そばにいる人、いたい人

二ッ木ヨウカ

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「ジュン、告白っていつしたらいいのかなあ」

 何となく浮かんだ疑問を口にすると、がりっ、と、淳哉がフォークを噛む音がした。

「え、なんて?」
「今告白して恋人になれたらさ、クリスマスとか一緒に過ごしたり、できるかなあって思ったんだけど……どうかな?」
「はあ?」

 淳哉なら、何かいいアドバイスをくれるのではないだろうか。そう期待した樹だったが、帰ってきた淳哉の声は低く唸るようだった。

「……したいときにすればいいんじゃねえの、そんなの」

 冷たく突き放されるように言われ、しまったと思う。多分これは、聞いてはいけないことだったのだ。

「ご、ごめ……」
「いやほら、俺はお互いの温度感とかわかららないしその時の雰囲気とかもあるし」

 樹が謝ろうとすると、慌てて取り繕うように淳哉は早口で続けてきた。その顔には張り付けたような笑みが浮かんでいて、それがかえって怖い。そうだよね、と合わせて頷くと淳哉は残っていたケーキを一口で食べ、残っていたジュースで飲み込んだ。

「それじゃ行こうか。この後どうする?」
「特に決めてはないけど……」

 そっか、と言った淳哉は、買い込んだ洋服の入った袋を持って立ちあがった。突然のことに樹がぽかんとしていると、そのままレジのほうに向かっていく。

「ちょ、ちょっと待ってってば!」

 キャラメルマキアートはまだ熱い。残っていたケーキを急いで口の中に詰め込み、熱さに涙目になりながら飲み干す。
 淳哉は店の外で待ってくれていた。樹を認めてから振り向き、大股でファッションビルの外に出る背中を追う。自動ドアを抜けた瞬間、刺すような空気が襟元から差し込んできて樹は体を震わせた。

「ジュン、怒ってる……よね? ごめん、僕が変なこと言ったから……」
「怒ってない。俺が元々こういう顔なのはイツキも知ってるだろ」
「でも……」
 確かに淳哉は表情を作るのが下手だ。そのせいでただ黙っているだけで怒っている、不機嫌だと勘違いされることが多い。だが不器用なだけでちゃんと表情はあるし、樹にはそれを見分けられる自信があった。

 そして今、樹の目からは——淳哉は苛ついているように見えた。余裕がなさそうで、少しつついたら破裂する水風船のようだ。何が悪かったのかはわからないが、とにかく樹が苛立たせてしまったのは確実だった。
 どうしてこうなってしまったのだろう、と思う。さっきまで楽しかったのに。淳哉はああ言ってくれるが、自分はやっぱり間違ったことばっかりしてしまっているのではないだろうか。あるいは、さっきのがきっかけでついに淳哉が樹に愛想を尽かしてしまったか。

「ジュン、ごめん、何が悪かったか教え……」

 いつの間にか下を向いていた視線を上げた樹は凍り付いた。淳哉の姿が見えない。ひしめき合う人ごみの中を見回して背伸びをするが、樹の背では遠くまで見通せず、ぶつかった女性に舌打ちをされた。

(えっ、置いていかれ……た?)

 いや、淳哉はそんなことはしないだろう、ただはぐれただけだ。そうは思っても息が苦しくなる。
 立ち尽くしたまま左右を見回していると、人ごみの向こうを歩く背の高い人影が見えた。頭の群れからひょこりと飛び出した、柔らかくうねる茶色い髪の毛、とろりとした、色っぽい目つき。

「先輩?」

 樹がじっと見ていると、その人影は隣にいる女性に振り向いた。やはり髪を明るく染めた、防寒より攻めの姿勢を重視した格好の女性と微笑みを交わし、身を寄せ合って——

「イツキ!」
「わっ!」

 突然腕を掴まれて樹は叫んだ。振り向くと、樹を睨みつけるように淳哉が立っている。

「ジュン! 僕、その、ごめん、えっと」

「俺こそ悪かった。本当にイツキは何も悪くないから。ただ、俺が……何でもない」

 頭を振り、大きく息を吐いた淳哉に、先ほどまでの苛々とした雰囲気はない。

「あ……うん……」

 だが、何か変だ。言語化は難しかったが、樹はそう感じた。抗議の意を込めて見上げると、樹の指先にするりと淳哉の指が触れた。軽く握りこまれる。

「ごめん、もう置いて行かないから」
「う、うん……?」

 指先から伝わってくる温かさに、樹は今更ながら全身がドキドキしてくるのを感じた。一人になって心細かった、なんて言えない。覗き込んでくる淳哉から隠れるようにまた俯き、手を引かれるままに歩く。そのうちに、少しずつ人の数が減ってきた。

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