!?」
間違いなく、司は結衣の心の声に反応して答えてくる。
(まさか、社長って超能力者かなんかなの!?)
それではまるで、今手掛けているゲームの和風ファンタジーの世界ではないか。
そんな非現実なことあるわけがないとは思うが、それでは今起きている現象をどう説明する?
「ほんと、お前は面白いな……」
喉の奥で笑って司は言葉を続ける。
「もしも俺が龍の化身だと言ったら、お前はどうする?」
「えっ……?」
(龍!? ってあのニョロニョロ長いぎょろ目の凶悪顔の空飛ぶ爬虫類!?)
結衣がそう考えた瞬間、司がこらえきれないように盛大に吹き出した。そのまま苦しそうに体を揺らして笑っている。
「ったく、前から面白い奴だとは思っていたが……」
どうやら司の爆笑ポイントをついてしまったらしい。しかし、問題はそこじゃない。
「社長って、龍の化身なんですか?」
「だとしたらどうする?」
しばし考えを巡らせたあと、結衣は正直な気持ちを口にした。
「えっ、あの、爬虫類はちょっと……」
「……龍は、爬虫類とは違うと思うが?」
司は気を悪くする様子もなく、楽し気に口の端を上げる。だが視線は真っ直ぐ結衣に向けられ、あながち冗談でもない雰囲気を漂わせていた。
「えっ、でもビジュアル的には、空飛ぶ爬虫類ですよね?」
「……まあ、否定はできないな」
何かを思い出すように、司は目を細めて言う。
「期待に添えず残念だが、俺はただの人間だ。先祖が代々、白竜を祀っているというだけの話だ」
「え、じゃあ、なんで私の考えてることが……?」
「さあて、なんでだろうな?」
ニヤリと笑って、司は結衣の唇を軽くついばんだ。
「あの、下着はないんですか?」
衣装の淫靡さに度肝を抜かれつつおずおずと結衣が尋ねると、面布の下で侍女がおかしそうに笑った。
「まあ若奥様、今宵は契りの儀、新婚初夜ですよ。そんな無粋なもの必要ありませんわ」
「あ、そうですよねー、あははは……」
『どうせすぐに脱いでしまうのだから初めから着ない方針』らしかった。
合理的と言えば合理的だが、ふだん下着を一切付けない生活というものを経験したことがない結衣にとっては、心もとないことこの上もない。
今夜、司と結ばれることは妻の勤めとして覚悟はしているが、だからと言って羞恥心が無くなるわけもなく。
やたらとふかふかした布団の上に横たえられた結衣は、己の絶対領域を見せじと、膝を合わせて力を入れた。
「力を抜け。今からそんなに力んでいたら、体が持たないぞ?」
結衣の右側に横たわった司が、膝の上の隙間にスルリと手を這わせて、愉快そうに笑う。
くすぐったい感覚と、急上昇する羞恥心メーターが、さらに結衣の体を強張らせてしまう。
その反応すらも楽しむように、上体を起こして結衣の視線を捉えた司は笑みを深める。
「お、おかまいなくっ。お好きなようになさってくださいっ。私の方はぜんぜん大丈夫なので!」
「こういうものは、お互いの協力が必要なんだがな……」
苦笑気味に呟きを落とした司は、片手だけでナイトドレスの朱色の帯を造作もなく解いて引き抜く。
(あっ……)
っと結衣が反応する隙もなく、支えを失くしたドレスの合わせ目は重力に引かれるまま、布団の上にサラリと落ちて。
若々しい豊かな双丘と、無駄な贅肉のない瑞々しい肢体が露わになる。
見られている。
痛いほどの視線を感じて、ますます結衣の羞恥心メーターは急上昇。
(お、おねがいだから、早く、素早く、短時間で、ちゃっちゃとすませてくださいっ!)
心の中でまくし立てれば、それに答えるようなセリフが上から降ってきた。
「それは嫌だな」
完全に語尾が笑っている。
「えっ……?」
(今、私、声に出して言ってないよね?)
「ああ、言ってないな」
「えっ、な、な、な、なんでっ!?」
間違いなく、司は結衣の心の声に反応して答えてくる。
(まさか、社長って超能力者かなんかなの!?)
それではまるで、今手掛けているゲームの和風ファンタジーの世界ではないか。
そんな非現実なことあるわけがないとは思うが、それでは今起きている現象をどう説明する?
「ほんと、お前は面白いな……」
喉の奥で笑って司は言葉を続ける。
「もしも俺が龍の化身だと言ったら、お前はどうする?」
「えっ……?」
(龍!? ってあのニョロニョロ長いぎょろ目の凶悪顔の空飛ぶ爬虫類!?)
結衣がそう考えた瞬間、司がこらえきれないように盛大に吹き出した。そのまま苦しそうに体を揺らして笑っている。
「ったく、前から面白い奴だとは思っていたが……」
どうやら司の爆笑ポイントをついてしまったらしい。しかし、問題はそこじゃない。
「社長って、龍の化身なんですか?」
「だとしたらどうする?」
しばし考えを巡らせたあと、結衣は正直な気持ちを口にした。
「えっ、あの、爬虫類はちょっと……」
「……龍は、爬虫類とは違うと思うが?」
司は気を悪くする様子もなく、楽し気に口の端を上げる。だが視線は真っ直ぐ結衣に向けられ、あながち冗談でもない雰囲気を漂わせていた。
「えっ、でもビジュアル的には、空飛ぶ爬虫類ですよね?」
「……まあ、否定はできないな」
何かを思い出すように、司は目を細めて言う。
「期待に添えず残念だが、俺はただの人間だ。先祖が代々、白竜を祀っているというだけの話だ」
「え、じゃあ、なんで私の考えてることが……?」
「さあて、なんでだろうな?」
ニヤリと笑って、司は結衣の唇を軽くついばんだ。
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