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第四話 【秘密】後ろめたさの理由。
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しおりを挟む家が近所なこともあって、いとこの浩二とは子供の頃から姉弟のように育った。身内びいきになっちゃうけど、とても良いヤツだ。
お調子者な所もあるけど、善良でお人好し。いつもニコニコムードメイカー。だから、一見コワモテで他人から『恐いヤツ』『何を考えているか分からないヤツ』と敬遠されがちだった伊藤君と馬が合ったのだ。
もっとも、浩二はもともと誰とでも合わせてしまうような『八方美人的』な所があるんだけど。それでも、いとこの私から見ても、浩二と伊藤くんはサッカーのチームメイトとしても友達としても、良いコンビだったと思う。
「何よ、歯切れが悪いなぁ。何か言いたいなら、ハッキリ言いなさいよ」
電話の向こうで黙り込んでしまった浩二に、発破をかける。自分の優柔不断さは棚の上に上げちゃうけど、他人がハッキリしないのは、あまり好きじゃない。
『ああ。あのさ……』
「うん?」
『陽……、三池のことなんだけど』
「え? 三池って陽花のこと?」
『ああ』
何で、浩二から陽花の名前が出るんだろう?
高校を出てから、すっかり疎遠になっちゃったけど、陽花も地元でOLをしているって風の噂で聞いている。あ、そうか。伊藤君経由で、聞いたのかな?
『伊藤君と三池さん、卒業してから付き合ってるみたいだよ』と、高校時代の共通の友達に聞いたのは、二十歳の成人式のとき。
あの二人は、きっと幸せにやっているんだろうな……。
また。心の奥に、ズキンと鈍い痛みが走った。
まったく。
いつになったら、この痛みは消えてくれるんだろう。
我ながら、往生際が悪いというか何というか。それとも、叶わぬ思いほど、時と共に薄れずに募ってしまうものなのだろうか?
「陽花が、どうしたの?」
『ああ。口止めされてたんだけど……。三池、今、中央病院に入院しているんだ』
「――え?」
ニュウイン?
一瞬、何のことを言われているのか分からずに、ポカンとしてしまう。
でも、『中央病院に』の単語で、その言葉の意味に思い当たった。
「入院って、なんで!? ケガでもしたの!?」
あまりに思いがけないことに、声がワントーン跳ね上がる。
色白で小柄で、華奢を絵に描いたような子だった陽花。入院だなんて、ベッドの上に寝ているハルカなんて、痛々しすぎて想像したくない。
『持病の心臓病が悪化したんだ』
浩二から聞いて初めて私は、陽花に心臓の持病があったことを知った。
そう言われれば確かに、高校の体育も見学しがちで保健室にも常連さんだった。だた、それは『虚弱体質なんだ』程度にしか私は認識していなかった。
まさか、心臓病だなんて。そんな大変な病気を抱えていたなんて――。
一番の親友だと言いながら、私は陽花の何を見ていたんだろう。
いつも笑顔で。私に元気をくれた、陽花。もっと早く連絡を取り合えば良かった。
そんな後悔ばかりが、頭の中をグルグル回る。
『亜弓?』
「あ、ごめん。中央病院に入院しているのね?」
『ああ』
「わかった、週末にでも、お見舞いに行ってみるよ」
じゃあね。
って電話を切ろうとしたら、浩二が『俺も一緒に行くから』と言いだした。
まあ、親友の彼女なんだから、お見舞いの一つもしなきゃだね。
と言うことで、今度の土曜日にいったん実家に帰って、そこから浩二の車で一緒にお見舞いに行くことになった。
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