オ・ト・ナの、お仕事♪~俺様御曹司社長の甘い溺愛~【完結】

水樹ゆう

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第3章 これが社長の本性ですか?

51 社長はコーヒーをご所望

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「篠原茉莉さん」
「はいっ!」
「試用期間の就業状況を鑑みて、あなたを、正式採用とします」

『正式採用』

 聞き間違えようのないその言葉を何度も何度も脳内で反芻すれば、じわりじわりと、感動の波が胸の奥からせり上がってくる。

――やった。

 やったよ、お父さん!
 やったよ、お母さんっ!
 やったよ、亀子さんっっ!

「ありがとうございますっ!」

 こんな半人前の私を、社員として正式に採用してくれたことへの心からの感謝の気持ちを込めて、私はしっかりと頭を下げた。

「後で社会保険関連の書類を渡しますので、後日提出してください」
「はい……」

――ああ、だめ。
 なんだか嬉しくて、涙がこぼれそう。

「良かったね、茉莉ちゃん。これからもよろしく」

 親指をぐっと立てて、スマイリー主任は、祝福の笑顔をくれた。

 思えば、この人には、言い表せないくらいにお世話になっている。仕事を一から丁寧に教えてくれたし、大変な時は、さりげなくフォローしてくれて。

 この人が居なかったら私は、途中でギブアップしていたかもしれない。本当に、感謝してもしきれない。

「色々とご指導、ありがとうございました。これからも……っ」

『よろしくお願いします!』

 そう、元気に言おうと思ったのに。
 ポロリと、あふれ出した嬉し涙が、続く言葉を一緒に押し流してしまった。

「あ、あっり……ござ、ますぅ……」

 手の甲でぐしぐしと涙をぬぐい、ちゃんと言おうとすればするほど言葉は掠れて、更に涙はあふれ出す。

「あーあ。社長、女の子泣かしちゃだめじゃないですかー」
「誰が泣かすか。今のはむしろ、お前のせいだろう?」
「それは、違います。悪いのはいつも社長です。ボクは、いつでも正義の味方ですから」
「誰が『ボク』だ。気色悪い。お前はもういいから、早く帰れ」
「はいはいはい。お邪魔虫は、馬に蹴られないうちに帰りますよー」

『それじゃ、お先にね』と、カラカラ笑いながらスマイリー主任は、部屋を出て行ってしまった。

 残されたのは、まだ半べそ状態の私と黙りこくった社長の二人。

「す、すみませ……」

 すごく嬉しいのに、なんでこんなに泣けるのかと思うほど、後から後からこぼれ出してくる涙は、際限がなく。社長は、椅子から立ち上がると、ティッシュボックスを私に無言で押し付けるように渡して、そのまま給湯室の方へ行ってしまった。

――うう。きっと、いい年して泣き虫で恥ずかしいヤツ、とか思われちゃっただろうなぁ。

 こんなに、泣き虫じゃなかったはずなのに。
 もっと、強くならなきゃ、私。

 後悔という名の反省をしつつ、渡されたティッシュで、涙と鼻水をグシグシと拭う。

 それはそうと、社長、何してるんだろう?

「あの――」

 一向に出てくる気配がない社長のことが気になり給湯室まで歩み寄った私は、おずおずと中を覗き込み、目の前に繰り広げられている光景に驚いて目を見張る。

 システムキッチンの人工大理石の白い天板、その上に置かれたコーヒーメーカーをセットし終えた社長は、ちょうどスイッチを入れるところだった。

 どうやら社長は、コーヒーが飲みたかったらしい。私がベソベソ、ベソをかいていたから、頼むに頼めず自分で入れにきたようだ。

「あ、私がいれますよ?」

 トコトコと社長の側まで歩み寄れば時すでに遅く、コーヒーメーカーは、ポコポコと湧き上がったお湯でドリップをし始めた。香ばしいコーヒーの良い匂いが、辺りに立ち込める。

――ああ、私って、気が利かないなぁ。
 お父さん相手なら、言われなくても飲みたいタイミングなんて、すぐに分かるのに。

「もう、準備終わっちゃいましたね。すみません気が付かなくて。後は私がやりますね」

 実は、このコーヒーメーカーは、使わないで家にしまってあった頂き物を持ってきたもので。コーヒーメーカーの他にも、コーヒーカップセット。ティースプーンなどのこまごましたものも、せっせせっせと、押し売りならぬ『押し仕置き』したものだ。

 冷蔵庫の中味の『缶コーヒーコレクション』以外、ほとんど何もそろってなかったこの給湯室も、なんとか機能するようになったと思う。

『従業員に設備機器を貰う訳にはいかないから、代金を払う』という社長の申し出は、丁重にお断りした。

 どうせ、と言ってはなんだけど、頂き物。
 それに、近いうちに家を出なければならないから、その時こういう死蔵品は処分する運命にある。

 だから返って使ってもらった方が私としても助かるし、納戸の奥で埃をかぶっているより、使ってあげた方が品物も活きるというものだ。

 そう言うと社長は、なんとも言えない表情で、私の押し置きを容認してくれたのだった。


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