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21【追憶⑦】
しおりを挟む一見してペアルックに見える服装で手を繋いで歩く私たちは、傍目には、仲の良いカップルに見えるのだろうか?
大学内で耳にする噂では、『女の子にモテまくりでより取り見取り』だという榊先輩はともかく、人生で初めて異性と手を繋いで心臓が口から飛び出しそうになっている私は、ただ熱く上気している頬を隠すように、うつむき加減で手を引かれていくしかできないのに。
勇気を振り絞って自分から手を繋いでみたけれど、これじゃあ今朝強引にアパートから連れ出された時と、あまり変わらない。
そう、BGMはやっぱり、ドナドナで。
今朝よりは多少曲調は明るくなった気がするけど、根底に流れる何とも言えない『情けなさ』は同質のものだ。
我ながら、今時の大学生にあるまじき状態だとは思う。でも悲しいかな、これが十八年の人生で培ってきた『高橋梓』という人間なのだから仕方がないと、自分を慰めながら足を進める。
レストランの入り口上部の外壁には『停車駅』と書かれた木製の白い看板がかかっていて、店名に由来するのか電車の駅の看板を模したような作りになっていた。素焼きレンガ風のタイルが敷き詰められたエントランス部分の『WELCOME!』と染め抜かれたグリーンの玄関マットを踏むと、軽やかに自動ドアが開いた。
その瞬間、圧力すら感じる熱気と香ばしい匂いに全身を叩かれた。思わず足が止め、二階まで吹き抜けになっている広々とした店内を、呆然と見渡す。
所謂、バーベキュー形式のレストランだった。
どっしりとした作りのウッディな四人掛けのテーブルの中央には黒い鉄板が備え付けられていて、そこで肉や野菜を焼いて食べるようになっている。鉄板で肉や野菜を焼く香ばしい匂いは食欲中枢をもろに刺激して、急に空腹感に襲われた。
でも足が止まったままの理由は、それだけじゃない。目の前に展開されている珍妙な光景に、心底驚いたからだ。
わぁっ、なにこれっ!
二階まで吹き抜けになっている店の中央部分。そこに何と『ミニチュアの黒い蒸気機関車』が颯爽と走っていた。否、走りまくっていた。
車両の高さは五十センチ、幅は三十センチほど。細部まで精巧に作りこまれた模型で、先頭車両には『D51』や『C62』などの、アルファペットと数字を組み合わせた金色の文字が印字されている。この機関車が、駅名が付けられた各テーブルにオーダーされた料理を運んでいる。
言うなれば、『給仕のメインスタッフは、蒸気機関車!』。幼い子供連れの家族が、客層のほとんどを占めている理由が良くわかる。これは、子供でなくても楽しい。
現に私も、さっきまで沈んでいた気持ちが一気に浮上してしまった。それどころか、故郷の町興し計画でこの実物版が線路を走っているのを思い出して、妙に嬉しくなってしまう。
もしかして、ここがさっき先輩が言っていた目的地、『私が喜ぶ場所』なのだろうか?
「な、変わってるだろう?」
『驚き桃の木山椒の木状態』で目の前の光景に見入るばかりの私の反応に満足したように、先輩は二カッと会心の笑みを浮かべた。
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