そばにいる人、いたい人

二ッ木ヨウカ

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 次の日、樹はいつもより早く目が覚めた。スマホを見ながら時間割を思い出し、もう少し寝てても大丈夫だ、と目を閉じる。できるだけ長く現実逃避したかったのだが、そういう時に限って二日酔いの頭痛が二度寝を邪魔した。しばらく抵抗したものの諦めて起き上がり、のたのたと頭痛薬を飲む。
 頭痛が治まって来た頃にシャワーを浴びる。何となく背中の痣を確認するが、薄いシミのようになったそれは確かにまだ存在していた。

「あ、あれ?」

 家を出ようとして、買ったばかりのコートがないことに樹は気づいた。

(昨日確かに着て行ったよね。家に帰ってきたときは……どうだっけ?)

 須野原の部屋から飛び出してきたときに、彼の部屋に忘れてきてしまったのではないだろうか。その可能性に思い至った樹の心はずんと重くなった。

(今日、確か一緒の授業あったはずだよね、もういっそのこと学校休んじゃおうかな。でも出席厳しいからな……っていうかお金、返してもらってない……)

 このまま須野原と気まずくなり、疎遠になってしまうのも嫌だった。えい、と気合を入れて玄関を出る。
 大学には十五分ほどでついた。工学部棟と図書館を超え、奥の理学部棟に向かう。どんよりと曇った空は太陽の日差しを通さず、そのせいかここ数日で一番の冷え込みだ。

「イツキ!」

 薄いジャケットの前を掻き合わせて歩いていると、背後から声を掛けられた。振り向くと、一限前のまだ人通りが少ないキャンパス内を淳哉が走ってきていた。気まずさから逃げそうになるものの、淳哉に肩を叩かれる方が早かった。

「あ、お、おはようジュン」
「う、ん」

 相当急いだのか、息が弾んでいる。胸に手を当てて深呼吸をした淳哉は、眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。

「昨日は……悪かった。須野原が悪いとかそういうことを言いたいんじゃなくて……イツキにはもっと自分を大切にしてほしかったんだ。ちゃんと時間をかけないと、本当に信頼していい相手かどうか見極められないだろ? イツキに傷ついてほしくないんだ」
「え、あ……うん」

 淳哉の表情は相変わらずのしかめ面だったが、その声には不安と心配の色があった。

「……僕こそ、自分から夜中に掛けといて、いきなり通話切ってごめん」

 返しながら、樹は胸のつかえがとれるのを感じた。樹を信用していないのではなく、単に淳哉が心配性なだけだったのだ。それにしても過保護な気はするけど。

「本当な。もう寝てたもん俺」
「う……ごめん」
「いいよ、イツキならいつでもかけてきて」
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