魔族少女の人生譚

幻鏡月破

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第一章 四天王になるまで

第十六話 ウィディナ対カルラ 決着

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 飛んでくる二本の剣を咄嗟にアルカナファーレンの腹で受け止める。
 剣を振って弾いても、ウィンディアとカルルアは私に向かって飛んでくる。
 右、左、クロス、下、左、右上……と素早く剣が振られる。

「誰も持っていないのに、どうして……!?」

 人が操っているわけではないため、攻撃はウィディナの時よりも鋭さと速度が上がっていた。
 
「っく、はぁ、うっ、やっ……!」

 どんどん速度が上がっていく。
 防ぐだけでも精一杯だ。

「おい……何だよあれ。剣が誰も持っていないのに勝手に動いてるぞ!?」

「どういうことだ……。まさか魔法を使ってるのか!?」

「いや、よく見て。感じられるのは剣の魔力だけだよ。それ以外に反応はない……」

 ガタッとカロナが座っていた席を立つ。
 ありえないものを見ている様な顔でカロナは言った。

「おい、エリヌ。剣が勝手に攻撃をする……ということはまさか」

「ええ……。まさかここで見ることになるとは思ってもいませんでした……。あれは『二刀操術』……。つまり」

 むくりと起き上がったウィディナは、苦戦しながら激しい剣戟をしているカルラにゆるりを足を進めて言った。

「そう、とっておきの剣術はこれのことです、先生。
 かつて初代勇者が歴代最強と謳われた理由がこれ。
 練習途中だけど私が会得した最強の剣術。それが――」

 ドヤ顔で言った。

「『王賜剣術コールブランド』です」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」

 今までにないほどの大歓声が試合場を包み込んだ。

「むぅ、私にも、予想がつかなかったぞ……。まさか『王賜剣術』を出してくるとは……」

「これは、もう、言葉が出ませんね……。極めれば、確実に誰よりも強い四天王にまるでしょう……!」

 カロナは驚きと謎の呆れに襲われ、椅子に座る。
 エリヌはまるで無邪気な子供の様に目を輝かせ、両手をグッと握った。

「戻ってきて、ウィンディア、カルルア」

 二つの剣がピタリと止まり、スッとウィディナの左右に並ぶ。
 ハァハァと肩で息をしながらカルラがウィディナの方を向いた。

「まさか、ウィディナが、ね……。思っても、いなかったわ……」

「ふふ、ここからが大見せ場だよ! 刮目せよ!」

 息を切らしているカルラに対して、張り切った様にウィディナは声を出した。

 ウィディナが動く。

 ウィディナは最早剣を持つ必要がないため腕ではなく体で剣を振るう。
 縦回転、左右、下、右……と、二刀流の時に比べ動きが増え、速度も速くなっていく。

「スゲェ、速い、速いぞっ!」

「まだ練習途中であれなんだろ? 初代勇者どれだけ強かったんだよ」

「いやでもまて。あれに勝った『魔帝』様は想像つかないほど強かったってことじゃん」

「そう言うことか! つーかウィディナすげぇよマジで。尊敬できるレベルですげぇよっ!」

 ウィディナはさらにスピードを上げる。

「〈松韻千斬しょういんせんざん〉」

 風を斬って刃が振るわれる。二本の剣はカルラの周りを切り裂き、風を乗せた斬撃を飛ばす。
 人の手では絶対にありえない速度で千の風が生まれる。

 風は実体ではないため防御不可。カルラは松葉の風に切り裂かれた。

「っくあああっ!」

 カルラの体力は残り四割。

 引かれた右手に沿ってウィンディアが引かれる。

「〈光凛刺竹こうりんしちく〉」

 思い切り前へと突き出せば、若竹色の光を引いてウィンディアが弾かれる様に一直線に突き進む。

 カルラは咄嗟に防御姿勢をとる。
 だが無駄だ。

「天を穿て!」

 ウィディナがそう言うと、一直線に進んでいたウィンディアが少し下へ下がり、アルカナファーレンを、まるで地面から鋭く生える竹の様に上へと突き飛ばした。

「――っあっ!」

 突き飛ばされた勢いに、思わずカルラは手を離す。
 天高く舞い上がったアルカナファーレンは、カルラの約5メートル後ろに突き刺さる。

 残り三割。

「これでとどめだっ!」

 ウィンディアとカルルアを構え、カルラの元へと繰り出す。

「〈梅華畢剣ばいかひっけん二枚花瓣にまいはなびら〉」

 双剣が円を描いて乱舞する。
 剣同士が掠れるたびに、花弁のような火花が散っていく。
 
 見るからに圧倒的であった。

「いっ、いやああああああああっっ!!」

 カルラはなす術なく切り刻まれる。

「松、竹ときて梅で終わる。松竹梅の三連攻撃だね」

 カルラの体力ゲージが花弁と共に剣撃に散った。
 体がドサリと倒れると、二本の剣は手に収まった。

「勝者、序列第二位、ウィディナ・フィー・ケルトクア!」

 高々と剣を持ち上げると、拍手と大歓声が会場を包んだ。
 その歓声は、しばらく止むことはなかった。
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