可愛すぎます、魔王さま!

織月せつな

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魔王さま降臨編

魔王さま、お目覚め?

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 グザファン先生が椅子を引いて、私に座るよう促す。
 泣き続けた疲労感から立てないでいると、ひょい、と担がれて座らされた。
 その時、黒炎の翼に顔を埋める形になったけれど、熱くもなかったし、嫌な感じにもならなかった。

「お願いって……痛いことですか?」

 弱ったルーキフェルに心臓を捧げるとかいうのは嘘だったとして。けれど、グザファン先生のこともあって、ルーキフェルの魔力不足は結構深刻なものなんだというのは、本当なんだと思う。だから、私が死ななくてもいい方法で、ルーキフェルを助ける何かを求められるのだと思った。
 先回りして言ったのは、それは避けて欲しいという、こちらからのお願いだ。

「まあ、やり方によりますかねえ」

 先生もよく分からないのか、考えながら答えるような、のんびりした調子で言われ、大丈夫そうだと判断する。

「痛くして欲しいと仰るのであれば、そう致しますが」
「優しくして下さい」

 ここではっきり断っておかないと、この人ならやりかねない。

「優しくして差し上げれば、構わないということですね?」
「何でもという訳では……」

 ない。――そこまで言葉に出来なかった。

 ギシッ、と二人分の体重が掛かって、椅子が軋む。
 先生の肩が目の前にある。黒炎がさっきより激しさを増して燃え盛る様子も間近に見えた。
 担ぎ上げられた時とは違う、正面から抱き締められた温もり。
 怖いと思ったのは、一瞬。落ち着くように感じられるのは、先生の手が私の頭を撫でてくれているからだろうか。

「……」

 耳元で、先生の呼吸を感じる。

「どうか――」

 甘い痺れを植え付けるような声に、身体が微かに震えた。

「あなたの心に、わたしを宿して下さい」
「――」
「あなたにはもう楔は打てない。無理に打とうとすれば、ルーキフェルの楔にヒビが生じ、やがては砕けてしまうでしょう。ですから、わたしからは見えない印を……」

 ――――えっ?

 首筋に吐息が下りてきたかと思うと、生温かいものが触れて、ほんの僅かに這う感触があった。

「ここは、ルーキフェルのものですから」

 身を離した先生の指が、私の唇を撫でる。
 同時に、自分が何をされたのかに気付き、一気に熱が顔に集中した。

「よい反応ですね」

 満足そうに笑うグザファン先生の微笑みが優しくて、綺麗で、眩暈がする。

「やはり、あなたの代わりとなれる者など、見繕おうとしたこと自体が間違いだったのですね」

 そんな、よく分からないことを言って、先生の手が私の頬を撫でた。
 その時。

「ふん。そのようなこと、考えるまでもないだろう。だから貴様は面倒だと言うのだ」
「!」

 シャッ、とカーテンが開けられ、少年の姿のルーキフェルが現れる。
 びっくりしてドキリとした後の後ろめたいような気分はなんなのだろう。先生にされたことを、もしかしたら見られていたかもしれないという恥ずかしさからだろうか。

「ルーキフェル。いつから起きていらっしゃったのです?」
「問題はそこではないぞ、グザファン」

 ルーキフェルはこちらに来ると、私の腕を引いて立ち上がらせて抱き寄せる。

「貴様が結菜を気に入っていたのは知っていたが、手を出されるのは正直、面白くない」
「……」
「炎の調節も出来ん未熟者は、我と同じになればよいのだ」
「まさか」

 グザファン先生の顔が青ざめる。
 ふふん、と楽しげに笑ったルーキフェルが、先生へと手を翳すと。

 ポンッ!

 弾けるような音と共に、先生の姿が目の前から消えて。
 ルーキフェルの目線を追ってその姿を探すと、省エネモードのルーキフェル同様、ぷにっ子になったグザファン先生が。

「なんということだ……」

 愕然とし、膝をついて項垂れる。

 本当に、本当に大変申し訳ないのだけれど、そんなぷにっ子先生を可愛いと思ってしまった。
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