可愛すぎます、魔王さま!

織月せつな

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魔王さま降臨編

魔王さま、訪問?

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 休みの日にすることは、先ず、二度寝。一人暮らしだから、多少寝過ぎたって怒られない。勿論、前夜は夜更かし決定だ。
 私は現在、宮森の姓を名乗っているけれど、それは高校を卒業するまでだ。その先も名乗りたければ、宮森おとうさんのところに行かなければならない。
 血の繋がりはないけれど、引き取ってくれるって言ってくれたから。
 両親の離婚の原因は、母の浮気だった。
 宮森さんとは再婚で、前の離婚は父の不倫が原因だったのに、その裏切り行為を今度は母がしたのだ。
 相手は、十歳も年下の書店店員さんで。読書が好きな母がその人を知ったのは書店でだったのだけど、図書館で偶然会ってからなんとなく付き合い始めたのだそうだ。
 なんとなく。
 母には宮森さんがいたのに。
 私が宮森姓に慣れてから、まだ二年も経っていないのに。
 ショックだった。父の時もそうだったけど、自分がされて辛かった筈のことをするなんて、信じられなかった。
 宮森さんは優しいから、私が傷付いていると思って、引き取ってくれようとしている。
 母は、その人とは別れたそうだけど、やり直すことを提案してくれたのに、離婚を選んだ。
 どちらかの元へ――母の方へ行くのが正しいのだろう――その選択を迫られた時、私は卒業まで待って欲しいとお願いした。姓が変わるにしても、変わらなくても、もう暫くの間だけは、二人の子供でいたかった。
 母は宮森さんとは暮らせないからと家を出て、宮森さんは、私の気持ちが固まるまではと家を離れて。
 三人で暮らした家に、一人残った私。
 快適な一人暮らし。
 寂しくても、まだ二人と、頼りない糸で繋がっていられる。
 何かあったら連絡するようにと、スマホに登録してある番号が、私の御守り。
 本当は、私なんかいなければ良かったんじゃないかと思ってしまう。
 そうしたら、二人は自由になれるのに……って。

 ガチャガチャ、

「!」

 突然、玄関のドアノブが回される音が聞こえた。
 続いて、誰かが何かを言ったようだけど、驚き過ぎてよく聞こえなかった。

 大丈夫。鍵はちゃんと掛けてある。チェーンだってしてある。だから、お昼前のこんな時間にやって来た泥棒さんでも、入って来れない筈。
 そう考えながらも、パジャマ代わりの部屋着姿で、息をひそめながらドアの様子を窺っていると。

 ガチャリ……シャラン、

「!!」

 鍵の開いた音に続いてチェーンが触れてもいないのに外れる。
 そして開いてしまうドア。
 混乱して硬直する私。そして。

「結菜、喜べ。このルーキフェルが貴様に会いに来てやったぞ!」

 全く悪びれた風もなく、当然のように中に入って来てしまったルーキフェルに、脱力して座り込む。

「何故そんなところで平伏しておるのだ。貴様がそのように出迎える必要はない。面を上げよ」
「平伏してるんじゃなくて、力が抜けたの」
「ほう。我の美しさに腰を抜かしたか。それもまた我が堕天した罪のうちの一つ。目にした者を魅了し、我からの愛を欲して苦しむのだ。すまない、結菜。貴様は供物の娘。既に我のものでありながら、我が愛に飢えるのは、他の者たちと平等なのだ」
「あー……そうですかー……それは残念ですねー」
「心がこもっていないように聞こえるのは、何故なのかの」
「こもってないからじゃないかなー?」
「照れておるのだな。それでは仕方あるまい」
「違います」

 住所を訊かれた覚えがないから、家が知られている筈はない。そう思った矢先にグザファン先生の顔が浮かんだ。
 例え「保健室の」という教科ではない名称が付くにしても、先生は先生。生徒の住所を調べるのは簡単なことだろう。

「あ、ちょっと。ルーキフェル、靴!」

 土足であがっていたルーキフェルに靴を脱がさせると、仕方なくリビングに通して飲み物だけでもと用意をして。

「――――」

 ソファーで寛ぐ美少年の姿に、異性と二人きりなんていう不必要な現状に気付いてしまった私は、急に意識してしまって軽いパニックを起こした末に。

「こ、この家は、男の子はちっちゃい子以外、立ち入り禁止!」

 なんて、もう入っちゃってることを無視して叫んでいた。
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