とある少女の異世界奮闘記+α

輝国 飛鷹

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ラサール魔法学校入学編

第4話《福本アヤノンの憂鬱》

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      *


「アヤノン…………それが新しい俺の名前…………」
「そうよ。とてもいい名前でしょ? 私、名前のセンスには自信があるのよ」
「いやセンスが良いのかはイマイチ分かんないけど…………」
「いやぁ~、“アヤノン”か。いいんじゃないか?」
  と、父さんは夢うつつの表情で言った。
「流石は母さんだ。私は仮の名前である“真地”を口にする度に、背中に虫酸が走るような思いをしていた。しかしその苦しんだ16年間を全て無に中和してくれる…………そんな素晴らしい名前を思い付くとは………君は天才か?」
「ねえ? ナンヤカンヤで“真地”の存在否定すんのやめてくんない? こっちはマジで笑えないから、いやマジで」
「私は別に普通に思い付いただけよ。けど、確かに“真地”はクソだったわねー♪」
  母さんはこれでもかというくらい毒を吐く。
「大体名前の方向性が最悪なんだよ。“真地”は感じで書けば“真”に“地”だろ? “真”これ は“真相”、“真実”など正のイメージが強い」
「そうね」
「だが“地”こっちはどうだ? “地面”、“地震”、“地味”といった負のイメージが強い」
「な、何が言いたいんだよ?」
  俺は言葉の反発を覚えて身を乗り出した。
「分からんか? 正の“真”に負の“地”…………これらは足せばプラマイゼロ。正でもない、負でもない、言い換えれば“無”なんだよ! つまり、お前は名前からすでに自分の存在を否定してたんだよ!」
「どんな発想の飛躍だよ!? これさっきパッと思い付いたやつだろ!」
「当たり前だ!」
「堂々と言うな!」
「まぁまぁ二人とも、少し落ち着いて」
  そんな中、母さんは俺たちをフワフワとなだめた。俺は乗り出した身を一旦引いた。
「もう…………お父さんったら人が悪いわよ。そこまで言わなくてもいいじゃない。ねえアヤノン?」
「いやあんたが一番ドストレートに言ってたからな」
「あらまぁ…………アヤノン、私が何の考えもなしに“クソ”とか言うわけないじゃない」
「いや現に言ってたよね!?」
「これはね、汚ならしい意味での“クソ”じゃないの。いい意味の“クソ”なの。感じで書いたら分かるわ」
「ねぇ。最近流行ってるの? 言い逃れにムリに漢字変換する方法」
「言い逃れなんかじゃないわ。ほら…………“クソ”って漢字に直すと、『 功祖こうなる 』でしょ?」
「うわー、初めて知ったよママ! ってなるかぁー!」
「これは…………なるほど」
  と、何故か父さんは悟った様子で口に笑みを含ませた。
「“功祖”…………『成“功”の先“祖”』という意味か…………。流石は母さん。ナイスネーミング!」
「お父さんせいかーい! ウフフ」

「「イェイ!」」

  そうして二人はハイタッチをした。
「何が『イェイ!』だよ。こっちは『イェイ!』じゃねーんだよ! “真地”としての心がささくれていくだけだよ!」
「分かった分かった。すまないアヤノン。お前を少しでも元気付けようと思ってだな…………」
「あれで元気になれるやつの方がスゴいよ!」
「アヤノン本当よ。私たち、結構不器用だからこういうこと慣れてなくて…………」
「にしてはコンビネーション抜群だったな!」
「まぁ“愛の力”があれば造作もない。だよな母さん?」
「えぇお父さん。ウフフ」

「「イェイ!」」

  再びそこでハイタッチ。
「もういいよハイタッチネタは! なんか飽きたから」
「そうか? 中々自信作だったんだがなぁ…………なぁ母さん?」
  父さんは残念そうに母さんを見つめる。母さんは暗い瞳を覗かせ、
「そうね………ハァ…………」

「「イェーイ…………」」

  やっぱりハイタッチ。
「バージョン変えてもダメだからな!」
「うぅ…………アヤノン、中々手厳しいわね」
「あぁ、これではかつての真地そっくりだ」
「そりゃあ中身は純度100パーセントの福本真地だからな」
  俺は息を切らして、流石につっこむ気力がなかった。このバカ夫婦からどうして俺は生まれてきたのだろうか。
「あのさ…………もうその不器用ななぐさめはいいからさ。俺の疑問を言ってもいい?」
「あぁ、なんだアヤノン?」
  父さんは毎度“アヤノン”と呼ぶごとに顔がだらしなく溶けていく。娘が出来た快感におぼれているのだろう。
「じゃあさ…………俺、明日も学校があるんですけども、どうすればよろしいのかな? 先生たちにどうこれを説明するわけ?」

  それが一番の不安要素であった。事実、俺は事故に遭い、女体化する前は普通の“福本真地”として学校に通っていたのだ。さらに言えば幼なじみでひんにゅーの北華きたばなもそこにいる。もし北華あいつが俺のことを知ったらどうなるだろう。先生たちもどうなるだろう。クラスの奴らは?

  ……………そんな風に不安の網目が広がるなか、母さんはきっぱりと言ったのだ。
「それなら問題ないわよアヤノン。あなたは明日からに通うことになるから」
「べ、別の学校? それって転校ってこと?」
  確かに転校すれば、余程の事がなければ――――例えば女体化前の写真が何かしらのルートで出回るなど――――問題は発現しないだろう。しかし女体化がいつ起こるなんて母さんたちには分からなかったはず…………。そんな1日で転校の手続きなんてできるのか?
  それを言うと、母さんはにんまりと笑みを浮かべて、
「それができるのよ。もちろん、
「…………? それってつまりどういうこと…………?」
「えぇ、それはね…………お父さん」
「あぁ…………あのな、アヤノン。急な話で大変申し訳ないんだが…………」
  父さんにバトンは渡され、急に改まって俺の今後を告げたのだった。

「お前には、明日から



      3


「異世界に行けってことか……………」
  その夜、俺はベッドで横になっていた。薄暗い中でほんわかと光る照明はいつも通りだが、おれ自身は別物になってしまった。
  俺は寝返りをうった。
  は、俺の不安をさらに掻き立てるのに十分だった。
  このパジャマはなのだ。

「これ着てみて! はやくはやく!」
  と母さんから半ば強制的に着せられ、そのまま約5分間写真を撮られるという謎の罰ゲーム? みたいなのを経て、俺は今ここにいる。
  ふりふりが着いた、可愛らしいパジャマだった。鏡でちらっと覗いたが、まぁ似合っていると思った。それはもちろん、“福本アヤノン”の姿として、だ。男の“福本真地”が着たら、それこそ恐怖しか生まれないだろう。

  俺は中々寝付けず、何度も寝返りをうった。

「明日になれば……………」

  明日になれば、俺は苦労して入学した学校を離れ、全く知らない世界の学校に通うことになるらしい。その時俺は言わずもがな、女子のあのスカート姿の制服を着ることになるわけで…………。
「うぅ…………想像しただけで恥ずかしい」
  中身は完全な男なんだから当然だ。北華が聞いたら腹を抱えて笑うに違いない。
  今日は………いろんな事があった。
  事故に遭うは、女体化するは、生乳を揉めたは………あれを想像するとまた鼻血が…………。
「はぁ…………けど、明日がもっと大変だな…………」
  明日には一体何が待ち構えているのか。その確認は誰にも出来ないが、その対策として、俺は早め早めに就寝することに努めた。


      4


「じゃーん! 見て見てアヤノン! これがあなたの新しい制服よ!」

  寝起きの俺にうるさく騒ぐ母さんは、新品のそれを目前に突きつけた。全体的にピンクと青のイメージが強い制服だった。それでいて、装飾品がやたらと多い。肩からはなんかヒラヒラがぶら下がっている。そしてやはりスカートである。俺は朝から憂鬱ゆううつな気分になる。

「やっぱスカートは履かなきゃいけないのか…………」
「大丈夫よアヤノン♪ 下着がなんかスースーするくらいだと思うわ」
「それが問題なんだよな……………」
「アヤノン。いいから着替えてみなさい。そしてその姿を父さんたちに見せてくれ!」
  いつもならあくびをかます父さんも、今日はカメラを片手にスタンバイしている。
 俺は制服に着替えたが、やはり中身は完璧に男である。この姿には抵抗があるのだ。なので……………
「着替えたぜ」
  カーテンの影で着替えた俺は、姿を露にした。
「おぉ、…………って、アヤノン。なんでジャージのズボン履いてるの?」
  母さんは少し残念そうに言う。
「やっぱり、なんか履いてないと気持ち悪いんだよ。俺は心は男だから」
  しかし、そんな最後の足掻あがきに、父さんは終止符を打った。
「いかん、いかんぞアヤノン! スカートの下にジャージなんて! せめてスパッツを履け!」
「ちょっ………!? 確かに履く感覚は同じだけど、それはいくらなんでも………!」
「あらいい提案じゃない! お父さん、押さえつけて!」
「イエッサー!」
「やめろっ! 人権侵害だ! セクハラだー!」

  そんなこんなで、俺はスパッツを無理やり履かされたのだった。






  
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