可愛すぎます、魔王さま!

織月せつな

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魔王さま降臨編

魔王さま、赤点?

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 テスト期間に突入した。
 私は、自分だってそれほど成績は良くないけれど(クラス平均の真ん中辺りを行ったり来たり)、それよりも心配なのはルーキフェルのことだった。
 理由は幾つかある。
 先ず、ルーキフェルが編入してきて、まだ一週間も経っていないということ。思いきり中途半端な時に来たものだから、試験範囲の授業なんて殆ど受けていない。
 そもそも、魔王さまが人間の学校に来てることすらおかしいのだから、問題が解けるとも思えない。日本語は話せるし理解しているようだけれど、何故かノートに記された板書が、何処の国のものか分からない文字だったから、数学と英語の先生以外が頭を抱えてしまっていた。日本語で書いて欲しいとお願いする先生に対して、全く悪びれた様子もなく「心眼を極めよ。我の言葉が耳で理解出来るならば、文字が読めぬ筈はない」なんて、おかしなこと言っちゃうのだから、先生たちが可哀想だ。
 その時おまけに「Abeunt studia in mores.アベウント・ストゥディア・イン・モーレース(熱心に学ぶ姿勢はやがて習慣として定着する)」なんて言葉を書いた紙を渡されてしまった先生たちが、ちょっと涙目で途方に暮れていたことを思い出すと、胸が痛い。

 しかし、そんなことは試験では通用しないので、ルーキフェルは現在日本語を書くお勉強をしている。
 何故かまた小さな姿で。
 グザファンの前では元に戻るのだけど、基本この姿だ。どうやらみんながやたらとルーキフェルに好意的なのは、この省エネモードになると発動する庇護欲を強制的に抱かせる能力の所為らしい。
 ルーキフェル曰く、そんな能力が発動しなくても、自分の美しさに服従しない者が存在する訳がない。ということなんだけど、いるよね? 能力発動してても効果ない人。

「また残ってらっしゃるのですか?」
「!」

 ちょうど思い浮かべた人の声がすると、ドキリとする。
 私とルーキフェルしかいなくなった教室に、ひょっこりと現れたのは、ぷにっ子になったルーキフェルに、愛情の欠片もなく接する、魔王さまの側近ことグザファン先生だ。
 そう、先生。何故かいつの間にか保健室の先生として、校内に馴染んでいた。
 スーツの上に白衣を羽織り、理知的と評判の美貌にアクセントとして伊達眼鏡を掛けているのが、どういう訳か色っぽい。

「そのようなことをなさらずとも、ここへ潜り込んだ時と同様になされば宜しいのでは?」

 あれ。意地悪しないでルーキフェルの相手してる。おかしいな、と思いながら視線を向ければ、ぷにっ子から元の姿(翼なし)になっている。
 グザファン先生の気配を素早く察知して変身したんだろうけど、二人の関係性がいまいち飲み込めない。
 魔王さまの方が側近より偉い筈なのに、ただ小さくなっただけで態度が真逆になるとか、有り得る?

「我は魔王だぞ? 不可能であったものを可能とする術を身に付けることに、手を抜くことなどするものか。Abeunt studia in mores! 故に我は励むのだ。その習慣こそが力となる」
「ご立派でございます」

 …………。
 私も勉強しようかな。
 ひらがなについては見て覚えたらしいルーキフェルは、既に簡単な漢字を幾つか書けるようになっている。人間じゃないから頭脳面でも出来が違うんだろうか。
 そんな風に考えたら、拗ねて投げ遣りになりそうだけど、先生に与えられた書き取りプリントを懸命にやっている姿を見れば、努力もしてるからこそなんだなと思える。

「ある一定のラインより点数が下回ると、赤点と言って、それはそれは恐ろしく屈辱的な罰を与えられるのだそうです。わたしは心より応援申し上げることしか出来ませんが、心配には及ばないことと信じております」
「うっ……」

 嘘を交えたプレッシャーに、さすがのルーキフェルも不安になったのか、書き取りの手を止めてグザファン先生を睨む。
 睨まれた方のグザファン先生は、愉しげに微笑み、存在感という圧力にルーキフェルが屈して書き取りを投げ出すまで、私も苦手な数学の教科書と睨めっこをするのだった。

 ――――その後、古文で壊滅的な点数を取ってしまったルーキフェルは、グザファン先生から何やら屈辱的なことをされたとか、されなかったとか。
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