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第一章 幼少期
第二十五話 奏魔の決断
しおりを挟む「なぁ、奏魔そうま。見逃してくれねぇか? カッコつけたはいいけどやっぱり死にたくないんだ。彼女の隣に居たい」
和麒かずきの懇願に僕は――――首を横に振った。
「そうか……一応理由を聞いてもいいか?」
和麒は元々期待していなかったんだろう。あっさりとした態度だ。
僕は少し俯いてから口を開く。
「一族は裏切れないよ……それにその機密情報を流せば潜入任務をこなしている人たちは処分されるだろうし、一族の信頼も地に落ちる。最悪一族が破滅するよ。だから僕には見逃すことはできない」
僕は一度息を吐き、呼吸を整えてから続ける。
「なにより、ここで見逃しても和麒が幸せになる未来が見えないよ」
僕ははっきりとそう告げる。きっと和麒も心の中ではわかってるはずだ。それを認められないだけで。だったらそれを無理矢理にでも認めさせるのが僕の役目だろう。
「万が一無事にそのご令嬢と逃げられたとしても和麒は一族を潰した罪悪感に苛まれるだろうし、生き残った一族の人の中には復讐を企む人だってきっといる……」
一族が潰れれば確かに和麒を追うことはできなくなるだろう。でもそれはあくまで一族としてであり、個人の復讐はその限りじゃない。
「ねぇ和麒。考え直す気は無い? 今ならまだ間に合うかもしれない。族長には僕も一緒に頭を下げるし、処罰は免れないだろうけど死にはしないかもしれないよ」
一族は良くも悪くも実力主義なところがある。今回の件で何人もの一族の人を殺したけど、和麒が殺した人たち以上に働ける実力があるなら処罰は軽いものになるだろう。
「だから……お願いだよ和麒。帰ってきてよ。和麒がいない毎日は退屈なんだ。今までみたいに模擬戦したり、遊んだりしようよ」
和麒はしばらく黙ったままだった。だがその顔には迷いは無い。きっともう覚悟を決めているのだろう。
「……わりぃな、奏魔。それはできない。彼女のいない世界なんて俺には想像できないんだ」
和麒は苦しげに、だけどどこかさっぱりしたように言い、刀を構えた。
僕も何も言わず刀を取り出し、構える。これ以上言葉を重ねたところで和麒の心を動かすことは出来ないだろう。今この瞬間、僕と和麒の間には大きな溝ができたんだ。決して越えることも埋めることもできない溝が。
数秒間、僕らは睨み合ったままだった。一筋の風が吹き、木の葉が舞い散る。その瞬間、僕らは動いた。お互いの刀が火花を散らし、静寂の中にキィンという金属を奏でる。
お互いに後ろに跳び、距離をとる。そして再び同時に斬り掛かる。だが今度はさっきとは違い和麒が短剣を飛ばしてきた。僕はその短剣を斬り払うのではなく、大きく跳んで避ける。
その短剣が地面に突き刺さると同時に爆発し、紫の煙を吹き出す。その煙はあっという間に広がり、和麒の姿を隠す。
その煙が毒だと判断した僕は息を止め、周囲の気配を探る。この煙に乗じて攻撃してくるつもりだろうけど、和麒は気配を消すのが得意じゃなかったから集中さえすれば感知できるんだ。
まして、僕はあれからかなり成長してるんだ。一年前ですら感知できたんだから成長した僕ができないはずがない。
そう考え、煙の中で構えたまま動かない僕の首筋に死の気配が襲ってきた。とっさにしゃがみこみ刃をかわす。避けきれなかった髪の毛が数本宙に舞う。
どうして気配に気づけなかったんだ!?
「俺の気配に気づけなかったのが不思議か? 成長したのはおまえだけじゃないんだよ」
和麒が不敵な笑みを浮かべながら言う。
「俺は彼女を守る為に死に物狂いで特訓したんだ。前までの俺だと思わない方がいいぜ?」
確かに、動き一つとっても前の和麒とは違っている。そのことに今攻撃されるまで気づかなかったのは、意図的に和麒が隠していたからだろう。僕の油断を誘うために。
「一年前は俺がずっと負けてたからって油断してると痛い目見るからな」
すると、突然頭上から死の予感がした。咄嗟に横に避けると刀が空から降ってきて、地面にぐさりと突き刺さる。
くっ、さっきから喋っていたのは僕が動かないようにするためか……多分煙で見えなくなった時に刀を上空に投げていたんだろう。
咄嗟の行動で体勢が崩れた僕に、和麒が襲いかかる。なんとか和麒の攻撃を刀で受け止めて右足を後ろに出して踏ん張ろうとする。だがその右足が突如現れた穴に落ち、踏ん張りが効かずに僕は倒れて和麒に馬乗りになられる。
僕の目を貫こうとして短剣が迫ってくる。両手は和麒の足によって封じられているため僕は短剣の切っ先を歯で受け止め、体を捻って和麒の下から脱出する。
「忘れてたよ。和麒は搦め手が好きだったもんね。僕を待ち構える場所に罠が仕掛けられていないはすがないよね」
僕はそう独りごちると和麒をどうやって倒せばいいか考える。
今までたくさんの一族の大人達と戦っていたはずなのに和麒に疲労の色は見えない。
僕は周囲に使えるものは無いか探してみると、様々な武器が刺さって死んでいる一族の大人達の姿が目に入った。
そうか……! 体力は減っていなくてもこれだけの人と戦えば減るものはある!
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