オ・ト・ナの、お仕事♪~俺様御曹司社長の甘い溺愛~【完結】

水樹ゆう

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第2章 汗と涙の、オトナのお仕事ライフ

26 社長は、まさかの憧れの人?①

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「さて、着替えがすんだら、社長が事務所で待っているはずだから、行こうか?」

 主任の言葉に、私は首をかしげた。

――え?
 待っているって、私を?

 面接は終わってるはずだし、いったい、何の用があるんだろう?

 疲れすぎてイマイチ回転の良くない脳細胞で、つらつらと考えを巡らせつつ、着替えをすませ、一階の事務所へと向かう。

 他の面々は事務所で、タイムカードを押して銘々に退社して行った。残ったのは、スマイリー主任と私の二人きり。

「茉莉ちゃんは、社長室ね」
「あ、はい」

 私はスマイリー主任の後に続き、少しドキドキしながら面接があった部屋、社長室に足を運ぶ。

「失礼しまーす」

 元気に声を掛けて部屋のドアを開け、足取りも軽やかにスタスタと歩いていくスマイリー主任の後を、重い足取りで付いていく。不動社長は、デスクのパソコンに向かって何やらタイピング中だった。

――こんな時間まで、仕事してるんだ。
 なんだか、すごいなぁ。
 伊達に、社長さんをやってるんじゃないんだ。

 軽やかなキーボードさばきに、思わず見惚れてしまう。

「社長。篠原さん、無事に初仕事完了しましたよ」

 仕事の疲れなど、みじんも感じさせない爽やかな主任の言葉に、社長は、キーボードを打ちながら眼鏡越しに少し鋭い視線をチラリと上げる。

 その瞬間。なぜか『ドキリ』と、鼓動が跳ねた。
 ドキドキドキと、早まる鼓動。そして感じる、既視感デ・ジャ・ビュ

――あれ?
 前にも、こんなシチュエーション、なかったっけ?
 つい最近。私、この瞳を、見た気がする。

 心の奥底を見透かすような、そんな鋭い眼差し。

 どこでだろう?
 こんな印象的な眼差し、簡単に忘れそうもないけど。

 でも、しばらく考えを巡らせても、まったく思い出せない。

「ご苦労さま」

 ニコリともせずにそう言って、社長が私に手渡したのは、茶封筒。何気なく受け取り何だろうと中を覗くと、1万円札が一枚入っていて『ぎょっ』とする。

「あ、あの、これは?」

 何でしょう?

 私は、答えを求めて、社長の顔を見つめた。

「正式には、月曜から採用だからね。今日は臨時のアルバイトと言うことで現金払いです」
「えっ!?」

――現金で貰えちゃうの?
 それも、1万円も!?

 あくまで事務的に説明をする社長とは対照的に、私は、顔が妙な感じにニヤケてしまう。

――だってまさか、面接当日にお給料貰えちゃうなんて……。

 それも、福沢さんよ、1万円!
 超・ラッキー!

 あの、筋肉の限界に挑戦したような大変さも、すぐにでもベッドに倒れ込みたい疲労感も、何処かにすっ飛んでしまった。

 って、あれ?
 夜勤は時給換算で、1200円とか言ってたような……。

 はたと気が付き、私は、脳内電卓で計算を開始した。

 ぱちぱちぱち。
 夕方5時~深夜2時の、9時間。

 そのうち1時間は休憩だったから、実働8時間。
 8時間×1200円=9600円。

 ……だよね。

「あ、おつり、400円ですよね。ちょっと待って下さい、今、出しますから」

 そう言って、バックの中をごそごそ探って財布を取りだして視線を上げたら、社長とスマイリー主任が微妙な表情で、顔を見合わせていた。

『唖然としている』。そんな感じの二人の表情に、私はギクリと固まってしまう。

――うわっ。
 もしかして、計算間違えたの!?

 思わず指折り数えて計算し直していたら、スマイリー主任が耐えられないと言うように『プッ』と吹き出して、クスクス笑い出した。

「それが、今日のアルバイト料ってこと。だから、おつりはいらないんだよ。ね、社長?」
「ああ」

 愉快そうに言うスマイリー主任に対して、社長はあまり表情を動かさない。

 って言うか、呆れている?

「え? そ、そうなんですか!? あの、その、ありがとうございます……」

 1万円入りの茶封筒を『ははーっ』と捧げ持ち、ペコリと頭を下げる。

――うわぁ、又もや、やらかしてしまった。
 初っぱなから1分遅刻するし、顔面激突だし、鼻血ブーだし。

 でも、ものは考えよう。
 初めにこれだけぶっちゃけちゃえば、もう後は地で行けると言うことで。

 思いがけず、嬉しい臨時アルバイト料も、もらえちゃったし。

――まあ、OK?

 と自分を慰めていたらバッグの中のスマートフォンが、いきなり鳴り出した。マナーモードの低い振動音が、急かすように鳴り響く。

「あ、すみませんっ」

 二人にペコリと頭を下げて画面に視線を走らせれば、表示されている『お父さん』の文字にぎょっとなる。

「あっ……」

――しまった。
 私、仕事で遅くなるって、お父さんに連絡してなかった。


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