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幕 間 社長・不動祐一郎の独り言 (2)
55 俺が欲しいのは
しおりを挟むいくら若いからといっても、大学と仕事の両立は生易しいものではないはず。
夕方五時から深夜二時に仕事をして父娘二人の家事をこなしたうえで大学にも通い、課題をこなしていくのだ。おそらく、毎日の睡眠時間は三、四時間がいいところだろう。
それでも茉莉はへこたれることはなく、『とても楽しそうに、一生懸命仕事をしてますよ』と守は言った。
そしていよいよ、今日、一カ月の茉莉の試用期間が終わりを告げる。
茉莉の勤務記録を眺めて、さてどうしたものかと思案を巡らせた。
面接当日に一分遅刻したものの、仮採用後は無遅刻無欠勤だった茉莉の正社員採用に否はない。迷っているのは、茉莉を正社員として採用するかどうかではなく、採用後のポジションをどうするかだ。
クロスポイントで選べる職種は現状、ルームメイクかフロントだが、茉莉なら、おそらくどちらも難なくこなせるだろう。しかし、と、俺の中で迷いが生じる。
社長としての俺が今欲しい人材は、守とは違う意味で俺を補佐してくれる――事務処理やスケジュール管理などを任せられるそんな人間。既存の職種なら『秘書』が一番近いだろう。
できることなら、その仕事を茉莉に任せたいと思っている。問題は、茉莉にそのポジションが務まるか否かだ。
実際は、接待の同伴などプライベート寄りな仕事もしてもらわなければならないし、直近の予定を言えば、明日、その同伴接待が入っている。
内容は、大切なスポンサーとのディナーだ。
今までなら、この手の仕事は薫か美由紀に頼んでいたのだが、薫とは離婚した手前一緒に出歩くわけにもいかないし、美由紀の方は体調が優れないようで無理は言えない。
残るは茉莉しかいないが……。
しかし、茉莉を同伴してかしこまった食事の席で、円満に会話が弾む未来図がみじんも浮かんでこないのはなぜなんだ。
社長室のデスクでノートパソコンの画面を睨みながら「うーむ」と眉間にしわを寄せていたら、いつのまにか終業時間になっていたらしい。コンコン、というドアのノック音で、俺はハッと我に返った。
「失礼しまーす!」
いつも通りに、仕事の疲れなど少しも感じさせない元気なあいさつとともに入ってくる守に続き、茉莉は入口でいったん足を止めてから、緊張した面持ちで室内へ入ってきた。
「失礼します……」
チラリと銀縁メガネ越しに視線を上げれば、目があった茉莉はダルマさんが転んだ状態で、ビクリと身をこわばらせた。
「あれれん? ご機嫌ナナメですか社長?」
空気を読んだのか、読まないのか。守は、こともなげにさらりと言ってのける。この心臓の強さを茉莉にも分けてやりたい。
俺は、ニコニコ笑顔全開の守にはちらりと視線を投げただけで何も言わずに、デスクの上で両手を組むと淡々と本題に入った。
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