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ラサール魔法学校入学編
第6話 《インターバル》
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『…………えー、続いてのニュースです。モール都市最大の銀行「キャリア銀行」に強盗が押し寄せ、総額2000万円が強奪されました。地方警察によると、犯人は黒い全身タイツの姿にリュックを背負ってるとのことです。地方警察は、周囲への警戒と情報提供を求めてい――――』
そこで男はピッと魔法レコーダーを止めた。
「全身タイツにリュックを…………ね。そんなアホみたいな格好をした強盗がいるならこの目で見てみたいと、外に出て正解だったよ。まさか…………」
少年はにっとまぶたを釣り上げた。
「ほんとに会えるとはねぇ…………ねぇ? 全身タイツの強盗さん?」
目前の全身タイツのその人物は、膝を地にすり付け、息を切らしていた。タイツのあちこちはすでに切り裂け、擦り傷がちらほらと見当たる。
強盗はしかし足掻きに足掻いた。拳銃をすぐに構え、弾を充填する。
「死ね、この…………クソガキがっ!」
銃声が――――パァァァァァン――――と鳴り響く。回転を受けた弾は空気を切る軌跡を描いて、少年の胸元へ。
しかし 少年は別に怯える風もなく、ただ妖しく燃えるその瞳を向けているだけで――――
すると瞬時に巨大な魔法陣が展開。弾はそれに飲み込まれ、何処へに消えていった。と、すぐに弾は姿を現した。しかしそれは、少年の背後の魔法陣から、であった。
弾は少年の体を貫通しなかったのだ。
弾は役割を果たすことなく、そのまま不発に終わった。
――――パチン――――と、弾が少年の背後で弾いた音がした。
強盗は驚愕を露にする。
「ちっ! 何でだよぉ…………! なんで弾の一発も当たらねぇんだ…………!?」
それから弾が事切れるまで何度も、何度も撃った。撃ち抜いた。しかし弾は少年には当たらなかった。全てが魔法陣に飲み込まれては、また少年の背後からふっと飛び出し不発に終わった。やがて――――
「…………っ!? た、弾がもう……………」
「なんだい? もう終わりなのかな?」
「ひ、ひぃ!?」
と、強盗は身を固めた。無理もない。少年の顔には翳りがあったのだ。
「ゆ、許してくれ、頼む! 俺はまだ死にたくねぇんだ! な、なぁ? この通り!」
男はプライドを全て脱ぎ捨て、身だけとなったその魂を地に擦り付け、救済を欲した。
「…………僕はどうして君を倒すと思う?」
突然の問い。
強盗は、
「そ、そりゃあ…………てめぇは銀行強盗した俺を許せないんだろ? 悪を成敗、みたいな……………」
「僕が…………悪を成敗、か…………。フフフ…………ハハハハハ!」
突然の笑い。声の張り上げ。強盗はその声に身を震わせる。
「悪いけど、僕はそんな事の理由で君たちを成敗する訳じゃない。僕はそこまでキレイな人間じゃないからね」
「そ、それじゃあなんだよ……………?」
強盗は恐る恐る尋ねてみる。
「僕が…………君たちを狩るのは……………」
「もちろん、周りから“キレイな人間”だと思われるために決まってるじゃないか」
“偽善者”は笑った。その手は新たな魔法陣を展開して――――
*
『最近は【魔法院】と【科学院】との議論が活発ですね。この前なんかは手を出した大臣もいたとか』
『そうですね…………歴史を振り返れば、確かにこの二つは対立を続けてきた仲ですからね。今回のような件も、仕方ないと言えば、そうなのかもしれません。逆にそれらが融合されたこの今の世界の現状は、まさに奇跡と言えますね』
『世間的に見れば、軍配はどちらにあがるのでしょうか? やはり【魔法院】ですかね?』
『そうでしょうね。そもそも現在の我々の生活というのは、基本魔法で成り立っているわけですし、またそれらに携わる教育機関の数は言わずもがな、と言ったところですからね』
『しかし最近では、「科学が魔法を上回った」と言った報告もあるようですが…………』
『その時はいずれ訪れるでしょうね。【魔法】に関する研究は、現在では完全ストップ。先人たちが残していった魔法書しかないのが実情です。一方【科学】では、積極的な活動が目覚ましい所もあるようです。進化を求めるものが、それを放棄しているものを追い越すのは不思議ではないですね』
『なるほど…………さて、続いてのニュースです。昨日発生した【キャリア銀行強盗事件】ですが、今朝がた犯人らしき男が――――』
ピッ。
そこで少女はテレビを切った。
「最近怖いことしかないのです……………」
「こらマリナーラ、テレビを見終わったらさっさと学校に行きなさい」
「あ、お母様。お早うございますなのです」
少女はその小さい身でペコリとお辞儀した。お母様、と呼ばれた女性は、ボサボサの髪をワシャワシャとかきむしりながら、
「ホント、あの魔法学校は朝が早いわよねー。まだ6時よ6時」
「ははは…………でも、仕方ないのです」
少女はバックの中身を覗きながら、せっせと準備を進めた。
「【ラサール魔法学校】は有名な進学校なのですから。でも『最弱魔法使いの集まり』と呼ばれるY組の私たちには関係ないのです」
「じゃあ、なんであんた最近早起きして行ってるの?」
「部活なのです」
「へぇー、マリナーラ、部活してたんだ。どの部?」
「…………それは個人に関わる情報なのです。だから教えられないのです」
「えー、いいでしょべつに? 私はあんたの母親よ? お母様よ? 身内にも教えられないの?」
少女――――マリナーラは唇をあまがみした。バックを肩に引っ提げ、母親を見る。
「いくらお母様でも…………ムリなのです。みんなとの約束なのです」
「なによ~、ちぇっ。教えてくれてもいいじゃない。でもまぁ、友達との約束なら、仕方ないわねー」
母のその寛容さは娘のマリナーラの心を包み込むような、温かい感じであった。母親らしい振る舞いはほぼというか全くないけれど、娘であるマリナーラのことを一番に理解している…………そんな不思議なひとなのだ、このボサボサヘアスタイルのお母様は。
「ほら、なにしてんの? はやく学校に行かないと部活に遅れるわよ」
「はい、お母様、行って参ります」
少女は自宅のドアをバタンと開いた。その先には広々とした草原。
風が、ヒューと吹いた。
道しるべがごとく拓かれた、一本の道。
それに沿って少し歩けば、丘の上に自宅を持つ彼女は、この世界の“中心”を見据えることができた。
魔法と科学が融合し、ありとあらゆる物が魔法に依存した社会。それはガラス張りのクリスタルのようにキラキラと眩しく、幻想的である。
世界の中心都市、モール都市。
少女はその世界に飛び込むため、今日もその一本道を力強く踏みしめる。
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−−−−−−
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