ワケあり上司の愛し方~運命の恋をもう一度~【完結】番外編更新中

水樹ゆう

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84【親友⑲】

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 DKでは、すっかりくつろぎモードの谷田部課長が一人、コタツテーブルの上に広がったおつまみ群の中から柿ピーを拾い出し、ポリポリとかじっていた。

 そういえば付き合っていた当初も、ビールのツマミと言えば柿ピーとイカの燻製が定番だった。

 飲めない私が好物のピーナッツを選り分けて、いざ『さあ食べよう』とルンルン気分で口に運ぼうとした所をすかさず横取りされ、二人でピーナッツ争奪戦を繰り広げたこともあったっけ。

 他愛無いことでケンカして、じゃれ合って。
 その一つ一つが、煌いていた、あの頃。

 ふっと、記憶の中と目の前の情景が重なり、胸の奥に甘い痛みを伴った想いの欠片が去来する。

 ――だめだめ!
 しっかりしなよ、梓。

 気持ちまで純粋だったあの頃にシンクロしそうになり、自分を戒めるようにぎゅっと目を瞑った。

 それにしても、
 いつもなら自分一人しかいない空間に、他人が居ると言うのは、とても不思議な気分だ。

 それも、心密かに思い続けている相手が自分の生活エリアに当たり前のように存在しているその光景は、不思議と言うか、実にこそばゆい。

「美加ちゃん、やっと寝ましたよ」

 アルコールのせいばかりではなく、自然と緩んでしまう頬の筋肉を引き締めつつ、ポリポリとおつまみを口に運ぶ課長に声をかける。

「そうか……。少しでも、気が晴れたなら、いいんだが」

 どこか心配げな柔らかな笑みが、その顔に浮かぶ。
 常識人の課長らしからぬ深夜の部下宅来訪は、もう一人の傷心の部下を心配しての事だったらしい。

「美加ちゃんなら、大丈夫ですよ、きっと。彼女は、ああ見えても芯の強いしっかりした女性ですから。私も、出来る限りフォローしますから」

 小型の愛玩犬を思わせる愛らしい華奢な外見からは想像できないほど、彼女は仕事をバリバリこなすキャリアウーマンなのだ。今回は、その熱心さが裏目に出てしまったけれど、これに懲りて仕事をおろそかにするような無責任なことを、彼女はしないだろう。

 でもだからこそ、頑張り過ぎてしまわないように、気を配るのは先輩である私の役目だと思う。

「ああ。よろしく頼むよ。男の俺では、踏み込めないこともあるだろうから」
「はい。任せて下さい」

 美加ちゃんは、後輩である前に大切な友人だ。
 格好つけて言うなら、『親友』。

 課長に頼まれるまでもなく、元の元気な美加ちゃんに戻ってくれるなら、彼女のためになるなら、出来る限りのことをしよう。

 心の内で、私は、改めて強くそう誓った。

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