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第5章 セカンドキスはまどろみの中
103 セカンドキスはまどろみの中
しおりを挟む料理はどれもとても美味しくて、大満足。
満腹になったところで、お風呂や洗面所の使い心地を詳しく報告すれば、最後に残るは部屋の奥にドーンと置かれている、オスマントルコ後宮仕様のキングサイズベッド。
このベッドの使用感チェックも私が任された。
「俺は、シャワーを浴びてくるから、どんな寝心地か試しておいてくれ」
そういって、社長はバスルームへさっさと行ってしまった。
そうは言われても。
おずおずとベットに近づき、ベッドサイドでぐるりと見まわし、ごくりと喉を鳴らす。
大きい。
そして、イケナイ妄想を刺激する、このデザイン。
うん。仕事をしよう。仕事を。
そう念仏のように自分に言い聞かせて、ベッドカバーをめくってベッドの端に腰を降ろせば、柔らかい適度な弾力が返ってきて、思わず口の端が上がる。
柔らか過ぎず硬すぎず、とても寝心地がよさそうだ。
よいしょっ、とベッドに上がり込みパフンと腹ばいにダイビングすれば、洗いたての清潔なシーツの匂いが鼻腔に届いた。
そのままくるりと上向きになり、枕に頭をのせると、すうぅと意識が眠りの底に引き込まれそうになる。
気持ちいいお風呂で手足を伸ばして、髪は社長自ら乾かしてもらって。美味しいごはんに、お口あーんでエビチリを食べさせてもらって。お腹もいっぱい、幸せいっぱい。
そのうえ、このベッドの寝心地のよさったら、もう私に眠れっていってるようなもの。ああ、これで眠れたら、もう何もいらない。なんて、うつらうつら考えていたのが最後の記憶で、私の意識は眠りの底へと吸い込まれていった。
夢を見ていた。
幼い私は、母の『おはなし』を聞いている。
ベースの物語はシンデレラ。でも、このシンデレラは、けなげだけど強かった。
自分から魔法使いのおばあさんを探し出し、ずっと片思い中だった王子様に会えるお城の舞踏会に行けるように魔法をかけてもらうのだ。
依頼料は、亡き母親から『困ったときに使いなさい』と渡されていた高級ブローチ。魔法使いのおばあさんは美しいブローチに目を輝かせて、二つ返事でシンデレラに魔法をかける。
そう、このシンデレラは自分の力で、王子様に会いに行くのだ。他人から施されるのを待つのではなく、自分の力で運命を切り開いていく。
母の語る変わり種のシンデレラのストーリーに、幼い私は夢中になった。
そして、幼いながら思ったものだ。
大きくなったらこのシンデレラのように、強くてカッコイイお姫様になりたいと――。
「茉莉……」
ふと、名を呼ばれた気がして、夢に沈んでいた意識がわずかに浮上する。でもまだまどろみの中にいる私は、それが誰だか分からない。
「お……母……さん?」
声になったかどうかは定かじゃないけど、その名を口にすれば額にそっとキスの感触が走った。幼いころ、よくこうして母が、額にキスをしてくれたのを思い出す。
すぐ隣に人の体温を感じて、その体温にくるまれたくて、体を無意識にスリスリとすり寄せる。
私を抱く腕にぎゅっと一瞬力がこもり、大きな手に頭を撫でられる。その大きな手は、そのまま背中を一定のリズムでトントンと叩きはじめた。
――ああ、やっぱりお母さんだぁ。
全身を包む温もりと安堵感に包まれて、再び私は心地よい眠りの底へと落ちて行った。
そして五時間後。
ここ最近にない熟睡から爽快に目を覚ました私は、裸にバスローブをひっかけただけの社長に抱っこされて、キングサイズのベッドに横たわる自分の姿を目の前にして、雄たけびを上げたのだった。
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