そばにいる人、いたい人

二ッ木ヨウカ

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「なあイツキ、この後決まってないなら、先輩とのデートに備えて予習しておくってのはどうだ?」
「え、何……を?」

 淳哉を見た樹は、自分の目の前にある建物が目に入って硬直した。人目を憚るような高めの壁に、若干いきすぎ感のあるこじゃれた装飾。そして、壁の電飾看板に書かれた「ご休憩」「ご宿泊」の文字。
 入ったことはない。けれど、さすがのイツキにもそれがどんな建物なのかは分かった。

「先輩と来たときにおろおろしてたら恥ずかしいだろ」
「そ、それは、そう……だけど?」

 こういうのも予習って必要なのだろうか。どぎまぎして視線を泳がせていると、繋いだ手を軽く引っ張られた。ホテルの前に立ち尽くしているのも恥ずかしく、そのまま中に入ってしまう。

「待って、ジュン……」

 声をあげようとするものの、しんとしたロビーの雰囲気のせいで尻すぼみになる。

「どの部屋がいいとかある?」
「ど、どれでもいい」

 さっきまで寒かったのに、もう全身が汗だくで顔から火が出そうだった。とにかく早く人目につかない場所に行きたくて、ふかふかとしたじゅうたんを見つめながら淳哉にくっついて歩く。小さなエレベーターに乗り、気づいた時には似非ロココ調の部屋の中に立っていた。

「わあ……」

 なぜ自分はここにいるのだろう。しかも淳哉と。いや、もちろんついてきてしまったからなんだけど、なんでこんなことに——いまいち現実味がなく、ぼうっとした頭で考える。
 淳哉に促されるままジャケットを脱ぐと、体中を濡らしていた汗がふわりと冷えていく。どうしたらいいか分からないまま巨大すぎるベッドの端に腰を下ろした樹は、それでも頭をもたげる好奇心に従って部屋の中を見回した。

 小さな冷蔵庫に、使い勝手の悪そうなローテーブルとソファ。間接照明が効いた、昼なのに少し暗いのはなぜなのかと思ったら、窓のあるべき場所には戸棚のような扉がついている。面白そうに自分を観察する淳哉が見えて、樹はパッと目をそらした。話題を変えようと慌ててヘッドボードにあった小さな包装を摘まむ。

「ほ、ほら淳哉見て、ここにお菓子……じゃないっ!」

 投げるようにコンドームを戻す。ふ、と淳哉が噴き出す声が聞こえていたたまれなくなった樹は、顔を覆ってベッドの上に転がった。穴があったら入りたい、とはまさにこのことである。
 そのまま現実に目を閉ざしていると、きし、とベッドが小さく揺れた。

「イツキ。イーツーキ」
「……なに」
「かわいいな」

 指の間から覗くと、目の前に寝そべった淳哉の顔があった。眼鏡越しの、落ち着いた錆色の眼差しにどきりとする。
 隠さないで、とささやく声とともに、顔を覆っていた手を外される。露わになった、少し乾燥した唇に淳哉の指が触れた。触られているのはそこだけのはずなのに、ざわざわと落ち着かない感覚が樹の全身を走っていく。

「ジュン……?」

 どうしよう、と思った。嫌ではない、けれども、どことない後ろめたさがあった。なぜか悲しそうな表情をした淳哉の表情に、それ以上何も言えず、樹はただ深く沈んだ錆色の瞳を見つめた。
 ゆっくりと淳哉の顔が近づいてくる。避けようと思えば避けられたし、やめて、と言えば淳哉はやめてくれるだろうと思った。だが、樹はただ眼を閉じることを選んだ。

「んっ……」

 唇と同時に、眼鏡が樹にぶつかった。鬱陶しげに淳哉が眼鏡を外し、ヘッドボードに置く音が響く。行き場を失った手で淳哉の服の裾を握りこむと、唇の間から淳哉の舌が入ってきた。口を開くと、ぬるぬるとその先端が中を這いまわった。さっき火傷したばかりの舌先がピリピリと痛む。
 先ほど感じたざわざわとした感覚が強くなり、全身が震えた。柔らかく熱い舌先で舐められ、吸われるたびにふわふわとした幸福感で頭の中がいっぱいになっていく。

「ふ、は……」

 唇が離れ、大きく息を擦った樹は薄く目を開けた。目の前の淳哉も肩で息をしていて、捕食者のような、熱に浮かされたようなギラギラと輝く目をしている。長年の友人のはじめて見る様子に戸惑っていると、膨らんでしまった股間に淳哉の指が伸びてきた。

「ああっ」

 自分でも聞いたことのない、甘く甲高い声が出た。びっくりして口を押さえる。

「気持ちいいのか?」
「う……うん」

 もっとやってほしい、と言いそうになり、口を押さえた格好のまま固まっていると、体を仰向けにさせられた。またがるように乗ってきた淳哉が樹のスラックスに手を伸ばす。

「ほら、ちょっと腰上げて」
「ひゃあっ」

 言われるままに腰を上げると、下着ごと一気に服を脱がされた。いつの間にかシャツのボタンも外されていて、樹の両足の間に座った淳哉が胸や太ももの素肌の上をぺたぺたと撫でていく。くすぐったさに体をよじると、胸に置かれた手が突起に触れた。

「あっ……ふぁあ……」
「うん? こう?」

 淳哉に再度突起を弄られ、体が震えた。反射的に腰が浮く。こんなことをしていいのだろうか。雲の上に浮かんだような、今にも落ちていきそうな心が、淳哉に触れられて声を掛けられるたび、じわりと溶けていく。
 戸惑う気持ちとは裏腹に樹の股間は熱く滾り、張り詰めながら先端から蜜をとろとろと垂らしていた。淳哉の手のひらがその雫ごと樹の屹立を握りこみ、塗り広げるように手を動かした。
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