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可愛い部下の愛し方【課長視点】
02 再会①
しおりを挟む「なんだ、東悟。ふてぶてしいのが取り柄だと思っとったが、ガラにもなく、緊張しとるのか?」
関東某県、最大の規模を誇る鉄骨建築会社『太陽工業』の、広々とした社長室。
これまた広々とした特注サイズの大ぶりの嵌め殺し窓が並ぶ東壁面を背に、ドンと据え置かれたダークオークの黒光りするデスクの前に鎮座した、酒瓶を抱えた信楽焼の狸――
もとい、一見信楽焼の狸にそっくりな恰幅の良い親父、本日から一年間の期間限定で俺のボスになる大海太陽は、日本茶を『ずずっ』とすすりながら福々しい笑顔で辛辣なセリフを吐いた。
見てくれから、『布袋様』とか『大黒様』とか、七福神にたとえられるが、狸で充分。
親父の友人だったこの御仁は、血の繋がりはないが実の叔父と甥のような近しい存在で、この親父が無類の悪戯好きであることを、俺はよく知っている。
「誰が、ふてぶてしいんですか、誰が。俺みたいに殊勝な男は、他にいないと思いますが?」
「ほう、いつから、この不景気のご時世に、コネで就職しようなんて太い考えの奴を、殊勝と呼ぶようになったんだ?」
「さあ、昨日あたりからじゃ、ないんですか?」
「ほうほう、それは、しらなんだ」
心底意外そうな声音には、明らかに俺をからかって遊んでいるような響きがある。
それを分かった上で、俺も、手元に広げた今日から自分が任される工務課の人事資料に目を通しながら、この会話のキャッチボールを楽しむ余裕があった。
ある人物のページを、めくるまでは――。
最初に目に飛び込んできたのは、書類右上に貼られている、バストショットの証明写真。
卵形の白い顔には、色気のない黒縁メガネが乗っている。
首の後ろで無造作に一括りにされた、柔らかそうな、ストレートの黒髪。
ほんのりと赤く色づく、ふっくらとした、唇。
まさか、という信じられない思いで、名前の欄に目を這わせる。
――高橋……梓?
同じ顔で同じ名前の人物が存在するのでなければ、間違いない。
そこに書かれている人物は、本日から、俺の直属の部下になる。
その女性は九年前、俺が、手酷く傷つけたまま一方的な別れを告げた、元恋人・高橋梓。その人に、間違いなかった。
――まさか。まさか……な。
こんなところで再会するなんて、天罰ってやつだろうか?
神様だの奇跡だのはまったく信じてはいないが、悪魔の采配というのは、あるのかもしれない。
そう思いたくなるような、そんな偶然だった。
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