可愛すぎます、魔王さま!

織月せつな

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魔王さま降臨編

魔王さまの、側近? ②

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「ルー……キフェル?」

 信じられない思いで呼び掛けると、ルーキフェルが私を見下ろして微笑む。
 見覚えはあるけど、見慣れてはいないその美貌がすぐ間近にあって、鼓動が跳ねた。

「グザファン、この娘は『供物』の娘だ。我がどう扱おうと、貴様に赦しを得る必要などない」

 そっと私を下ろし、グザファンへと向けた視線は、恐ろしいまでに冷たい。
 もしかして仲悪いの? と考えていると、それまでルーキフェルに乱暴を働いていたとは思えない程、グザファンが恭しく頭を垂れ、跪く。

「その美しいお姿のあなたこそ、わたしの主君でございます。あなたの成すことは全て世界の理。しかし、そちらの娘を『供物』とするなら、何故その魂を召し上がらなかったのかと疑問を抱いてしまうのも、無理なきこととご理解を賜りたく」

 言いながらルーキフェルを見上げるグザファン。その表情もまた先程までのとは打って変わって、眩しく愛しいものでも見るように穏やかで柔らかい。

 それにしても、さっきからよく分からない話をしている。
 私に楔を打ち込んだとか、ルーキフェルがグザファンの主君とか、魂を食べる(?)とか。
 楔ってあれでしょ? 何かの隙間に入れるやつ。一瞬イメージしたのが何故か杭だったんだけど、本当に何でだろう。グザファンの見た目がなんとなくアニメで観たイケメンの吸血鬼に似てるからかな。スーツ姿に白衣を羽織ってるところも、そのキャラクターにそっくりだ。

「我がこの地に降りた時、そこにはこの娘しかいなかった。我らが白き存在であった頃には、奇跡を起こすより先に、求めてはおらぬ命の犠牲まで捧げられたというのに。人は奇跡の対価に他のモノの命を平然と奪った。人は知らねばならん。命を喪うことの意味を。――それは滅びだ。大切なものを見誤れば、それがどれだけ小さきものでも崩壊に繋がる。故に我は見定めねばならない。この世界が滅びるべきか否かを、この娘を通してな」

 思いがけない話だった。
 ちゃんと理解して、というか、受け入れるには、現実離れしているから、あまり深く考えない方がいいのだろうと思っていた。
 黒くて大きな卵が、何処か高いところから落ちてきて、中からルーキフェルが出て来たとか。背中に翼が生えてるとか。幼児の姿というより少年の姿を圧縮したようなぷにっ子になったり。
 そういう非現実的なことが立て続けに起きたりしたら、誰だって混乱するし、直視しないで現実逃避する人もいると思う。
 この学校の人はだいたいルーキフェルを受け入れてるようだけど、もしかしたらそういった作用のある魔法を使っているんじゃないだろうか。
 だから、ルーキフェルが世界を滅ぼすなんてことを言っても、みんな平然としていたんじゃないかな。
 ルーキフェルの過去に、人との間に何かあったみたいだけど、みんなと楽しく過ごせば、少しは気が晴れるかもしれない。

「ならばこそ、わたしはあなたの傍らにおりましょう。魔王の側近であるわたしには、あなたがお決めになることの経緯を把握しなければなりませんから」
「……好きにしろ」
「はい。――ですが、その前に」
「ひゃいっ!?」

 ルーキフェルからお許しを得て、場が和やかになったかなと思ったところで、立ち上がったグザファンが私の顎を掴む。

「またあのような姿になられては困りますので、精気の摂取は怠らないで下さい」
「ふぎゃっ」

 今度はルーキフェルの方へ首根っこを掴まれて放られた為、また変な声が出てしまう。

「その必要はない」

 よろけた私を抱き止めて、何故か猫にするように私の喉を撫でながらルーキフェルが言う。

「楔によって繋がっておるからの。先程、この娘の……結菜の気に入っているものを口にしたから、こうしてこの姿になれたのだ。後は暫くこうしておれば、結菜に害を与えずとも回復は可能だ」
「!」

 ぎゅっと抱き締められたことに驚いたけれど、それよりもっと驚いたのは、ルーキフェルが私の名を呼んだからだ。
 今までずっと「供物の娘」だったのに。こんな不意打ちは心臓に悪い。

 害を与えずとも、なんて言って、十分与えてるんですけど?

 そして心臓に悪いと言えばもう一つ。
 ルーキフェルの腕から逃れようとして、たまたま視界に入ったグザファンの私を見る目が怖すぎて、おとなしく抱き締められておくことにした。
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