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第一章
何かのフラグではないと思いたい
しおりを挟む「森を迂回して行くとなると、片道5日はかかるかもな……」
ギルドを出てからすぐのアーヴィン先輩の呟きに、私は「何ですと!?」と目を剥いた。
「海月にどれだけ待って貰えばいいの? もっと早く着く方法とかないのか?」
「そう言われてもな……。森を突っ切れば3日くらいかもしれないけど……」
「漏れなく先輩が生け贄に」
「ならないぞ」
「先輩が逆にドリュアスを誘惑すれば良いのでは?」
「どうやってだよ」
自分で言ったことだが、そんなのは知らん。
「ドリュアスが魔物だったら倒すって手もあるけど、精霊だからな。諦めろ。ミツキだってずっと寝てる訳じゃないだろうから、頃合いを見て魔物退治をお願いするよ」
「いいの?」
「俺だって戦い通しは辛いんだよ。休ませて貰わないと。但し、俺の視界に魔物を入れさせないようにしてくれないと、身体が勝手に動いちまうし、精神的にも変わって来るから、考えて動くようにしてくれ」
「うん。……うん? 先輩の視界に入れないようには無理じゃないか? 目隠しでもする?」
「ごめん。ルナは考えなくていいや。その時になったら頼むから」
「……分かった」
何だか呆れられたような残念な子として哀れまれたような。
まあ、いっか。それより、片道でそれだけかかるとしたら、色々困ることがある。それについての質問をする方が大事だ。
「町の外って宿とか食堂なんかなかったよね? どうするんだ? 魔物狩って自分で調理? 私、何も作れないんだぞ? もしかして野宿か? 眠ってる間に魔物に襲われる可能性あるよね。実は一睡も出来ない感じ? シャワー浴びれないならどうするんだ? 着替え持って行った方がいい? 荷物あんまり持てないけどどうすれば――」
「待て待て待て!」
どうどう、と両手をこちらに向ける先輩。ちょっと表情が引きつり気味だ。一気に捲し立て過ぎたらしい。
「野宿は初めてか?」
「学園の敷地内での野営訓練ならしたが、魔物が出る『外』では初めてだ。しかも確りお泊まりセットを持参した上だったから、実際のものとは程遠いと思う」
「その時アイテムバッグについて聞かなかったか?」
これ。と先輩が腰に装着している縦長の小さなバッグを示す。
「聞いたよ。食糧とか着替えが入れられるんでしょ? でも平民は持つことなど出来ないのだよ、金持ちめ」
確か総重量一キログラムまでが収納出来る素敵なバッグだ。鞘とか矢筒みたいにギルドで支給してくれたらいいのに、家賃一年分くらい支払わないと手に入らないのだ。
「それ持ってるなら、昨日私があんなに重い思いをしなくても済んだのでは?」
「あんなに入らないだろ。十キロ以上あったんだから」
「それだけの量を女子に背負わせるなんて、先輩ってば鬼畜男子でも目指してますか?」
「目指してないよ、そんなもの。お前は本当に頭の中面白いことになってるよな。ミツキの影響か?」
「面白いかどうかは兎も角、影響は受けてるだろうねぇ」
なんて話していると、不意に私から視線を外した先輩の表情が、きょとんとしたものになる。
「ルナ、後ろ」
「?」
振り返ると異色パーティーの人が目の前にいた。
異色なのはパーティーメンバー七人のうち六人が、男装の麗人とやらであるからだ。そして残る一人はお姫様のような扱いをされている。
「酷いなぁ。合図送ったのに教えちゃうなんて」
声は作っているのか本来のものなのか、やや低めで深みがある。バトラーのような服装に髪を後ろに撫で付けた姿がサマになる女性というのも、羨ましいというか憧れるというか。侍らせたい気持ちも分かる気がする。
どうやら私に背後から目隠しをして「だーれだ?」とやりたかったようだが、見掛けたことがあるくらいの人の名を、当てられる筈がない。
「ごめんね、君たちがとても楽しそうだったものだから、つい話を聞いてしまったのだけれど、ちょうど君にプレゼント出来る物があったから、贈らせて貰えたらいいなと図々しくも思ってしまったんだ」
物をくれる側の人に図々しいなんて思う人はいないと思うんだけどな。
それより顔の距離が近いよ。私よりも、そして先輩よりちょっと高い身長だからって、わざわざ身を屈めてまで近付ける必要はあるのか?
「僕たちの気持ちとして、受け取ってくれるね?」
あれ。そこは少し強めに言ってくるのか。
僕たちってことは、もしかして男装のお姉さん方からってこと? もしかしてお姫様も加わったパーティー全員からとか……は、ないよな。だって、私はこのパーティーの人たちを見掛けたことが何度かあるけど、たまたま同じダンジョンにいたとか、ギルド内で擦れ違ったとか、本当にそれだけの関係なのに、先輩との話を聞いたというだけでプレゼントはおかしくないかな。
うん? それだと何か順番が違うよね。今この辺りに姿が見えるのは、目の前にいる人だけだ。だから話を聞いていたのも一人だけだと思われるのに、複数系になっちゃうって……どういうことだ。
「これを、君に」
「なっ……!」
何ですと!?
差し出された物を見て、目を疑う。
先輩が覗き込んで来たのが分かったから、そちらを見ると訝るような目を向けられた。
それは当然の反応だ。私だってそんな目でお姉さん(否待て。お兄さんというべきなのか?)を見てしまうくらいなのだから。
「受け取れないよ」
「何故? 必要でしょう?」
「家賃一年分なんで」
「家賃? ああ、心配しないで。8ヶ月分くらいだよ」
先輩が持っている物とは質感と形状がちょっと違うけれど、それはまさしく喉から手が出る程に欲しいアイテムバッグだ。
そうか8ヶ月分なら……って、それでも全然安くない! そして何故家賃を知ってるんだ。同じところに住んでるとかいう偶然は、絶対ないぞ。
「困ったな。気に入って貰えなかったようだね。確かに彼の物と比べれば安っぽいし、総重量も彼のは100キログラムまで入る規格外のレアで、こちらは一般的に出回っている中での最重量である、5キログラムまでしか入らないから、ゴミみたいなものだよね……」
「そんなこと言ってないよ? っていうか先輩、本当?」
そんなに入れる物なんかあるのか? 特にないならやっぱり昨日の私の働きは必要なかったんじゃないのか?
ジト目を向けて訴えても、先輩はニヤニヤ笑うだけ。
「ねぇ君」
スッと手を取られたかと思うと、さりげなくアイテムバッグを受け取らされてしまっていた。
「要らなかったら捨ててくれて構わない。けれどもし、そんなことをしたら悪いなと気にして貰えるなら、君に使って欲しいんだ。僕たちにはこんなことくらいしか出来ないから」
「……?」
何か、そんな風に考えさせてしまうようなことがあったかな?
「貰っておけば?」
先輩がぽつりと言う。
「遠慮したら損するだけだろ?」
「うっ」
それはそうなんだけど。
「ならばこうしよう。いつか僕たちの姫君の城に遊びに来て貰えるかな? 彼と一緒でも勿論歓迎するよ。どうかこの願いを聞き入れて、その約束した証として受け取って欲しい」
「……」
何が何だかよく分からないんだけど、バトラーさんは引いてくれそうにないし、貰えるなら貰ってしまえばいいと思う。
「じゃあ、有り難く使わせて貰う……貰います」
「ふふ。どういたしまして」
肩の荷がおりたようなスッキリとした顔をして、バトラーさんが「じゃあまたね」と去って行く。
颯爽とした後ろ姿を見送ってから、バトラーさんの名前を聞いておけば良かったと思った。
昨日から色々貰ってばかりいるんだけど……そのうち悪いこととか起きなきゃいいなぁ。
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