彼が冒険者をやめるまで。

織月せつな

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第一章

先輩が迷子

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「アーヴィンせんぱーい、どーこ行ったー!」

 森を迂回して、暫くは問題なかった。魔物が現れてもぽつりぽつりといるくらいで、短時間で先輩が撃退したし。
 けれど山道に入ってから木々の間を滑空する魔物と遭遇し、先輩がそれを追いかけて行ってしまったからさあ大変。
 待てども待てども戻って来ない。
 ガサガサッと茂みが揺れたと思ったら魔物だよ、こん畜生め。

 ザンッとメロ鹿を斬れば肉が手に入った。これは一口食べただけでメロメロになるくらいに旨い肉だから、勿論アイテムバッグへ。
 そのまま入れてもバッグの中が生臭くならないし、腐らないし、いつまでも新鮮そのものでいてくれるから有難い。先輩に渡された袋じゃこうはいかないからね。バトラーさんに感謝。

「そうだ。海月、起きろー。海月なら先輩が何処にいるか分かるだろー?」

 特に意味はないがコンコンと頭を叩いてみる。

〈んお? ワタシのターンか?〉

 あ、起きた。

「先輩とはぐれた。海月なら気配を追えるかと思ってさ」

 何しろ先輩が背負ってる闇が(精神的なものとは意味が違う)怖くて寝ちゃうくらいだから。

〈ワタシは犬か!〉
「双頭犬は確かに鼻が利くけど、嗅覚は黒牙狼の方が鋭いぞ?」
〈ふん。災害救助犬や麻薬探知犬の方が優秀に違いない〉

 ……多分、話が逸れたな。

「あのね。先輩捜して」
〈じゃあやっぱり――〉
「――ワタシのターンだな」

 入れ替わられた。まあいいけど。

「さてさて。まーものー、まーものー、でーてーこーい、まーものー」
〈歌うな〉

 その歌声にひかれた訳ではないだろうが、ドドドドドと地響きを鳴らしながら羽根つき猪が現れた。

「よっしゃ来たぁっ」

 羽根つき猪は土属性で、風属性に弱い。羽根は付いてるけど、突進することに夢中で飛ぶことはない。ただ、普段は忘れているだけで、たまに思い出すと飛ぶ。飛距離はそんなにないらしい。
 落としていくのは肉か羽根。メロ鹿より味は落ちるがそれなりに旨い。羽根は装飾品に使われる。

「いきなりのー、グラビティウインド!」

 海月が覚えたての魔法を使う。
 どんなものか知りたかったから、いい機会だ。

 フゴッ!?

 羽根つき猪の体が浮き上がり、焦って短い足をバタバタさせている。ちょっと可愛いなんて思ったところで、竜巻の中に入ったようにぐるぐると激しく回転し、丸っこい体が細長くなったかと思うと、パンッと弾けて消えた。
 ちょっとエグいものを見てしまった。
 その後で弾けた衝撃の所為かヒラヒラと舞った羽根がまた、残酷さを際立たせたように思える。

〈それ、余程の相手じゃない限り、使うのやめようか〉
「クッ、肉じゃなかったよ。けど肉だったら挽肉になってたかな……そっちじゃなくて良かったと言うべきか」
〈確かに〉

 散ってしまった羽根は、集めたところで買い取って貰える物ではないから、放置する。

〈で、先輩は?〉
「少しの間離れただけでもう恋しいのか。アオハルか!」
〈何言ってるか分からないんだけど、そうやって誤魔化してる? 分からないなら分からないって言ってくれていいんだよ?〉
「否、分かるさ、分かるとも。禍々しい気配があっちにあるってね!」

 ビシッと指差したかと思うと、さっきの羽根つき猪みたいにドドドドドと山深く、方向もすっかり分からなくなる勢いで駆けて行く。
 一体どれだけ奥に行ってるんだと頭を抱えたくなるくらいに突き進んだ辺りで、先輩を発見。

〈ターン終了。おやすみ〉
「えっ?」

 周囲に魔物の気配はないから、先輩に会ったって問題ない筈なのに、海月はすぐに引っ込んでしまう。
 有難う。と海月に向けた言葉は伝わったかどうか。既に反応がない。

「何処に行ってたんだ? はぐれて迷子になったらどうする」
「あんたが言うな! はぐれたのも迷子になったのも先輩の方だからなっ」

 私に気付くなりすっとぼけたことを言う先輩の頭を、ひっぱたいてやりたくなった。
 海月の言葉を借りるなら「なんでやねんっ」ってところか。

「先輩が暴走してこんなところまで来ちゃったんじゃないか。止めるって無理だよね。いっそのこと目隠しでもしておく? こんなんじゃダンジョンに着くまでに疲労困憊ひろうこんぱい状態になるよ?」
「……悪い」

 ――――チッ。
 ちょっとしょんぼりしたところも可愛いな。許せん。

 先輩が何でパーティーの誘いに乗らないか、はっきりと分かった。こんだけ面倒臭いことになるっていう自覚があるからだ。
 少しばかり意地悪を言いたくなったけど、それも可哀想だと思い直す。だって悪いのは先輩自身じゃないから。

「あ。ちょっと、先輩」

 キョロキョロと足元を見ながら移動を始めた先輩を、何処に行くつもりだとひきとめようとし掛けたところで、先輩が何かを拾い上げる。

「お詫び」
「? これ……」

 渡されたのは、先輩が倒した魔物が落とした物で。
 なかなかに珍しいやまいぬの牙だった。
 これがあれば私が持ってる豺の牙が損傷しても取り換えられるし、それどころか強化が可能かもしれない。

「やったぁ、有難う先輩」
「他に、メロ鹿と飛舞猿ひまいざるを仕留めたから、肉と皮膜が落ちてる筈だ」
「メロ鹿なら私も殺ったよ。飛舞猿の皮膜は兎も角、メロ鹿の肉は確保しなければ!」

 そうと決まれば目を凝らして急いで肉を探す。鮮度が落ちやすいから、早くマジックバッグに迎え入れなければならない。
 金剛カンガルーの尻尾肉や羽根つき猪の肉は長持ちするのだが、メロ鹿の肉は一時間も放置すれば腐ってしまう。それだけは絶対に避けたい。

「先輩、大量だね。そして頃合い良く空腹だと私は訴える」

 ぽいぽいっとバッグに投入したメロ鹿の肉は5つ。そろそろ貰ったマジックバッグの容量が足りなくなりそうだ。
 外側に目立たない形で内容量を知らせてくれる数値が出ているのだが、あと400グラムしか入らないとなっている。

「少し遅くなったが昼食にしようか。ちょうどいい倒木もあるから、台にもなるし。枝を集めてくれないか? メロ鹿なら簡単に焼くだけで、十分なご馳走になるからな」
「了解!」

 私が倒木の枝を折ったり周りにあるのを拾ったりしている間、先輩はマジックバッグからフライパンと塩を取り出す。
 鍋とか他の調味料も入ってるんだろうな。私の好奇心を満たす為に、中にある物全部出してみて欲しい。

「そうだ、ルナ」
「うん? これくらいで足りる?」
「ああ。そこに入れて火をつけてくれ」

 集めた小枝を見せると、いつの間にというかそんな物まで持って来たのかと驚きながら、手頃な大きさの石で組んだ簡易の小さなかまどに突っ込み、魔法で火をつける。

「それから、その『先輩』ってのやめないか? 言えるだろ、俺の名前」
「知ってるけど……『先輩』の方が呼びやすいから……」
「そんなに長くもないだろ」
「敬称略でいいなら」
「そもそも、ずっと敬語じゃないだろうが」

 そうだけど。改めて名前を呼ぶなんて、何だか恥ずかしい感じがする。恥ずかしく思うことなんて何もないっていうのに。

「分かったよ、アーヴィン」

 仕方なく呼んでみると、にっこりと微笑まれた。

「っ」

 何故か心臓がぶっ壊れるかと冷や汗をかいた程に、強い衝撃を受けたものだから、なるべく呼ばない方向で会話するようにしようと考えてみた。
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