12 / 27
第一章
先輩が迷子
しおりを挟む「アーヴィンせんぱーい、どーこ行ったー!」
森を迂回して、暫くは問題なかった。魔物が現れてもぽつりぽつりといるくらいで、短時間で先輩が撃退したし。
けれど山道に入ってから木々の間を滑空する魔物と遭遇し、先輩がそれを追いかけて行ってしまったからさあ大変。
待てども待てども戻って来ない。
ガサガサッと茂みが揺れたと思ったら魔物だよ、こん畜生め。
ザンッとメロ鹿を斬れば肉が手に入った。これは一口食べただけでメロメロになるくらいに旨い肉だから、勿論アイテムバッグへ。
そのまま入れてもバッグの中が生臭くならないし、腐らないし、いつまでも新鮮そのものでいてくれるから有難い。先輩に渡された袋じゃこうはいかないからね。バトラーさんに感謝。
「そうだ。海月、起きろー。海月なら先輩が何処にいるか分かるだろー?」
特に意味はないがコンコンと頭を叩いてみる。
〈んお? ワタシのターンか?〉
あ、起きた。
「先輩とはぐれた。海月なら気配を追えるかと思ってさ」
何しろ先輩が背負ってる闇が(精神的なものとは意味が違う)怖くて寝ちゃうくらいだから。
〈ワタシは犬か!〉
「双頭犬は確かに鼻が利くけど、嗅覚は黒牙狼の方が鋭いぞ?」
〈ふん。災害救助犬や麻薬探知犬の方が優秀に違いない〉
……多分、話が逸れたな。
「あのね。先輩捜して」
〈じゃあやっぱり――〉
「――ワタシのターンだな」
入れ替わられた。まあいいけど。
「さてさて。まーものー、まーものー、でーてーこーい、まーものー」
〈歌うな〉
その歌声にひかれた訳ではないだろうが、ドドドドドと地響きを鳴らしながら羽根つき猪が現れた。
「よっしゃ来たぁっ」
羽根つき猪は土属性で、風属性に弱い。羽根は付いてるけど、突進することに夢中で飛ぶことはない。ただ、普段は忘れているだけで、たまに思い出すと飛ぶ。飛距離はそんなにないらしい。
落としていくのは肉か羽根。メロ鹿より味は落ちるがそれなりに旨い。羽根は装飾品に使われる。
「いきなりのー、グラビティウインド!」
海月が覚えたての魔法を使う。
どんなものか知りたかったから、いい機会だ。
フゴッ!?
羽根つき猪の体が浮き上がり、焦って短い足をバタバタさせている。ちょっと可愛いなんて思ったところで、竜巻の中に入ったようにぐるぐると激しく回転し、丸っこい体が細長くなったかと思うと、パンッと弾けて消えた。
ちょっとエグいものを見てしまった。
その後で弾けた衝撃の所為かヒラヒラと舞った羽根がまた、残酷さを際立たせたように思える。
〈それ、余程の相手じゃない限り、使うのやめようか〉
「クッ、肉じゃなかったよ。けど肉だったら挽肉になってたかな……そっちじゃなくて良かったと言うべきか」
〈確かに〉
散ってしまった羽根は、集めたところで買い取って貰える物ではないから、放置する。
〈で、先輩は?〉
「少しの間離れただけでもう恋しいのか。アオハルか!」
〈何言ってるか分からないんだけど、そうやって誤魔化してる? 分からないなら分からないって言ってくれていいんだよ?〉
「否、分かるさ、分かるとも。禍々しい気配があっちにあるってね!」
ビシッと指差したかと思うと、さっきの羽根つき猪みたいにドドドドドと山深く、方向もすっかり分からなくなる勢いで駆けて行く。
一体どれだけ奥に行ってるんだと頭を抱えたくなるくらいに突き進んだ辺りで、先輩を発見。
〈ターン終了。おやすみ〉
「えっ?」
周囲に魔物の気配はないから、先輩に会ったって問題ない筈なのに、海月はすぐに引っ込んでしまう。
有難う。と海月に向けた言葉は伝わったかどうか。既に反応がない。
「何処に行ってたんだ? はぐれて迷子になったらどうする」
「あんたが言うな! はぐれたのも迷子になったのも先輩の方だからなっ」
私に気付くなりすっとぼけたことを言う先輩の頭を、ひっぱたいてやりたくなった。
海月の言葉を借りるなら「なんでやねんっ」ってところか。
「先輩が暴走してこんなところまで来ちゃったんじゃないか。止めるって無理だよね。いっそのこと目隠しでもしておく? こんなんじゃダンジョンに着くまでに疲労困憊状態になるよ?」
「……悪い」
――――チッ。
ちょっとしょんぼりしたところも可愛いな。許せん。
先輩が何でパーティーの誘いに乗らないか、はっきりと分かった。こんだけ面倒臭いことになるっていう自覚があるからだ。
少しばかり意地悪を言いたくなったけど、それも可哀想だと思い直す。だって悪いのは先輩自身じゃないから。
「あ。ちょっと、先輩」
キョロキョロと足元を見ながら移動を始めた先輩を、何処に行くつもりだとひきとめようとし掛けたところで、先輩が何かを拾い上げる。
「お詫び」
「? これ……」
渡されたのは、先輩が倒した魔物が落とした物で。
なかなかに珍しい豺の牙だった。
これがあれば私が持ってる豺の牙が損傷しても取り換えられるし、それどころか強化が可能かもしれない。
「やったぁ、有難う先輩」
「他に、メロ鹿と飛舞猿を仕留めたから、肉と皮膜が落ちてる筈だ」
「メロ鹿なら私も殺ったよ。飛舞猿の皮膜は兎も角、メロ鹿の肉は確保しなければ!」
そうと決まれば目を凝らして急いで肉を探す。鮮度が落ちやすいから、早くマジックバッグに迎え入れなければならない。
金剛カンガルーの尻尾肉や羽根つき猪の肉は長持ちするのだが、メロ鹿の肉は一時間も放置すれば腐ってしまう。それだけは絶対に避けたい。
「先輩、大量だね。そして頃合い良く空腹だと私は訴える」
ぽいぽいっとバッグに投入したメロ鹿の肉は5つ。そろそろ貰ったマジックバッグの容量が足りなくなりそうだ。
外側に目立たない形で内容量を知らせてくれる数値が出ているのだが、あと400グラムしか入らないとなっている。
「少し遅くなったが昼食にしようか。ちょうどいい倒木もあるから、台にもなるし。枝を集めてくれないか? メロ鹿なら簡単に焼くだけで、十分なご馳走になるからな」
「了解!」
私が倒木の枝を折ったり周りにあるのを拾ったりしている間、先輩はマジックバッグからフライパンと塩を取り出す。
鍋とか他の調味料も入ってるんだろうな。私の好奇心を満たす為に、中にある物全部出してみて欲しい。
「そうだ、ルナ」
「うん? これくらいで足りる?」
「ああ。そこに入れて火をつけてくれ」
集めた小枝を見せると、いつの間にというかそんな物まで持って来たのかと驚きながら、手頃な大きさの石で組んだ簡易の小さな竈に突っ込み、魔法で火をつける。
「それから、その『先輩』ってのやめないか? 言えるだろ、俺の名前」
「知ってるけど……『先輩』の方が呼びやすいから……」
「そんなに長くもないだろ」
「敬称略でいいなら」
「そもそも、ずっと敬語じゃないだろうが」
そうだけど。改めて名前を呼ぶなんて、何だか恥ずかしい感じがする。恥ずかしく思うことなんて何もないっていうのに。
「分かったよ、アーヴィン」
仕方なく呼んでみると、にっこりと微笑まれた。
「っ」
何故か心臓がぶっ壊れるかと冷や汗をかいた程に、強い衝撃を受けたものだから、なるべく呼ばない方向で会話するようにしようと考えてみた。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる