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第7章 再びの嵐の向こう側
125 思いがけない再会④
しおりを挟む『茉莉ちゃん、休んでるところゴメン。305号室のお客さんからルームサービスで、おつまみセットと赤ワイン二本の注文が入った』
申し訳なさそうなスマイリー主任の声に、「305号室、おつまみセットと赤ワイン二本、了解です!」と元気に返事をして部屋の隅にあるミニキッチンへと足を向ける。
『あ、それと社長、ちょっとフロントの方へきてもらってもいいですか?』
「なんだ? 何かトラブルか?」
『いえ、そういうわけじゃないんですけど……』
スマイリー主任の言葉に、いつものような覇気がない。さすがに、昼夜連続のフロント業務で疲れているのかもしれない。社長もそう思ったのか、「わかった、今行く」と言って椅子から腰を上げた。
部屋を出て行く間際に「一人で大丈夫か?」と問われたので、「最初の一か月バッチリ研修したので大丈夫です!」と、胸を張って答えておいた。
入念に手を洗い、アルコールで消毒をしてからさらに薄手の調理用手袋をする。もちろん、マスクの装備も忘れない。
万が一にでも、お客様にインフルエンザをうつしてしまっては大変だから、きっちり予防対策をとるように、社員一同、皆社長の厳命を受けている。ちなみに、昼間は人の手が触れる場所を総手でアルコール除菌したのだそうだ。
夜は昼間ほど手は回らないけど、アルコールスプレー持参で、掃除の最後にドアや冷蔵庫などの取っ手関係を入念に消毒して回っている。
「さぁて、とびきり美味しいおつまみセットを作るぞ!」
と、張り切ってみたものの、おつまみ用のお皿に出来合いのおつまみ類を乗せるだけだから、ほとんど料理の技術は必要ない。
チーズ各種と、あらびきウインナー、ナッツ類などを見栄え良く盛り付けていく。盛り付け始めてから五分ほどで、おつまみセットは完成した。
「後は、ワインを二本っと」
冷蔵庫から、ご注文のワインを二本とワイングラスを二つ取り出して、配ぜん用のワゴンのトレーの上におつまみ皿と一緒に乗せる。
コルク抜きとフォーク、それにナプキンを添えて、これでよし。
私はもう一度、不備がないかチェックして、手袋を外すとワゴンを押して1階上の3階にある305号室に足を向けた。
ワゴンを押しているため3階には階段ではなくエレベーターを利用する。3階のフロアに着くと、そのまま廊下の一番奥にある305号室へとワゴンを押していく。
すると、前方のちょうど305号室のドアが『バタン!』と大きな音を上げて開き、身体のラインにフィットした黒いミニのニットドレスを身にまとった若い女性が速足でこちらへ、つまりエレベーターの方に歩いてきた。
私が顔を見ないように視線を伏せて、ワゴンを右側に寄せて歩く速度を緩めると、
「ったく、最低っのどケチ変態メガネ!」
その女性は、吐き捨てるように呟きを落としてエレベーターに乗り込み、少しきつめの甘い香水の匂いだけを残して、1階へと降りて行ってしまった。
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