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ストロー
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風の精霊というやつは、蝶々に似ている。
小皿に置いた氷砂糖に水をかけ、窓辺に置く。ふわふわと集まってきた硝子細工のような精霊たちが皿に降り、口吻を伸ばして砂糖水を吸うのをしばし眺めてから私は論文の執筆に戻った。
カリカリとペン先が紙を引っ掻く。一枚ほど書き進めたところで、「あっ」という小さな声とともに部屋の中を精霊とつむじ風が吹きぬけていった。
「わ、わ……ちょっと!」
ばらばらに飛んでいこうとする原稿をかき集めながら振り返る。精霊のいなくなった皿に手を伸ばした状態で、藁を咥えた子どもが固まっていた。
「何を……しているのです、王子。藁なんか咥えて。精霊たちがびっくりしているじゃないですか、やめていただけませんか」
「……同じことをしていれば、警戒されないかと思って」
「そうですか……」
私が相当呆れた顔をしていたのだろう、王子は頬を紅潮させながら手を振り回した。
「いつもお前ばかり精霊に触ってて……ずるいじゃないか!」
「そりゃあ……」
精霊使いはそれが仕事である。
嘆息した私は、隣の掃き出し窓を開けて王子を部屋の中に入れた。散っていった精霊たちを集め、中でも度胸がありそうな奴を一匹、王子の手の上に乗せる。
「……いいですか、見るだけにしてくださいよ」
論文に戻る。ゆるやかな風が吹いて行った。
小皿に置いた氷砂糖に水をかけ、窓辺に置く。ふわふわと集まってきた硝子細工のような精霊たちが皿に降り、口吻を伸ばして砂糖水を吸うのをしばし眺めてから私は論文の執筆に戻った。
カリカリとペン先が紙を引っ掻く。一枚ほど書き進めたところで、「あっ」という小さな声とともに部屋の中を精霊とつむじ風が吹きぬけていった。
「わ、わ……ちょっと!」
ばらばらに飛んでいこうとする原稿をかき集めながら振り返る。精霊のいなくなった皿に手を伸ばした状態で、藁を咥えた子どもが固まっていた。
「何を……しているのです、王子。藁なんか咥えて。精霊たちがびっくりしているじゃないですか、やめていただけませんか」
「……同じことをしていれば、警戒されないかと思って」
「そうですか……」
私が相当呆れた顔をしていたのだろう、王子は頬を紅潮させながら手を振り回した。
「いつもお前ばかり精霊に触ってて……ずるいじゃないか!」
「そりゃあ……」
精霊使いはそれが仕事である。
嘆息した私は、隣の掃き出し窓を開けて王子を部屋の中に入れた。散っていった精霊たちを集め、中でも度胸がありそうな奴を一匹、王子の手の上に乗せる。
「……いいですか、見るだけにしてくださいよ」
論文に戻る。ゆるやかな風が吹いて行った。
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