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第一章 四天王になるまで
第十五話 ウィディナ対カルラ 後編
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私はアルカナファーレンに魔力を込める。
ウィディナは先程の急停止の反動でまだ体が動いていない。
「チャンスね……!」
走りながら腰に構えてあるアルカナファーレンを上へ持ち上げる。
ウィディナのもう目の前に迫った時、ようやくウィディナは防御姿勢をとった。
だが無意味だ。
「〈天壌炎波〉!」
アルカナファーレンを思い切り地面へ振り下ろし、込めた魔力を解放する。
魔力と共に衝撃波がウィディナの全身を襲う。
〈天壌炎波〉。ノーデンス流大剣術奥義の一つで、広範囲敵を吹き飛ばすのを目的とした剣術だ。剣に込めた魔力は高温の熱波となり、地に叩きつけた衝撃と共に天壌ーー即ち天と地に解き放つ。数を問わず敵を吹き飛ばせるため極めて有用である。本来ならば熱波に包み込まれた対象は、その温度に耐えられず燃えだすが、今は結界の効果があるため燃えることはない。
「ぐっ……っは……!!」
吹き飛ばされたウィディナはズガァァンと派手な音を上げて壁にぶつかった。
体力ゲージを確認すれば、ウィディナのゲージは既に半分くらいだった。
……二刀流でくるって分かった時はどうかなって思ったけど、そうでもないかな。
と思ったその時、目の前の土埃からキラリと光が見えた。
構えると、目の前にウィディナがいた。
「っ!」
「――やぁぁあああああっ!!」
右、左、クロス、下、左、右上……と素早く剣が振られていく。
……速すぎて、防御から切り替えられない……!
大剣は重さがあるため攻撃速度が遅いのが一つの欠点だ。
対して彼女の二刀流は左右別々に扱うことができるため、攻撃速度が速く手数が多い。
つまり今の様な状況では大剣の方が不利だ。一度防御体制に入ったなら、攻撃の隙ができるまで切り替えができない。
キンッ、キキキンッと剣同士が当たる音がなる。
気づけば試合場の端から中央へと押されていた。
ちょうど私がど真ん中へ追いやられた時、タッとウィディナが後ろへ下がった。
……何をするつもり?
いつでも攻撃ができる様、アルカナファーレンを構える。
途端にウィディナが走り出した。
私を中心として円の形を描いている。
一周、二周……と周る数が増えるにつれ、ウィディナのスピードは上がっていく。
「う……そ……」
風が止まり、ウィディナが消えたと思った瞬間、何十人ものウィディナが私の周りに跳んできていた。
私はその光景に驚愕した。
「〈天竺牡丹の閃乱〉」
私の眼でギリギリ捉えられるか捉えられないかの速度で全方位から突きが来る。
見える範囲での攻撃を、アルカナファーレンを振り回して防ぐ。
だが圧倒的に数が多い。
防いでいる攻撃よりも防げない攻撃の方が多いため、見る見るうちに体力ゲージが減っていく。
「おい……何だよあれ……。ウィディナがメチャクチャいるぜ……」
「あれは凄いぞ……。実体が増えてるんじゃなくて、ウィディナが速すぎて残像が見えるんだ」
「あんな高レベルな試合、今まで見たことねぇ。スゲェ……ゾクゾクくるぜ!」
うおおおおおお、と観客席から大歓声が上がる。
「おお、凄いなあれは。私でもあれだけの速さは出せんぞ」
「凄いですね……。私はもとより出せませんが、今までこの速さを見たことありません。四天王になっても上手く戦えることでしょう。ただ――」
カロナは腕を組む。
ウィディナをキッと見て、
「あぁ。あの剣技、受けている側では気付くのは難しいが、抜け方があるな」
◇
……どうすれば、どうすれば抜けられる……?
今の状況のままでいたら私が負けるまで時間の問題だ。
完璧な剣技なんてあるはずがない。一見完璧に見えるこの剣術も、防ぎ方はあるはずだ。
試合の最初だって、今まで防がれたことはなかったが、ウィディナには防がれた。
探せ。冷静になって打開策を探すんだ。
「――――」
ふと、カルラは思った。
この〈天竺牡丹の閃乱〉は、ウィディナが高速に移動し突きを繰り出す剣技だ。
私を中心とし半球に突きがくる。
だがこれは実体が増えているわけではない。ウィディナの残像が見えるのだ。
……実体じゃなくて残像……。移動を邪魔すれば止まる……?
今ウィディナは私の周りを移動している。つまり行手を阻めばウィディナは止まるしかない。
だが行動に移すには防御を崩さなければならない。
……でもこの状況から抜け出せるんだったら、それくらい構わない!
アルカナファーレンを下ろす。先ほどよりも多く剣が刺さる。
「おい、カルラが剣を下ろしたぞ!?」
「まさか試合放棄か!?」
「でもカルラさんが試合を捨てるわけないよ。きっと何か策があるから剣を下ろしたんだよ!」
カルラが剣を前へと突き出す。
「ふむ、気付いたか」
ギャリッッと耳を劈く音がした。
見ると、アルカナファーレンにウィディナが剣を盾にしてぶつかって止まっていた。
「くっそぅ……」
ウィディナが悔しそうに呟く。
カルラは笑った。
「今度はもらった……ぞっと!」
「っ!?」
剣同士を引っ掛け、ウィディナを上へと投げ飛ばす。
アルカナファーレンを背中に構え、跳ぶ。
「――〈炎下環〉!」
縦に二回転する。
〈炎下環〉。私オリジナルのノーデンス流大剣術で、剣を外に縦回転する剣技だ。上に跳んで剣を思い切り振り下ろせばその遠心力でそのまま回転する。
一回目の斬撃はクロスブロックで受け流されたが、二回目の斬撃でウィディナを下に叩きつける。
すぐさま私も下へ着地し、剣を振り上げる。
「〈炎上環〉!」
〈炎上環〉は〈炎下環〉の逆。上への二回転だ。
私の目的はダメージではない。
私にとって厄介なのは二刀流。だから激しい上げ下げがあれば剣をロストさせられるかもしれない。だから下へ叩きつけて最後に上へ打ち上げるのだ。
一回目はやはり受け流される。
だが予想通りのことが起きた。
「――っあ」
カキーンと気持ち良い音を上げてウィンディアとカルルアが宙へと舞った。
「うおおぉぉスゲェ!! ウィディナの剣をロストさせたぞ!」
「剣がなくなったら攻撃を防ぐ方法はない。つまりウィディナは何もできないってことだ!!」
「この高度な試合をやはり制するのはカルラかぁっ!?」
と何度目かわからない歓声が上がる。
「ふむ、これまでか」
「うーん、勝てそうだったんですけどねぇ」
と、カロナとエリヌが呟く。
「これで終わりねっ!」
私はアルカナファーレンをウィディナに振る。
だが、ウィディナの顔から焦りが消えた。
笑ったのだ。
「……これで勝ったと思わないことだよ」
とウィディナは私の後ろを指差す。
「――っ!?」
振り返ると、眼前にウィンディアとカルルアが空気を切り裂く音と共に迫っていた。
――〈作者の一言〉――
約週一投稿で進めていくつもりです。今後ともよろしくお願いします。
ウィディナは先程の急停止の反動でまだ体が動いていない。
「チャンスね……!」
走りながら腰に構えてあるアルカナファーレンを上へ持ち上げる。
ウィディナのもう目の前に迫った時、ようやくウィディナは防御姿勢をとった。
だが無意味だ。
「〈天壌炎波〉!」
アルカナファーレンを思い切り地面へ振り下ろし、込めた魔力を解放する。
魔力と共に衝撃波がウィディナの全身を襲う。
〈天壌炎波〉。ノーデンス流大剣術奥義の一つで、広範囲敵を吹き飛ばすのを目的とした剣術だ。剣に込めた魔力は高温の熱波となり、地に叩きつけた衝撃と共に天壌ーー即ち天と地に解き放つ。数を問わず敵を吹き飛ばせるため極めて有用である。本来ならば熱波に包み込まれた対象は、その温度に耐えられず燃えだすが、今は結界の効果があるため燃えることはない。
「ぐっ……っは……!!」
吹き飛ばされたウィディナはズガァァンと派手な音を上げて壁にぶつかった。
体力ゲージを確認すれば、ウィディナのゲージは既に半分くらいだった。
……二刀流でくるって分かった時はどうかなって思ったけど、そうでもないかな。
と思ったその時、目の前の土埃からキラリと光が見えた。
構えると、目の前にウィディナがいた。
「っ!」
「――やぁぁあああああっ!!」
右、左、クロス、下、左、右上……と素早く剣が振られていく。
……速すぎて、防御から切り替えられない……!
大剣は重さがあるため攻撃速度が遅いのが一つの欠点だ。
対して彼女の二刀流は左右別々に扱うことができるため、攻撃速度が速く手数が多い。
つまり今の様な状況では大剣の方が不利だ。一度防御体制に入ったなら、攻撃の隙ができるまで切り替えができない。
キンッ、キキキンッと剣同士が当たる音がなる。
気づけば試合場の端から中央へと押されていた。
ちょうど私がど真ん中へ追いやられた時、タッとウィディナが後ろへ下がった。
……何をするつもり?
いつでも攻撃ができる様、アルカナファーレンを構える。
途端にウィディナが走り出した。
私を中心として円の形を描いている。
一周、二周……と周る数が増えるにつれ、ウィディナのスピードは上がっていく。
「う……そ……」
風が止まり、ウィディナが消えたと思った瞬間、何十人ものウィディナが私の周りに跳んできていた。
私はその光景に驚愕した。
「〈天竺牡丹の閃乱〉」
私の眼でギリギリ捉えられるか捉えられないかの速度で全方位から突きが来る。
見える範囲での攻撃を、アルカナファーレンを振り回して防ぐ。
だが圧倒的に数が多い。
防いでいる攻撃よりも防げない攻撃の方が多いため、見る見るうちに体力ゲージが減っていく。
「おい……何だよあれ……。ウィディナがメチャクチャいるぜ……」
「あれは凄いぞ……。実体が増えてるんじゃなくて、ウィディナが速すぎて残像が見えるんだ」
「あんな高レベルな試合、今まで見たことねぇ。スゲェ……ゾクゾクくるぜ!」
うおおおおおお、と観客席から大歓声が上がる。
「おお、凄いなあれは。私でもあれだけの速さは出せんぞ」
「凄いですね……。私はもとより出せませんが、今までこの速さを見たことありません。四天王になっても上手く戦えることでしょう。ただ――」
カロナは腕を組む。
ウィディナをキッと見て、
「あぁ。あの剣技、受けている側では気付くのは難しいが、抜け方があるな」
◇
……どうすれば、どうすれば抜けられる……?
今の状況のままでいたら私が負けるまで時間の問題だ。
完璧な剣技なんてあるはずがない。一見完璧に見えるこの剣術も、防ぎ方はあるはずだ。
試合の最初だって、今まで防がれたことはなかったが、ウィディナには防がれた。
探せ。冷静になって打開策を探すんだ。
「――――」
ふと、カルラは思った。
この〈天竺牡丹の閃乱〉は、ウィディナが高速に移動し突きを繰り出す剣技だ。
私を中心とし半球に突きがくる。
だがこれは実体が増えているわけではない。ウィディナの残像が見えるのだ。
……実体じゃなくて残像……。移動を邪魔すれば止まる……?
今ウィディナは私の周りを移動している。つまり行手を阻めばウィディナは止まるしかない。
だが行動に移すには防御を崩さなければならない。
……でもこの状況から抜け出せるんだったら、それくらい構わない!
アルカナファーレンを下ろす。先ほどよりも多く剣が刺さる。
「おい、カルラが剣を下ろしたぞ!?」
「まさか試合放棄か!?」
「でもカルラさんが試合を捨てるわけないよ。きっと何か策があるから剣を下ろしたんだよ!」
カルラが剣を前へと突き出す。
「ふむ、気付いたか」
ギャリッッと耳を劈く音がした。
見ると、アルカナファーレンにウィディナが剣を盾にしてぶつかって止まっていた。
「くっそぅ……」
ウィディナが悔しそうに呟く。
カルラは笑った。
「今度はもらった……ぞっと!」
「っ!?」
剣同士を引っ掛け、ウィディナを上へと投げ飛ばす。
アルカナファーレンを背中に構え、跳ぶ。
「――〈炎下環〉!」
縦に二回転する。
〈炎下環〉。私オリジナルのノーデンス流大剣術で、剣を外に縦回転する剣技だ。上に跳んで剣を思い切り振り下ろせばその遠心力でそのまま回転する。
一回目の斬撃はクロスブロックで受け流されたが、二回目の斬撃でウィディナを下に叩きつける。
すぐさま私も下へ着地し、剣を振り上げる。
「〈炎上環〉!」
〈炎上環〉は〈炎下環〉の逆。上への二回転だ。
私の目的はダメージではない。
私にとって厄介なのは二刀流。だから激しい上げ下げがあれば剣をロストさせられるかもしれない。だから下へ叩きつけて最後に上へ打ち上げるのだ。
一回目はやはり受け流される。
だが予想通りのことが起きた。
「――っあ」
カキーンと気持ち良い音を上げてウィンディアとカルルアが宙へと舞った。
「うおおぉぉスゲェ!! ウィディナの剣をロストさせたぞ!」
「剣がなくなったら攻撃を防ぐ方法はない。つまりウィディナは何もできないってことだ!!」
「この高度な試合をやはり制するのはカルラかぁっ!?」
と何度目かわからない歓声が上がる。
「ふむ、これまでか」
「うーん、勝てそうだったんですけどねぇ」
と、カロナとエリヌが呟く。
「これで終わりねっ!」
私はアルカナファーレンをウィディナに振る。
だが、ウィディナの顔から焦りが消えた。
笑ったのだ。
「……これで勝ったと思わないことだよ」
とウィディナは私の後ろを指差す。
「――っ!?」
振り返ると、眼前にウィンディアとカルルアが空気を切り裂く音と共に迫っていた。
――〈作者の一言〉――
約週一投稿で進めていくつもりです。今後ともよろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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