とある少女の異世界奮闘記+α

輝国 飛鷹

文字の大きさ
30 / 69
試練・精霊契約編

第28話《その一方病院では………》

しおりを挟む


      *


「あ、倒れた」
  アツナガの無気力な声が全てを興ざめとしてしまった。
  歓喜に入り浸るもつかの間。アヤノンと精霊フォルトゥーナが同時にバタンと倒れた。
「アヤノンちゃん!?」
  アツナガとジェンダーが駆け寄る。二人はクルクルと目を回している。混乱状態…………? いや、なぜそんなことになったのだろうか?
「どうした! 何かあったのか!?」
  クロ先生と校長も急いで駆けつけた。テスト合格の歓喜から一変して、場の雰囲気は緊張に包まれる。
「それが…………急に倒れて…………」
  ジェンダーの報告を受け、クロ先生がアヤノンと精霊の容態を確認する。貧血か何かか? しかし、息は正常。熱などの状態異常も見受けられない。
「まさか、無理に体を動かしたからとか…………」
  アツナガの発想も、たしかにあり得た。しかし、それならば見舞いに行ってるマリナーラが止めるだろうし、病院側からドクターストップがかかるはずだ。
  そんな中、二人はやはり目を回している。そして口々に「ふわぁぁぁぁ……………」と酔ったようなうめき声を上げた。
  この光景を、校長は見覚えがあった。
「まさかこれは…………じゃないのか?」
「「…………?」」
  全員が疑問符を並べた。
「魔力欠落症とはその名のとおり、魔力の使いすぎにより引き起こされる、言わば『脱水症状』に近いものじゃよ。昔、魔法の使いすぎでこうなった生徒を、わしは見たことがある」
「それで突然倒れた、ということですか…………」
  クロ先生は納得して頷いた。
「しかし、なぜ精霊も?」
「精霊と彼女は『精霊契約』をしておる。ゆえに魔力の源泉はの方なんじゃ。アヤノン君は精霊から貰った魔力を使ってたにすぎん」
「ならば、精霊のみが欠落症を起こすのでは?」
「いや、『精霊契約』は、精霊と契約者が一心同体になることを意味している。つまり精霊が欠落症を起こせば……………」
「それと連動して、福本さんも欠落症になるんですね」
  アツナガが言った。
「そうなるねアツナガくん」
  それにジェンダーが応答した。しかし、彼は急に顔をしかめ始めた。
「どうしたジェンダーくん、 そんな顔して」
「いや…………だっておかしいよ。アヤノンちゃんは使?」
「あっ…………そういえば…………」
「そいつは…………確かに…………おかしいなぁ……………」
  混乱の酔いが少々軽くなったか。アヤノンは目をすでに回していなかった。
「起きたんだねアヤノンちゃん!」
「こらこらくっつくな。精神的におかしくなるから。それより…………フォルトゥーナ?」
「うん……………なの」
  こちらもお目覚めのようである。二人の視界には体育館の天井が映っている。特にアヤノンの視線の先には、天井に引っ掛かった哀れなボールが。
「これは…………どういうことかわかる?」
「…………ごめんなさい。私、みたいなの」
「へぇ…………精霊にも、そういうのがあるんだ…………?」
「うん、なの。けどここまでだったなんて、私も気づかなかったの。ごめんなさい…………」
「いやいや、………謝る必要なんかないって。俺なんか一切無いからな。ゼロだからな」
「…………怒ってないの?」
  フォルトゥーナの声が震えていた。叱られるのでは、と考えているのかもしれない。
  そんなわけないだろ―――アヤノンは取れなくなったボールを見ながら言った。
「そんな事で怒るかよ。むしろ魔法を使わせてくれて感謝してんだ。これからもよろしくな」
「うん…………なの…………!」
  フォルトゥーナの不安は払拭された。これで本格的に彼女はアヤノンの相棒である。
  アヤノンは視線の矛先を周囲に広げた。

  アツナガとジェンダーは微笑ましく見ている。

  校長は「青春だ」と訳のわからん事を呟いている。

  クロ先生は安心しきったのか、吐息をついている。

  正直のところ、この精霊契約から、自分のチートライフが始まるのではなかろうかと、彼女はそんな幻想染みた物を抱いていた。しかし、世の中そんなに甘くはなかった。魔法力が少ないのは、否定できない『真実』である。これをくつがえすチートなんて、今から突然出てくる訳がなかったのだ。
  正直彼女も、アニメの主人公のようなチートが欲しかった。そうすれば、これからの歩みも、ずいぶん楽になるはずだから。
  アヤノンは深い吐息をついた。そしてようやく納得する。


  自分には、まだチートは早いのだと。



      *



「私は、別にいいと思うのですよ?」
  マリナーラが夕日に黄昏たそがれる。その目は洗礼された子供のようだった。病院の屋上は………いや、あらゆる屋上は、人間の内に眠る想いを吐き出させてくれる。彼女はそう思っていた。
「けど、こうも私の周りにが沸いて出るのはどうしてなのです。私なんて、1回も男の人と手を繋いだこともないのに」
  話を聞いていた男は、を飲み干し。
「いやぁ、お嬢ちゃんも手を繋いだことぐらいはあるだろ?」
「いつ私が手を繋いだと?」
「だってほら…………幼稚園の遠足の時とか…………お父さんと手を繋いだりとか…………」
「…………カクテル刑事さん。私はそういう事を言ってる訳じゃないのです」
「あ、はい」
「いいですか? そもそも私が話しているのは、自分の異性に対する意識が働いている時期のものであってですね。幼稚園とか、お父さんとか、そんなものは全部論外なのですよ」
「そうだね、うん、おじさん分かってたよ」
「大体、私がお父さんとのを範囲に考えてたら、それはファザコンを意味するのです。私はファザコンじゃないのです!」
「分かってる。だからさ―――」
「私は、別にもいいと思うのですよ? けど、それを間近で目撃してしまったら、もう立ち上がれないのは必至ひっしなのです」
「もう帰らせてくんない?」
「だからこうして、刑事さんに話を聞いてもらってる訳なのです。分かりましたか?」
「いやだから帰らせて――――」
「それじゃあ、今の話を踏まえて、もう一度詳しく話すのですよ。時は今から数十分前の話に―――」

  刑事は逃れられない。そのたそがれた少女が作り出した沼から。その淡々と語る少女が作り出した、場の支配力から。
(カクテル飲みながら気楽に聞いてやるか………って、ありゃ?)
  調べてみると、カクテルは今飲んだものが最後であったようだ。少女を見ても、今から解放してくれそうな雰囲気ではない。

  帰りたい――――カクテル刑事は沈む夕日に懇願した。


             ――章『完』――




  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

異世界きたのに、冒険者試験で詰みました。

アセチルサリチルさん
ファンタジー
【追放もざまぁも無双もない。あるのは借金と酒と笑いのみ!】 お父さん。お母さん。 あなたたちの可愛い息子は―― 異世界で、冒険者になれませんでした。 冒険者ギルドでのステータス鑑定。 結果は「普通」でも、 固有スキルは字面最強の《時間停止》 ……なのに。 筆記試験ではギルド創設以来の最低点。 そのまま養成所送りで学費は借金三十万。 異世界初日で、多重債務者です。 ……なめてんのか、異世界。 ここで俺たちパーティのイカれたメンバーを紹介するぜ! ケモミミ用スキルが初日で無駄になったバカ、タクヤ。 魔力制御が全くできない厄病神のバカ、リーシャ。 実は厨二病で呪い装備しか愛せないバカ、オルファ。 そして――スキルで時間を止めても動けないお茶目な俺、ユウヤ。 うーん! 前途多難! これは―― 最強でも無双でもない。 理不尽な世界で、借金と酒と事故にまみれながら、 なんだかんだで生き延びていく話。 追放? ざまぁ? 成り上がり? そんなものはございません。 あるのは、 愛すべバカどもが織りなすハートフルな冒険譚のみ。 そんな異世界ギャグファンタジーがここに開幕!

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

処理中です...