ワケあり上司の愛し方~運命の恋をもう一度~【完結】番外編更新中

水樹ゆう

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183【最愛㉒】

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「あさっ……」

 善は急げって言うけど、さすがに明後日あさっては急ぎすぎなんじゃ。確かに、日曜日だから、学校関係はお休みだろうけど、真理ちゃんにも、それなりの予定があるんじゃ?

「私は、ぜんぜんOKですけど、そんなに急に、真理ちゃん、こっちに来られるんですか?」

 素直に疑問を口にすれば、課長はニコニコうなずいた。

「実は、もともとこっちに遊びに来る予定になっていたんだ。もちろん、君の体調が問題なければだけど」

 私のことを心配性だって言うけど、課長も大概心配性だ。睡眠も食事もばっちりとれたし、気分は最高だし、体調も快調だ。

「ご覧のとおり、私は元気ハツラツですよ。会社をサボって休ませてもらった上、週末に遊びに行くのはちょっと気が引けますけど、上司公認なので平気ですよね?」

 おどけて言えば、課長は、ちょっと苦笑気味に口の端を上げる。

「ありがとう。真理もきっと喜ぶよ。それと、今回は外堀その二も、一緒なんだが……」

 そう言えば、さっき課長は『外堀さんたちが会いたがっている』って言ってたっけ。

――誰だろう?

 外堀って言うくらいだから、味方になってくれそうな、親戚の誰かかな?

「外堀その二さんって、どなたなんですか?」

「……ええーと、日頃、真理の面倒を見てもらっている人で――」

 そこで言葉を切った課長は、ニッコリと、やたらと愛想の良い笑顔を浮かべた。
 この笑顔は、怪しい。限りなく、怪しい。

「名前は、谷田部志保子」
「谷田部……志保子さん」
「そう、志保子さん」

 同じ苗字ってことは、やっぱり親戚の人か。
 真理ちゃんの面倒を見てもらっているなら、叔母さんとかかな?

「どんな関係の人なんですか?」
「……まあ、いわゆる、真理の祖母だな」

 なぁんだ、真理ちゃんのおばあさんか。危うく納得しそうになり、ハタと気付いた。
 真理ちゃんのおばあさんと言うことは、イコール、課長のお義母さん。つまり、義父である谷田部総次郎氏の夫人。世間一般に言うところの、『お姑さん』だ。

「――えっ!?」

 思わず、素っ頓狂な声が出てしまう。それはもはや、外堀と言うより限りなく内堀に近いような気がするんですけど。そこを攻略すれば、残るは本丸、谷田部当主・総次郎氏しかいない。

「やっぱり、抵抗あるか? さっぱりとした気性の、なんと言うか、ユニークな女性なんだが…」

 お姑さんになる人に初めて会う。
 不安や緊張はあるけれど、ここを避けていては、到底本丸にはたどり着けない。

――よし、腹をくくろう。

 もう、だれでも、ドンと来い、だ。

「いきなりの大御所ご登場に、ちょっと驚いただけです。さっぱりとした気性のユニークな人なんですか? お会いするのが楽しみです」

 ニッコリ笑えば、課長はホッとしたように、息を吐く。

「そう言って貰えると、助かるよ」
「ところで、課長」
「うん?」
「私、いつまでこうして正座していればいいんでしょう? けっこう辛いんですけど」

 ずっと、フローリングの床に正座で話し込んでいたものだから、さすがに、足がジンジンとしびれて悲鳴を上げている。

 これはもう、立ち上がったらふらつくレベルだ。

『課長の大事な話は終わった』と思ったから、本音半分冗談半分で言った言葉だったけど、どうも、私の早とちりだったらしい。

「悪い、もう少し付き合ってくれ……」

 ボソリと、困ったように言うと、

 課長は、ワイシャツの胸ポケットから何か小さなモノを取り出し、コホンと一つ咳払いをしてから、再び口を開いた。

「左手を出して」
「はい?」

 何か、くれるんだろうか?

 手の中に隠れてしまっていて、課長が何を持っているのか見えないけど、かなり小さなものだ。

――飴ちゃん?

 言われるまま左手を、手のひらを上にして前に出せば、課長はちょっと苦笑めいた笑いを浮かべながら、私の手の甲を上にひっくり返した。

 訳もわからず見つめる視線の先で、左手の薬指に、何かがはめられる。まるであつらえたように、スウッと薬指の根元におさまった銀色の輪っか。中央にはキラキラと美しい光を放つ、透明な石。

――指輪……?




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