可愛すぎます、魔王さま!

織月せつな

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魔王さま降臨編

魔王さま、心変わり?

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 ここのところ、私がちょっとぷんすかしている。
 ルーキフェルが構ってくれないのだ。ええ、全く。
 別に存在を無視されている訳じゃないから、挨拶は返してくれるし、気が向くと傍に来てくれるけど、すぐに何処かに行ってしまう。
 保健室に行ってもグザファン先生と会えないこともあって、何だか急に嫌われてしまったみたいで、悲しい。
 確かに私、ルーキフェルのぷにぷにのほっぺを、うにうにと結構長い間無心で揉んでしまうという、された方にとっては嫌がらせに思えるようなことをしてしまったし。抱っこして眠ってしまった時は、うっかりルーキフェルの頭に涎を垂らしてしまったかもしれないし。他にも何かしてはいけないことをしちゃったかもしれないけれど。
 でも、だったら言ってくれれば良かったのに。そしたら、謝ることくらいなら出来た。言ってくれなきゃ、謝ることも出来ない。
 これまでのことは何だったのかなと思うと、悲しくて、寂しくて。でも泣いたりしたくなかったから、逆ギレみたいにぷんすかすることにしたのだ。

「これは、アレだね」

 休み時間になって、ふらふらと教室を出て行くルーキフェルの背中を見送っていると、前の席の文音ちゃんが唐突に言う。

「浮気だよ」
「浮気……って」

 何言ってるの、と笑おうとして、上手く笑えなかった。
 浮気、なんて。私とルーキフェルはそんな関係じゃないし、堕天使で魔王のルーキフェルが私にそんな感情を抱く筈もない。
 抱き締めて来たりするのだって、魔力の回復の為にしていることなのだから、私以外にそういうことに向いている人がいたら、躊躇なくそっちに行くだろう。
 それに「浮気」なんて言葉、出来れば耳にしたくなかった。

「だって、最近ずっとでしょ? 隣のクラスの沙藤さんのところに行ってるの」
「……え?」
「グザファン先生に見付かると離されちゃうから、あちこち移動してコソコソ会ってるところが、また怪しいよね」
「――」

 だから、保健室にいないんだ。
 先生については、それが分かっただけで安心した。ルーキフェルを追うのに必死なら、私なんかの相手をしている場合じゃないから。
 でも、ルーキフェルは。
 沙藤さんの不思議な言動に惹かれたのかな。沙藤さんに魔力はないって話だったけど、本当はあったとか? どちらにしても、ルーキフェルが私から離れていくなら、供物の娘とか楔とか、そういうこともなくなるんだろうな。

 それは、いいことだ。
 そうだよ、いいことなんだよ。

 無理にでもそう思っていないと……本当に泣いてしまいそう。

 文音ちゃんの言葉が頭から離れなかったからか、次の休み時間は私の傍に来たけれど、こっちから廊下に出て離れた。
 そして放課後になって、どうせ保健室に行ってもがっかりするだけだからと、何処にも寄らずに帰ろうとすると。

「やあ、盟約者殿」

 沙藤さんが、妙な肩書きで私を呼んだ。

「宮森結菜ですよ」

 言外に、そんな呼び方しないで欲しいと訴えたつもりだった。

「僕がルシファーと会っていることに、嫉妬はしないのかい?」
「…………」
「ふふ。可愛い人だね。僕がルシファーから魔王の座を奪った時は、君のことも奪ってしまおう。あの忠臣殿もきっと悔しがるだろうからね」
「……」
「では、これから彼に会わなければならないから、失礼するよ」

 言うだけ言って、去っていく。
 その向かう先にルーキフェルがいるのだろうけど、追う気にはなれなかった。

「……あれ?」

 気が付くと、さっき沙藤さんが立っていた辺りに本が落ちていた。
 この猫の刺繍がされているカバーには見覚えがある。沙藤さんのだ。

「――っ」

 手にした瞬間、ガツンと頭を殴られたような痛みが生じて、本を落としそうになる。
 何を読んでいたのか気になっていたから、勝手に中を見させて貰うことにした。

「やさしい黒魔術入門?」

 思わずタイトルを読み上げてしまった。
 これは違う。沙藤さんのものじゃない。
 イメージと違っていたから否定してみたけど、さっきみたいな感じの沙藤さんなら、読むかもしれない。
 それにしても変な本だ。入門書とか実用(?)的なものだからと、作者も出版社も記されていないなんてことはあるんだろうか。
 それに、持ってるだけで気分が悪くなるような。
 そんなことは気の所為だろうと、追う気はないけど本は返したいからどうしよう? と考えていると。

「こんなもの、何処で手に入れたんです?」

 ぷにっ子から元に戻っていたグザファン先生が、いつの間にか私の手から本を取り上げ、険しい表情でこちらを見下ろしていた。

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