26 / 138
第2章 汗と涙の、オトナのお仕事ライフ
26 社長は、まさかの憧れの人?①
しおりを挟む「さて、着替えがすんだら、社長が事務所で待っているはずだから、行こうか?」
主任の言葉に、私は首をかしげた。
――え?
待っているって、私を?
面接は終わってるはずだし、いったい、何の用があるんだろう?
疲れすぎてイマイチ回転の良くない脳細胞で、つらつらと考えを巡らせつつ、着替えをすませ、一階の事務所へと向かう。
他の面々は事務所で、タイムカードを押して銘々に退社して行った。残ったのは、スマイリー主任と私の二人きり。
「茉莉ちゃんは、社長室ね」
「あ、はい」
私はスマイリー主任の後に続き、少しドキドキしながら面接があった部屋、社長室に足を運ぶ。
「失礼しまーす」
元気に声を掛けて部屋のドアを開け、足取りも軽やかにスタスタと歩いていくスマイリー主任の後を、重い足取りで付いていく。不動社長は、デスクのパソコンに向かって何やらタイピング中だった。
――こんな時間まで、仕事してるんだ。
なんだか、すごいなぁ。
伊達に、社長さんをやってるんじゃないんだ。
軽やかなキーボードさばきに、思わず見惚れてしまう。
「社長。篠原さん、無事に初仕事完了しましたよ」
仕事の疲れなど、みじんも感じさせない爽やかな主任の言葉に、社長は、キーボードを打ちながら眼鏡越しに少し鋭い視線をチラリと上げる。
その瞬間。なぜか『ドキリ』と、鼓動が跳ねた。
ドキドキドキと、早まる鼓動。そして感じる、既視感。
――あれ?
前にも、こんなシチュエーション、なかったっけ?
つい最近。私、この瞳を、見た気がする。
心の奥底を見透かすような、そんな鋭い眼差し。
どこでだろう?
こんな印象的な眼差し、簡単に忘れそうもないけど。
でも、しばらく考えを巡らせても、まったく思い出せない。
「ご苦労さま」
ニコリともせずにそう言って、社長が私に手渡したのは、茶封筒。何気なく受け取り何だろうと中を覗くと、1万円札が一枚入っていて『ぎょっ』とする。
「あ、あの、これは?」
何でしょう?
私は、答えを求めて、社長の顔を見つめた。
「正式には、月曜から採用だからね。今日は臨時のアルバイトと言うことで現金払いです」
「えっ!?」
――現金で貰えちゃうの?
それも、1万円も!?
あくまで事務的に説明をする社長とは対照的に、私は、顔が妙な感じにニヤケてしまう。
――だってまさか、面接当日にお給料貰えちゃうなんて……。
それも、福沢さんよ、1万円!
超・ラッキー!
あの、筋肉の限界に挑戦したような大変さも、すぐにでもベッドに倒れ込みたい疲労感も、何処かにすっ飛んでしまった。
って、あれ?
夜勤は時給換算で、1200円とか言ってたような……。
はたと気が付き、私は、脳内電卓で計算を開始した。
ぱちぱちぱち。
夕方5時~深夜2時の、9時間。
そのうち1時間は休憩だったから、実働8時間。
8時間×1200円=9600円。
……だよね。
「あ、おつり、400円ですよね。ちょっと待って下さい、今、出しますから」
そう言って、バックの中をごそごそ探って財布を取りだして視線を上げたら、社長とスマイリー主任が微妙な表情で、顔を見合わせていた。
『唖然としている』。そんな感じの二人の表情に、私はギクリと固まってしまう。
――うわっ。
もしかして、計算間違えたの!?
思わず指折り数えて計算し直していたら、スマイリー主任が耐えられないと言うように『プッ』と吹き出して、クスクス笑い出した。
「それが、今日のアルバイト料ってこと。だから、おつりはいらないんだよ。ね、社長?」
「ああ」
愉快そうに言うスマイリー主任に対して、社長はあまり表情を動かさない。
って言うか、呆れている?
「え? そ、そうなんですか!? あの、その、ありがとうございます……」
1万円入りの茶封筒を『ははーっ』と捧げ持ち、ペコリと頭を下げる。
――うわぁ、又もや、やらかしてしまった。
初っぱなから1分遅刻するし、顔面激突だし、鼻血ブーだし。
でも、ものは考えよう。
初めにこれだけぶっちゃけちゃえば、もう後は地で行けると言うことで。
思いがけず、嬉しい臨時アルバイト料も、もらえちゃったし。
――まあ、OK?
と自分を慰めていたらバッグの中のスマートフォンが、いきなり鳴り出した。マナーモードの低い振動音が、急かすように鳴り響く。
「あ、すみませんっ」
二人にペコリと頭を下げて画面に視線を走らせれば、表示されている『お父さん』の文字にぎょっとなる。
「あっ……」
――しまった。
私、仕事で遅くなるって、お父さんに連絡してなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。
花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞
皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。
ありがとうございます。
今好きな人がいます。
相手は殿上人の千秋柾哉先生。
仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。
それなのに千秋先生からまさかの告白…?!
「俺と付き合ってくれませんか」
どうしよう。うそ。え?本当に?
「結構はじめから可愛いなあって思ってた」
「なんとか自分のものにできないかなって」
「果穂。名前で呼んで」
「今日から俺のもの、ね?」
福原果穂26歳:OL:人事労務部
×
千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)
憧れていた敏腕社長からの甘く一途な溺愛 ~あなたに憧れて入社しました~
瀬崎由美
恋愛
アパレルブランド『ジェスター』の直営店で働く菊池乙葉は店長昇格が決まり、幹部面談に挑むために張り切ってスターワイドの本社へと訪れる。でもその日、なぜか本社内は異様なほど騒然としていた。専務でデザイナーでもある星野篤人が退社と独立を宣言したからだ。そんなことは知らない乙葉は幹部達の前で社長と専務の友情に感化されたのが入社のキッカケだったと話してしまう。その失言のせいで社長の機嫌を損ねさせてしまい、企画部への出向を命じられる乙葉。その逆ギレ人事に戸惑いつつ、慣れない本社勤務で自分にできることを見つけて奮闘していると、徐々に社長からも信頼してもらえるように……
そして、仕事人間だと思っていた社長の意外な一面を目にすることで、乙葉の気持ちが憧れから恋心へと変わっていく。
全50話。約11万字で完結です。
ワケあって、お見合い相手のイケメン社長と山で一夜を過ごすことになりました。
紫月あみり
恋愛
※完結! 焚き火の向かい側に座っているのは、メディアでも話題になったイケメン会社経営者、藤原晃成。山奥の冷えた外気に、彼が言い放った。「抱き合って寝るしかない」そんなの無理。七時間前にお見合いしたばかりの相手なのに!? 応じない私を、彼が羽交い締めにして膝の上に乗せる。向き合うと、ぶつかり合う私と彼の視線。運が悪かっただけだった。こうなったのは――結婚相談所で彼が私にお見合いを申し込まなければ、妹から直筆の手紙を受け取らなければ、そもそも一ヶ月前に私がクマのマスコットを失くさなければ――こんなことにならなかった。彼の腕が、私を引き寄せる。私は彼の胸に顔を埋めた……
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
訳あって、お見合いした推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
羽村 美海
恋愛
【タイトルがどうもしっくりこなくて変更しました<(_ _)>】
狂言界の名門として知られる高邑家の娘として生を受けた杏璃は、『イケメン狂言師』として人気の双子の従兄に蝶よ花よと可愛がられてきた。
過干渉気味な従兄のおかげで異性と出会う機会もなく、退屈な日常を過ごしていた。
いつか恋愛小説やコミックスに登場するヒーローのような素敵な相手が現れて、退屈な日常から連れ出してくれるかも……なんて夢見てきた。
だが待っていたのは、理想の王子様像そのもののアニキャラ『氷のプリンス』との出会いだった。
以来、保育士として働く傍ら、ソロ活と称して推し活を満喫中。
そんな杏璃の元に突如縁談話が舞い込んでくるのだが、見合い当日、相手にドタキャンされてしまう。
そこに現れたのが、なんと推し――氷のプリンスにそっくりな美容外科医・鷹村央輔だった。
しかも見合い相手にドタキャンされたという。
――これはきっと夢に違いない。
そう思っていた矢先、伯母の提案により央輔と見合いをすることになり、それがきっかけで利害一致のソロ活婚をすることに。
確かに麗しい美貌なんかソックリだけど、無表情で無愛想だし、理想なのは見かけだけ。絶対に好きになんかならない。そう思っていたのに……。推しに激似の甘い美貌で情熱的に迫られて、身も心も甘く淫らに蕩かされる。お見合いから始まるじれあまラブストーリー!
✧• ───── ✾ ───── •✧
✿高邑杏璃・タカムラアンリ(23)
狂言界の名門として知られる高邑家のお嬢様、人間国宝の孫、推し一筋の保育士、オシャレに興味のない残念女子
✿鷹村央輔・タカムラオウスケ(33)
業界ナンバーワン鷹村美容整形クリニックの副院長、実は財閥系企業・鷹村グループの御曹司、アニキャラ・氷のプリンスに似たクールな容貌のせいで『美容界の氷のプリンス』と呼ばれている、ある事情からソロ活を満喫中
✧• ───── ✾ ───── •✧
※R描写には章題に『※』表記
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✿エブリスタ様にて初公開23.10.18✿
俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る
ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。
義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。
そこではじめてを経験する。
まゆは三十六年間、男性経験がなかった。
実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。
深海まゆ、一夜を共にした女性だった。
それからまゆの身が危険にさらされる。
「まゆ、お前は俺が守る」
偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。
祐志はまゆを守り切れるのか。
そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。
借金の取り立てをする工藤組若頭。
「俺の女になれ」
工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。
そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。
そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。
果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。
15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜 【完結】
日下奈緒
恋愛
雨の日の交差点。
車に轢かれそうになったスーツ姿の男性を、とっさに庇った大学生のひより。
そのまま病院へ運ばれ、しばらくの入院生活に。
目を覚ました彼女のもとに毎日現れたのは、助けたあの男性――そして、大手企業の御曹司・一ノ瀬玲央だった。
「俺にできることがあるなら、なんでもする」
花や差し入れを持って通い詰める彼に、戸惑いながらも心が惹かれていくひより。
けれど、退院の日に告げられたのは、彼のひとことだった。
「君、大学生だったんだ。……困ったな」
15歳という年の差、立場の違い、過去の恋。
簡単に踏み出せない距離があるのに、気づけばお互いを想う気持ちは止められなくなっていた――
「それでも俺は、君が欲しい」
助けたはずの御曹司から、溺れるほどに甘やかされる毎日が始まる。
これは、15歳差から始まる、不器用でまっすぐな恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる