超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第四章  ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~

第四十六話  流体制御

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 長剣に伝わる『重さ』にダーンは舌打ちする。

 緋色の魔人からの拳、その拳には紫のほのお陽炎かげろうのように灯って、魔力による質量増加を成していた。

 闘気を洗練しまとわせた剣でなかったのなら、その一撃で刀身は粉々になっていただろう。

「このッ」

 いらちを刀身に乗せるように、ダーンは身体をひねって突き出された拳の手首を狙い斬撃を落とす。

 洗練された闘気により鋼鉄すら難なく切断するその斬撃は、紅い皮膚やその下の筋肉、骨をも断ち切り、ハンマーのようなその拳を切断した。

 黒みのかかった赤ワインのような血液が岩床にぶちまけられ、魚の腐ったような臭いが鼻をつく。

 右手首を落とされ、緋色の魔人は一瞬ひるむが、次の瞬間奇声を上げて全身から膨大な魔力が立ち上った。

「危ないッ」

 少し離れた場所からステフの警告する声がダーンのを打つ。

 その彼の視界に、切り落とした魔人の手首が五指を器用に使って岩床を蹴り、飛び上がってくるのが映った。
 禍々しい魔力のしようを爪先から刃のように迸らせて、首元を貫かんと迫る。

 そこへ、蒼白い衝撃波の光弾が独特ごうおんを伴って空を裂き、ダーンに迫った魔人の手首を穿って、魔力の瘴気諸共消滅させた。

 ステフが《白き装飾銃アルテッツァ》で、狙い撃ったのだ。

 ステフに感謝の視線を送りつつ、ダーンは後方に軽くステップして、魔人との間合いをとる。

 一方、緋色の魔人は切断された自分の手首をいちべつした後、何事もないかのように標的をルナフィスに切り替えて、突進する――――と、すぐに切り落とされた傷口から新たな手首がずるりと気味の悪い音を立てつつ生えてくる。

 魔力がある限り、魔人の肉体は不滅なのだ。

 ルナフィスは、迫る緋色の肉塊を軽くサイドステップでかわし、すれ違いざまに高速の突きをお見舞いするが、やはり大したダメージを与えられなかった。

「うーん、これはホントにやつかいだね……そらッ」

 あまり緊張感のない声色で言いつつ、ケーニッヒがレイピアを振るうと、斬撃の軌道から金色の光が半月状の衝撃波となって緋色の魔人に飛んでいく。

 鋭利なその衝撃波は音速の数倍の速度で刃物以上の切断力を秘めていた。

「グガアアアッ!」

 緋色の胸板をケーニッヒの放った衝撃波の刃が食い込んで、赤黒い飛沫しぶきを吹き上げると、さしもの魔人もその深手に苦悶のほうこうを挙げた。

 しかし――――

「浅いか……」

 ケーニッヒは涼しげにぼやくが、軽く舌打ちしている。

 そして今度は怒りのあまり自分のところへ突進してくるかと思い、ケーニッヒは剣を構えたが……。

 緋色の魔人は、その場で何やら呪文のような聞き取りにくく、みみざわりな言葉を独特の旋律でかなでで始める。

 すると、魔人の周囲に赤紫色の光玉が、虚空にいくつも生まれて浮かび始めた。

 その光玉一つ一つに、高濃度の魔力が渦巻き、輝きながらエネルギー圧力を高めていく。

 近くにいた三人の剣士は、各々に血相を変えて間合いを取りつつ、自らの剣に洗練した闘気を伝わらせて構える。

「気をつけろッ! 魔力砲撃だ」

 ダーンが後方にいるステフとカレリア、そしてスレームへと注意を喚起しながら、ステフへの射撃を迎撃する姿勢を取った。

 そこへ、魔人の周囲に浮かんでいた十数個の魔力球から、溜め込まれた魔力エネルギーが指向性を与えられて、魔力砲撃として斉射された。




     ☆




 魔力の放つ光が赤紫に周囲を染め上げて、湖の湖面を轟音が揺らした。

 まるで無差別攻撃のごとく、あらゆる方向に衝撃波を伴った魔力エネルギーの束が放射され、あたりに破壊の旋律を奏でる。

 ケーニッヒやルナフィスは、自分に迫る砲撃を剣でらしつつ、身体をひねって躱し、ダーンもいくつかは同じように躱しつつ、ステフ達に迫ろうとする砲撃も膨大な闘気を纏った長剣で弾き逸らす。

「クッ……これじゃあもたない」

 右手に伝わる嫌な感触。

 砲撃の威力に手首が耐えきれず、ズキンとした痛みが走って、ダーンは顔をしかめた。

 致命的ではないものの、手の骨のどこかに軽いヒビが走ったようである。

「……なかなかにしやになりませんね」

 周囲の破壊の跡を他人ごとの様に眺めつつも、スレームが深刻な言葉を漏らす。

 すると、彼女は腰に掛けていたウェストバックから何やら取り出し、さらにスカートの右サイドを右手でさするかのような動きを見せた。

 そのスカートのサイドにはファスナーがあり、その中に手を突っ込み、スレームはスカートの中、大腿部に巻いたホルスターから黒光りする拳銃を取り出す。

 左手には、ウェストバックから取り出した黒いむちが握られていた。

「二つの武器を同時に扱うのか……と、言うか――――あれ、ステフとホーチィニさんの武器を一緒に一人で使うってコトだよな」

 ダーンの震えるような声に、ケーニッヒも少し引きつった表情で応じる。

「ま、まあ、その二人の師匠らしいからね……。それにしても鞭と銃をいっぺんにって、ほぼオールレンジ攻撃だよ、あれ」

 ケーニッヒの言葉通り、スレームは右手で銃を乱射しつつ、左手で長い鞭を自在に操り始めると、魔人が周囲に再び生み始めていた魔力球を次々と打ち落としていく。

 その銃弾は、ステフの使っていた《衝撃銃》よりも威力の小さい衝撃弾で、鞭の方には理力エネルギーが鞭の先端部分に伝わっていて、先端がひるがえって音速を突破し発生する衝撃波をより威力のあるものに変換している。

 また魔力球の迎撃にとどまらず、魔人の周囲に張られた防護結界を鞭で弾いて亀裂を作り、その亀裂を衝撃弾が通過して、魔人の身体にヒットしていた。

「なんか……。変だな、あの人の攻撃は……俺、ちょっと嫌な強さを感じるぞ」

「あはははは……奇遇だね、ボクもダヨ」

 引きつった笑顔のまま乾いた会話をし、それでもダーン達は近くの魔力球を、砲撃前に剣で打ち落としていく。

 一方――――

 ステフは、スレームが久々に戦闘行為をしている状況を見ながら、自分も《白き装飾銃アルテッツァ》で魔力球を迎撃しつつ、ふととある考えを巡らせていた。

 それは、カレリアの――――水神の姫君サラスの力を使って何か新しいことができないかということであった。

 カレリアは、《リンケージ》しても特に新しい力を得ることはないと言っていたが、果たして本当にそうなのだろうか?

 確かに、契約前に水神の姫君サラスが得意とする《流体制御》を《白き装飾銃アルテッツァ》の開発に組みこまれ、契約前の前借りといった形で、彼女からの恩恵を受けてはいる。

 しかし、本当にそれだけなのか。

 流体制御――――理力やその根源たる活力を、水の流れと捉えて、その流動を制御するのが水神の姫君サラスの得意技だ。

 それは考え様によっては、なかなかに都合のいい力である。

 《白き装飾銃アルテッツァ》にあっては、発生する膨大な衝撃エネルギーを流体として制御し、収束率の上昇や、チャージショットの際の自壊抑止に寄与している。

 また、《リンケージ》の際には、防御スクリーンを形成し、一瞬裸体をさらし無防備となる瞬間を守ってくれてもいる。


――防御か……。


 ステフはふと思いつく。

『ねえ、ソルブライト。以前、対艦狙撃砲をその場で作ってくれたけど、あれってあたしの知識からのフィードバックだったわよね。ということは、もし仮に、この場で新しい武器をあたしが思いつけばこの場で開発可能かしら?』

 念話で神器に語りかけると、ソルブライトは少しろんな感じで応じてくる。

『確かに、貴女あなたがこの場で詳細な設計図を思い浮かべられるほどならば可能ですが……私は便利屋ではありませんから、あんまり過剰にアテにされても困りものですよ』

『そんなに難しい話じゃないのよ。《リンケージ》の時の防御スクリーンを応用して、流体制御で衝撃波を盾のように展開できないかしら?』

『それならば可能なのですが……少し意外でしたね』

『何がよ?』

貴女あなたが防御……盾を作ろうとするとは……。私はてっきり、火力を上げることしか興味がないものと……』

「そういう誤解は止めてくれる?」

 念話で話しているところ、ついステフは声に出して悪態をついてしまう。

『これは失礼しました。ですが、妹君もそう思っていたようで、盾などと言う発想には至らずに、今回の契約で新たに得られる恩恵はないと判断していたのでしょう』

「あんたらね……」

『まあ、試してみましょうか。どのようなアイデアなのですか?』

 ステフはさらに文句が言い足りない様子ではあったものの、ソルブライトに半分なだめられつつ、思いついたアイデアを神器に伝え始めていった。

 そんな最中にも、四つの《魔核》を連動させ驚異の魔力を誇る魔人とダーン達の戦闘は、さらにれつさを増していく。

 
 

 


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