可愛すぎます、魔王さま!

織月せつな

文字の大きさ
7 / 25
魔王さま降臨編

魔王さまの、慰め?

しおりを挟む

 グザファン先生が保健室の先生になってしまった為、前の先生がどうなったのかを知りたくなった。
 だっていくらルーキフェルの傍にいる為とはいえ(しかも先生なんて四六時中一緒にいられる訳でもないのに)、前の先生から仕事を奪ったのだ。それで放ったらかしにされていたとしたら、あんまりだ。

「そんな悪魔みたいな所業をする筈がないじゃありませんか。馬鹿ですか?」

 果てしなく爽やかな笑顔と口調で、そう答えられた。
 一瞬はホッとしたものの、最後の言葉が酷い。

「? 二人は悪魔じゃないの? ……です?」

 ルーキフェルが魔王を名乗っている以上、悪魔とか魔物といったものに分類されると思ったのだけど、違うんだろうか。ちょっと調べたけど、ルーキフェルは一般的にはルシファーとかルシフェルとかいう堕天使なのだ。堕ちても天使は天使だから、悪魔じゃないってことなのかな。

「一括りにするならば、悪魔ですねえ。魔界に君臨している訳ですし」
「元は天使だったんですよね? 悪魔と敵対していたんじゃないんですか? それなのに魔王とかになれちゃったりするものなんですか?」
「ルーキフェルが神への反逆を企てたことはご存知で?」
「よく分かりませんが、何か罪を犯したという感じで堕とされたって……」

 答えながら、内心でグザファン先生に謝る。調べたけど、本格的なものじゃなくて、だから調べたって程でもなくて。たまたま見つけた漫画からの受け売りなだけなんです、と。

「で、あるなら、考え付くことはありませんか?」
「…………?」
「ああ、すみません。馬鹿でしたね」
「ううっ」

 酷い。やっぱり酷い。本当のことでも酷いよ。

「勇者ですよ」

 しくしくと心の中で嘆いていると、なんとも不似合いな名称を出された。

「使われない脳が通常の半分以下、或いはその更に半分くらいのあなたでも、ご理解いただけると思いましたが、これでも無理ならばお手上げですねえ」
「え、あ、あぅ、勇者、は分かりますけど、先生からそんな言葉が出るとは思わなくて……」
「未発達な上に寝惚けているあなたの脳に合わせたのですから、そう驚かれることでもないと思いますが?」
「……あーはい、そうですね……」

 けれど、そっかぁ……神様に逆らうなんて凄い奴だって、魔界のみんなに認められた結果が「魔王」なんだ……。

「嘘ですけどね」
「――――はい?」
「そんな単純なものではありませんでしたよ」
「何で嘘ついたんですか」
「そんなことも分からないのですか?」

 心底呆れたような目を向けられる。
 素直に信じちゃったのが悪いなんて思わないで欲しい。だから、嘘つく理由なんて思い付かなかった。

「面倒臭いからですよ」
「――――」

 ちょっと泣きたくなった。

「グザファン、そう結菜をいじめるな」

 ぽん、と頭に手を載せられ、いつの間に来たのかとびっくりしながらルーキフェルを見上げる。

「いじめてなどおりません。もしご期待して頂いているのであれば、このグザファンが精一杯つとめさせて頂きます。あまり道具はありませんが、軽く爪を――」
「わ~~~~っっ」

 先生の話の途中で、ルーキフェルが私の両耳を塞いで大声を出した。
 またまたびっくりしながらルーキフェルを見上げると、耳から手を外して「聞こえたか?」と訊いてくる。

「ルーキフェルの声が煩かったよ」
「失礼な。我の声は、否、声美しかろう。ああ、耳を塞いでしまったのがいけなかったのだな。ならばよく聞こえるようにしてやらねばのぅ」
「うきゃっ」

 不意に耳元で囁かれ、その近さと吐息の擽ったさに、思わずお猿さんのような声が漏れてしまった。
 私の反応が面白かったのか、ルーキフェルがイタズラっぽく笑う。

「ふふん。やはりこの姿でおる時は、我を『可愛い』などと言ってはおられんようだな」

 ぷにっ子のルーキフェルは、どうしたって可愛いのに。それに、他の子が「可愛い」って言っても怒らないのに、私が言ったことをまだ根に持っているらしい。

「それは当然です。あなたの美しさは至高の宝。常に輝く光そのものと申しても過言ではありません」

 少年の姿だと、ルーキフェルの存在そのものを大絶賛するグザファン先生。下手するとちょっと怪しい人に見えてしまう。

「それより、何故、貴様がグザファンと共におるのだ? 我が一眠りしておる時に離れてコソコソと……」
「わたしがこうして保健医の真似事をしているものですから、本来の保健医の行方を案じていらっしゃっただけですよ」
「そうか。で? その者はどうしておる?」
「近々、結婚する予定かと」
「結婚!?」

 さっきのルーキフェルのに負けないくらいの大声を出してしまって、私は慌てて口をおさえる。
 だけど、本当にびっくりしたのだから仕方ない。

「でも、それならえーっと……寿退職、ですね。だからすぐに潜り込めたんですか? だったら、お祝いくらい言いたかったです」
「事情が事情ですので、少々強引な手を使いましたからね」
「……まさか、先生が付き合ってた人とかじゃなくて、適当にくっつけちゃった、みたいなことですか?」
「ですから、そんな悪魔みたいな所業をする筈がないじゃありませんか。二度も言わせないで下さい」
「じゃあ、どうして……」
「二人が出会って結婚を決めるまでの時間を早送りしただけですよ」
「そんなこと出来るんですか?」

 ルーキフェルにもそんな能力が? と尋ねるように見ると、ちょっと唇を尖らせて頭を振った。

「我はそのようなこと、興味がないからの」

 拗ねてしまったようだけど、ここはグザファン先生の能力を確かめるチャンスだ。

「時間を早送りしたってことは、その二人はそういう運命だったってことですよね? グザファン先生は、運命の相手が見えるんですか?」
「…………まあ、一応」

 わくわくしながら尋ねる私に、グザファン先生が珍しく引き気味になったけれど、気にしない。

「じゃあ、私の相手、分かります?」

 というか、私って結婚出来るんだろうか。するとしたらどんな人なんだろう。
 それは年頃の女の子の、純粋な好奇心だった。
 …………なのに。というか、案の定、返って来たのは。

「残念ながら、見えませんね」
「え?」
「一生涯独身を貫かれるおつもりのご様子ですので」

 う、嘘でしょ……?

 よろり、とよろめいた私にルーキフェルが手を差し出してくれる。
 傷心の今、この優しさが嬉しい。

「まだ若い故に定まっておらぬだけだ。運命の相手というものは、一人ではないからな。時が経てば、結菜に似合いの者と出逢うだろう」
「…………うん」

 ルーキフェルの言葉に頷きながら、なんとなくだけど、その時が「今」じゃないことが残念に思えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...