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ラサール魔法学校入学編
第5話《学校登校には命を張れ》
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「………で、結局スパッツを履きました………」
「うん、良いじゃないか! これは写真大会で優勝間違いなしだ!」
父さんはカメラのシャッターを休めず、ひたすら取り続けた。
パシャッ。
パシャッ。
パシャッ。
「………なぁ母さん、ずっと気になってたんだけど………」
「何かしらアヤノン?」
「俺が今から行くのは母さんたちがもといた世界………つまり異世界だよな?」
「そうね。そこの“ラサール”という名の学校に行くわ。地図を渡しとくわね」
渡されたのはチラシの裏に雑に描かれた落書き………いや地図だった。ずいぶんと道順はクネクネしているものだ。よく見ると、出発地点が森の中だ。
「俺は森から出発?」
「そうよ。あとしばらくしたらもうちょっと近いところから行けるから、今回はそれで我慢してちょうだい」
「それ調節できんの?」
「えぇ、私たちの世界はスゴいんだから!」
「へえ、どんな風に?」
「それは…………行ってからのお楽しみ!」
母さんは何かと俺の興味を焦らしてくる。実を言うと、母さんがこの調子だから、俺は未だに異世界の全体図が掴めていないのだ。こことはかけ離れた世界だとは想像がつく。しかし、行き場所は人の認知の範囲から外れた世界だ。俺は田舎者ではないが、やはり不安だった。
「おぉ、おぉ! いいぞアヤノン! できればそのスパッツ姿でスカートをめくって見せてくれ!」
それをガン無視する父さんの眼球に、俺は凄まじい蹴りをお見舞いした。
「おぉぉぉぉ!? 目が………! 目が焼けるように痛いよぉぉぉぉ!」
「ふんっ。中身は息子だってことを忘れんな」
「あらダメじゃないアヤノン。少しは女の子らしい口調にしないと」
「いやそれは俺の中の“福本真地”が許さないからな! ぜってーそれだけは!」
これだけは譲れないのだ。俺は体は女だけど、中身は思春期真っただ中の、普通の男子なんだから。
母さんも、俺の異常な威圧感に圧され、それ以上は何も言わなくなった。
時は、午前7時00分ジャスト。
「さて、そろそろ行くか、アヤノン」
目の事故から復活した父さんは、引き締まった顔でその時を告げた。
「あちらの校長先生には事前にお前のことを伝えてある。学校に着いたら、真っ先に校長室に向かうんだぞ」
「分かった」
「あと、それから……………」
父さんは物置の奥に引っ込み、ガサゴソと何かをまさぐった。俺は不思議そうにそれを見ていたが、父さんはすぐに戻ってきた。手には袋に包まれた、細長い何かが握られていた。
父さんはすっとそれを差し出す。
「………? 父さん?」
「持っていけ。これは餞別だ」
「えっ?」
俺はそれを受け取った…………が、これが異様に重い。カチャッと金属音も鳴る。一体これは…………。
姿を目隠ししているベールをはぎ取ると、青い光沢を放つような、輝かしい産物が姿を露にした。
「これは………………」
「日本刀だ」
「あぁなんだ日本刀か…………って、日本刀!?」
俺は目を大きく見開いた。
「…………の、模造品だがな」
「いやそれでも分かんない! なんで刀!?」
「何かあったらそれで身を守るんだぞ。分かったな?」
「え、…………いや、えなに?」
身を守る…………? 一体なにから…………?
「…………さて、時間も迫っているし、もう行くか。車で送るからな」
「いやいや待てよ、身を守るって、一体なにから――――」
すると母さんは俺の肩にふっと優しく手を添えて、無事を祈る顔つきで言ったのだ。
「…………アヤノン。生きて帰ってきてね。私たち、信じてるから」
「…………ねえ。なんなの? え? ちょっとマジで怖いんだけど!? 俺どうなるの? 何かから狙われてんの? おい答えろよ!」
バカ夫婦は珍しく黙りこみ、そそくさと俺を連れていくのだった。
*
ヒュー………………。
ヒュー………………。
誰とは問わず訊こう。これが何の音か分かるだろうか。
口笛…………? いや違うな。もっとこう、自然なイメージがある。しかし一般には聞いたことはないのかもしれないな。
俺の耳元では、この環境音が絶えずメロディーを奏でている。だがそれに比例して、俺は汗を浮かばせた。
足が震える。
手汗で感覚がなくなりそうだ。
からだの重心が妙にずれて、その度に心臓が飛び出しそうになる。
刀を腰に挿しているから、こんなにもバランスが悪いのだ。
…………俺は視線のみを下へとゆっくり、ゆっくりとずらした。
その先には地面があるはずなのに…………何故か約30メートル先の光景がにわかに映る。
…………ここは自宅から約数キロほど離れたところにあるオフィスビル。
…………の屋上。
「………………」
ヒュー………………。
ヒュー………………。
「いいか、アヤノン。よく聞くんだ」
父さんはキリッとした声を、この環境音の隙間に入り込ませた。背後にいる彼は言う。
「世の中には、過酷な環境のなか、それでも学校に通うものが大勢いる。大雪原を数時間歩いて通うもの……………山や崖を登り、命がけで通うものもいる。だからこれはけっしてお前だけが味わってる訳じゃない。だからアヤノン――――」
「勇気を振り絞って、ここから飛び降りるんだあぁぁぁぁ!」
「いや出来るかあぁぁぁぁぁぁ!?」
俺はパッと振り返り、リズミカルに倒れそうになる体を起こして、この父親に怒りの指を突きつけた。。
「誰が悲しくてここから飛び降りるんだよ!? 俺は学校に行くんだよね? 誰があの世に逝くって言ったよ!?」
「アヤノン! 言ったはずだ。世の中には、お前と同じ苦しみを味わいつつもムリして登校する子供達がいるということを!」
「ビルから飛び降り自殺して学校に通うやつなんて聞いたことねーよ! 多分世界で俺だけだよ!」
「聞いてアヤノン! これは仕方がないの!」
母さんはハンカチ片手に涙ぐんでいた。風に吹き飛ばされそうになりつつも、俺は何とか耐える。
母さんは言った。
「異世界に行くにはこれしか方法がないの! これさえできれば、後は輝かしい異世界ライフが待ってるわよ!」
「それ異世界ライフの間違いだろ!?」
…………と、そこへ。
――――ヒュウゥゥゥゥゥ!
「あ、あ! こんな時に強風がっ…………!?」
それは俺に、さっさと下に落ちろと言わんばかりの冷たい風。髪がなびいて、スカートはヒラヒラと激しく舞う。が、その前に体勢を崩してしまい、
俺の体は空中に投げ出された。
「あぁぁぁぁぁぁぁー……………!?」
空を見上げると両親の姿が。二人とも何かを叫んでいた。きっとバカみたいに、「いってらっしゃーい!」とでも言ってるんだろう。まったく、仲睦まじい夫婦だな…………。
俺の体は重力に引っ張られ、徐々に加速度を増していく。その時空中に謎の異空間が生じ、俺を呑み込んだ。その後、しばらく俺の視界は全て光で塗りつぶされた。
俺の名前は福本アヤノン。
今日、俺はその異世界とやらへとばされたのだった。
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