8 / 25
魔王さま降臨編
魔王さま、訪問?
しおりを挟む休みの日にすることは、先ず、二度寝。一人暮らしだから、多少寝過ぎたって怒られない。勿論、前夜は夜更かし決定だ。
私は現在、宮森の姓を名乗っているけれど、それは高校を卒業するまでだ。その先も名乗りたければ、宮森さんのところに行かなければならない。
血の繋がりはないけれど、引き取ってくれるって言ってくれたから。
両親の離婚の原因は、母の浮気だった。
宮森さんとは再婚で、前の離婚は父の不倫が原因だったのに、その裏切り行為を今度は母がしたのだ。
相手は、十歳も年下の書店店員さんで。読書が好きな母がその人を知ったのは書店でだったのだけど、図書館で偶然会ってからなんとなく付き合い始めたのだそうだ。
なんとなく。
母には宮森さんがいたのに。
私が宮森姓に慣れてから、まだ二年も経っていないのに。
ショックだった。父の時もそうだったけど、自分がされて辛かった筈のことをするなんて、信じられなかった。
宮森さんは優しいから、私が傷付いていると思って、引き取ってくれようとしている。
母は、その人とは別れたそうだけど、やり直すことを提案してくれたのに、離婚を選んだ。
どちらかの元へ――母の方へ行くのが正しいのだろう――その選択を迫られた時、私は卒業まで待って欲しいとお願いした。姓が変わるにしても、変わらなくても、もう暫くの間だけは、二人の子供でいたかった。
母は宮森さんとは暮らせないからと家を出て、宮森さんは、私の気持ちが固まるまではと家を離れて。
三人で暮らした家に、一人残った私。
快適な一人暮らし。
寂しくても、まだ二人と、頼りない糸で繋がっていられる。
何かあったら連絡するようにと、スマホに登録してある番号が、私の御守り。
本当は、私なんかいなければ良かったんじゃないかと思ってしまう。
そうしたら、二人は自由になれるのに……って。
ガチャガチャ、
「!」
突然、玄関のドアノブが回される音が聞こえた。
続いて、誰かが何かを言ったようだけど、驚き過ぎてよく聞こえなかった。
大丈夫。鍵はちゃんと掛けてある。チェーンだってしてある。だから、お昼前のこんな時間にやって来た泥棒さんでも、入って来れない筈。
そう考えながらも、パジャマ代わりの部屋着姿で、息をひそめながらドアの様子を窺っていると。
ガチャリ……シャラン、
「!!」
鍵の開いた音に続いてチェーンが触れてもいないのに外れる。
そして開いてしまうドア。
混乱して硬直する私。そして。
「結菜、喜べ。このルーキフェルが貴様に会いに来てやったぞ!」
全く悪びれた風もなく、当然のように中に入って来てしまったルーキフェルに、脱力して座り込む。
「何故そんなところで平伏しておるのだ。貴様がそのように出迎える必要はない。面を上げよ」
「平伏してるんじゃなくて、力が抜けたの」
「ほう。我の美しさに腰を抜かしたか。それもまた我が堕天した罪のうちの一つ。目にした者を魅了し、我からの愛を欲して苦しむのだ。すまない、結菜。貴様は供物の娘。既に我のものでありながら、我が愛に飢えるのは、他の者たちと平等なのだ」
「あー……そうですかー……それは残念ですねー」
「心がこもっていないように聞こえるのは、何故なのかの」
「こもってないからじゃないかなー?」
「照れておるのだな。それでは仕方あるまい」
「違います」
住所を訊かれた覚えがないから、家が知られている筈はない。そう思った矢先にグザファン先生の顔が浮かんだ。
例え「保健室の」という教科ではない名称が付くにしても、先生は先生。生徒の住所を調べるのは簡単なことだろう。
「あ、ちょっと。ルーキフェル、靴!」
土足であがっていたルーキフェルに靴を脱がさせると、仕方なくリビングに通して飲み物だけでもと用意をして。
「――――」
ソファーで寛ぐ美少年の姿に、異性と二人きりなんていう不必要な現状に気付いてしまった私は、急に意識してしまって軽いパニックを起こした末に。
「こ、この家は、男の子はちっちゃい子以外、立ち入り禁止!」
なんて、もう入っちゃってることを無視して叫んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる