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第2章 汗と涙の、オトナのお仕事ライフ
27 社長は、まさかの憧れの人?②
しおりを挟む「どうかしたの?」
急に声を上げた私に、スマイリー主任が何事かと首を傾げて聞いてくる。
「え、あの、父に連絡するのを、ついうっかり忘れちゃって……」
「え? 連絡してないの?」
「はい……」
驚いたように目を丸める主任に、アハハと引きつり笑いを向けながら、私はスマホを耳に当てる。
「茉莉!? 大丈夫か!? 今どこにいるんだ!?」
電話が繋がるなり、響いてきたのは大音量の父の声。会社の残務整理が忙しくて、このごろ午前様の父が、家に帰ったら私の姿が見えないんで、驚いて電話をしてきたのだろう。
そりゃぁそうだ。
だって、もう深夜の2時過ぎ。
こんな時間に、家を空けたことなんか今まで無かったんだから、お父さんが心配するのも無理はない。
「あ、お父さん、大丈夫だよ。ゴメンね、連絡が遅くなって――」
『こんな時間まで連絡もなしで帰らないなんて、心配するだろう!?』
怒ってるよ。当たり前だけど。
「うん。ゴメンね、実は……」
いつになく凄い剣幕でまくし立てる父に、しどろもどろの説明を始めたら、誰かにひょいとスマホを取り上げられてしまった。社長室の中には私と主任と社長の三人しか居ないから、主任か社長のどちらかなんだけど。
「社、社長?」
何をするんですか!?
スマホ略奪犯は、不動社長だった。
社長は、あたふたする私にチラリと冷静な一瞥を投げ、スマホをゆっくりと耳に当てた。手が大きいからか、スマホが小さく感じる。
それに、指、長っ……。
イケメンって、こういう何気ないポーズも決まるのねぇ。
なんて、変なことに感心していたら、コホンと一つ咳払いをして社長は口を開いた。
「電話を代わりました、私、不動と申します」
『不動……さん?』
訝しげな父の声が、漏れ聞こえてくる。
「はい。不動祐一郎です。お久しぶりです、篠原さん」
――お久しぶり?
思わぬ話の成り行きに、わけが分からず目を瞬かせる。
「十二年前まで隣に住んでいた、不動咲子の息子です。私のことを、覚えておられますか?」
――十二年前まで、隣りに、住んでいた?
不動咲子さんの、息子さん?
って、ええっ!?
十二年前って言ったら、私は、八歳。
遠い記憶の引き出しを開ければ、鮮やかによみがえる日々。
あのころまだ母は健在で、お隣のおばさんと、とても仲が良かった。家の隣に建っていた、一戸建ての平屋の賃貸アパート。
そこに住んでいたのは、線が細くて綺麗で儚げな、お隣のおばさん『咲子さん』。そして、おばさんによく似た面差しの、優しいメガネのお兄さん。『祐兄ちゃん』。
一人っ子で兄弟がいなかった私には、本当のお兄ちゃんみたいな存在で。優しくて、なんでも知っていて、大好きだった。良く遊んでもらったっけ。
そうだ。亀子さんを掬った夏祭りも、『祐兄ちゃん』と一緒に行ったんだった。
この人が、あの『祐兄ちゃん』?
スマホを耳に当てる社長をまじまじと見上げれば、ギロリと硬質の視線が投げ返され、反射的に視線をそらす。
『なぜ連絡をしなかった?』と、『それぐらいは常識だろう?』と、そんな怒りのオーラ―が滲み出していそうな、その強い視線に、思わずビビる。
――こ、怖いんですが。
このイケメンだけど怒らせたら怖そうな不動社長が、あの『優しかった祐兄ちゃん』?
なんだかちょっと、ううん。かなり、ショック。
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しおりを挟んでくださっている皆様へ。
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